歌声のとなりで


第2話 保健室

保健室のカーテンが静かに閉まる。

ベッドの上には、安藤琥怕が横になっていた。

「軽い貧血だね。少し休めば大丈夫」

保健の先生はそう言って、安藤の額に冷たいタオルを置いた。

「奥本くん、ありがとう。ここにいてあげて」

「はい」

先生が席に戻ると、保健室は急に静かになった。

俺――奥本淕怕は、ベッドの横の椅子に座る。

「……」

正直、何を話せばいいのかわからない。

一年のときも同じクラスだったけど、
まともに話したことはなかった。

そのとき。

「奥本」

小さな声が聞こえた。

見ると、安藤が目を開けていた。

「起きたのか」

「うん」

少し弱そうに笑う。

「ごめん」

「またそれ?」

思わず言うと、安藤は少し驚いた顔をした。

「倒れたやつが謝んなってさっき言っただろ」

そう言うと、安藤は少しだけ笑った。

「……ありがとう」

静かな声だった。

少しだけ間が空く。

そのあと安藤が言った。

「奥本って、サッカー部だよね」

「え?」

思わず顔を上げる。

「なんで知ってるんだ」

「見たことある」

「グラウンドで練習してるとき」

安藤はそう言って、天井を見上げた。

「走るの速いよね」

「……よく見てるな」

そう言うと、安藤は少しだけ目を細めた。

「なんとなく、目に入るから」

その言い方が、少しだけ気になった。

「奥本」

「ん?」

「合唱コンクール、優勝したい?」

急にそんなことを聞かれる。

「どうだろうな」

正直、そこまで考えてなかった。

すると安藤はゆっくり起き上がった。

「俺は、ちゃんと歌いたい」

その声は、静かだけどまっすぐだった。

「だから」

少しだけこっちを見る。

「もしよかったら、練習付き合って」

「放課後とか」

「二人で」

思わず聞き返す。

「二人で?」

「うん」

安藤は小さく笑った。

「奥本と歌うと、なんか安心する」

そんなこと言われて、少し戸惑う。

でも——

「……いいけど」

そう答えると、

安藤は少しだけ嬉しそうに笑った。

「よかった」


その笑顔を見たとき。

なぜか胸が少しだけドキッとした。

まだそのときは、
理由なんてわからなかったけど。