第11話 合唱コンクール直前
合唱コンクールまで、あと三日。
クラスの練習も、だんだん本気になってきていた。
でも。
俺――奥本淕怕と、安藤琥怕の間には
少しだけ気まずい空気が残っていた。
放課後の音楽室。
クラスのみんなが帰っていく。
残ったのは、俺と安藤だけだった。
安藤は窓の近くで楽譜を見ている。
俺は少し迷ってから声をかけた。
「安藤」
「……」
安藤が顔を上げる。
静かな目。
「この前のことだけど」
俺は言葉を探す。
「避けてたわけじゃない」
安藤は黙って聞いている。
「お前、体弱いだろ」
「また倒れたら嫌だと思って」
「だから少し距離とった」
そう言うと、
安藤は少しだけ目を見開いた。
「……心配してたの?」
「当たり前だろ」
思わず言う。
「俺の前で二回も倒れてんだぞ」
少し沈黙が流れる。
すると安藤が小さく笑った。
「奥本って」
「ほんと優しいね」
「別に」
そう言うと、
安藤は少し近づいてきた。
「でも」
「俺は」
少しだけ目を伏せる。
「奥本と練習する時間、好きだった」
その言葉に胸がドキッとする。
安藤は続ける。
「だから」
「避けられてるのかと思った」
その声が少し寂しそうで。
俺は思わず言った。
「違うって」
「……むしろ」
言葉が止まる。
でももうごまかせない。
「最近さ」
「安藤のこと、めっちゃ気になる」
安藤が驚いた顔をする。
俺は続ける。
「なんかお前が女子と話してると」
「ちょっと嫌だし」
「倒れたら心配だし」
「……」
言いながら思う。
これってたぶん。
「……好きなのかも」
その言葉を聞いた瞬間。
安藤の目が大きくなった。
音楽室は静かだった。
外の夕焼けが、窓から差し込んでいる。
その中で安藤はゆっくり言った。
「奥本」
「俺も」
その続きは――
まだ言わなかった。
ただ、少しだけ優しく笑った。
「合唱コンクール、終わったら」
「話そう」


