【完結】イケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた


 ふたりで風呂をでると待っていたみたいにたっくんがダイニングのほうからやってきた。そして、「ナツ、ちょっと話あんだけど」と俺に言ってくる。

「うん、じゃあ――」

 聖夜には先に部屋にもどっていてもらおう。そう思ったとき、聖夜が俺の肩に腕をまわしてきた。たっくんを牽制するみたいに。

 たっくんは表情を硬くする。

「なに? ナツとふたりになりたいなら俺の許可取ってもらっていいかな」
「……なんでだよ。おまえにそんなこと言われる筋合いないだろ」
「あるって言ったら?」
「はぁ?」

 風呂上がりだから聖夜の体も熱い。のぼせて変になってるんじゃないかと俺は「聖夜」と彼を止めた。
 ダメだって、と彼にささやく。

「どうして? 公表すればだれもナツに近づかなくなるよ?」
「だ、だって……」

 男同士だし。聖夜とつきあってるって知られたら女子に嫉妬されそうだし。

「なんの話してんだよ」とたっくんが俺たちをにらむ。「なんでもない」と俺は聖夜の体を押して自分から離した。

「とにかくこのことはしばらく秘密で――聖夜、先部屋もどってて」
「…………」
「聖夜」
「……あとでなにかご褒美くれる?」
「う……」

 なんで。なんで先に部屋もどっててもらうだけでそうなるんだ……!

 でもたっくんが変な顔してるし、聖夜がそばにいたらそのうちボロをだしかねない。俺が。
「わかった、わかったから!」と俺は急いで言った。

 聖夜は嬉しそうに笑う。

「じゃあ先に帰ってる。……ナツになにしてもらおうかな……」
「待て待て待て、なんでもするわけじゃないからな! 限度ってあるからな!?」

 見るからに浮かれたその背中に叫んだけど絶対聞いてなかった。でてるぞ、強引なとこ。
 たっくんは聖夜がいなくなるのを待ってから「……あいつとふたりでなんともなかったか?」と聞いてきた。

 あった。
 あるかないかで言ったら、がっつりあった。

 でも聖夜とつきあうことになってキスまでしたなんて言えるわけない。
 たっくんが周りに言いふらすことはないと思うけど――でも、たっくんってなんだか聖夜と仲悪いし。これ以上なにかあったら同好会の空気が悪くなりそうだ。

 もうちょっと様子を見てから話そう、と俺は決める。

「なんともって。たっくんさ、聖夜のことなんだと思ってるんだよ」
「腹黒優等生」

 あってる。
 あってるかあってないかで言ったら、がっつりあってる。

「……でもとにかくなんともなかったから。聖夜のおかげでこんなにはやく帰ってこれたし」
「ああ、うん――」

 俺がそう言うなりたっくんはしゅんとしてしまった。
「俺、ほんと役に立たないよな……」と床を見つめてつぶやく。なんで、と聞きかえしてしまった。

「俺だってナツのこと捜しにいきたかったのに……新田先輩の伯父さんに夜に出歩くのだけはやめろって言われて納得しちまったんだ。……でも緒川はちがった。ひとりでナツを捜しにいこうとして、懐中電灯を取りあげられて部屋に閉じこめられてもあきらめなかった。
 あいつが窓から抜けだすなんて思ってもみなかったし……正直、負けたって思った。俺にはそこまでできなかったから。……あいつよりも俺のほうがナツとのつきあい長いのに……俺のほうがナツのこと大事にしてるって思ってたのに……。しかもナツのこと守るって言ったばっかりなのにさ。なんか、情けなくて」
「そんなことないよ」
「あるだろ。……だから、ほんと、悔しいけど。ナツが緒川と一緒にいても……文句つけちゃダメなのかな、って……」

 俺はさっきのことを思いかえす。

「つい一分前に聖夜に噛みついてなかった?」
「それはそれこれはこれだろ!? 男同士のくせにナツにべたべたしやがってしかもあいつ俺に見せつけてきやがって俺だってできるなら――」
「……できるなら?」
「とにかく!」

 たっくんは思いきったように顔をあげた。そして両手で俺の肩をつかんでくる。

「ナツが無事でよかった。緒川のことはむかつくけど。――そんだけ」
「……うん。ありがと」
「…………」

 なぜか彼は変なものでも食べたかのような顔をした。ただでさえ鋭い目を細めて俺の顔をじろじろ見てくる。
「どした?」と俺が聞くと、「いや、なんか」と首をひねる。

「ナツ、なんか雰囲気変わったか……?」
「――気のせい! 絶対絶対気のせいだから!」




 部屋に帰ってあらためて先輩たちに謝罪して――ほんとは俺がやるって言ったんだけど――みんなで和室に布団をならべていく。
 先輩ふたりは奥の二組。そうなると、俺たち二年が手前に敷いた三組を使うことになるんだけど――

「…………」
「…………」

 なんで聖夜とたっくんがにらみあってるんだろう……。

「……おまえ、ナツの隣はやめろよ。つかほかの部屋で寝ろ。わかったな」
「困るな、自分がナツの隣で寝たいからって俺を追いだそうとするなんて」
「ばっ、だれが、」
「ちなみに俺がほかの部屋に移るならナツも連れてくけど。いい?」
「いいわけあるか! もうおまえだけ家帰れ!」
「夏稀ー、こいつら面倒くさいから適当に話つけちゃってー」

 鳥見橋先輩が自分の布団の上から俺に命令してくる。面倒くさいって。
 まったく、と俺は溜め息をついた。

「俺が真ん中で寝るよ。それでいいだろ」
「…………」
「…………」
「不満そうな顔しない! さっさと寝る!」

 俺の右隣りに聖夜、左にたっくんという配置で一応落ちついた。
 明かり消すぞ、と新田先輩に言われたので「あ、一瞬待ってください」と俺はだれかがちゃぶ台に置いてくれてあったスマホをチェックする。

 聖夜から三十件ラインがきていた。
 あ、そっか、こんなに心配かけて――と思ったけど送信時間はほんの十分くらい前。俺がたっくんと話してたときだ。

「えぇ……」

 いや、俺が部屋帰ってきてから直接言えよ。なんなんだよ。
「夏稀?」と新田先輩が困っているけど内容が気になる。すみません、と謝りつつ俺はラインを開いて――

『あいたい』『ナツがいないとつまらない』『まだ?』『はやく』『ひま』『ナツ、好き』……という面倒くさい彼氏みたいなラインに頭をかかえたのだった。

 いや、面倒くさい彼氏そのものじゃん。

 聖夜をにらむと素知らぬ顔で微笑みかえしてくる。どうなってるんだよ、こいつの神経。なんでそんなメンズ雑誌の表紙に載ってるアイドルみたいな完璧な笑顔ができるんだよ。

 ――俺、ひょっとしてハードモードに足を踏みいれようとしているんじゃ……?

 そう思いながら画面をざっとスクロールする。そして、最後に送られてきたラインを見てあやうくスマホを落としそうになった。

『ご褒美決まった』
『俺が寝てるあいだに頬にキスして』

 ……果たして俺がそれを実行できたのかどうかはおいておくとして――

 


 翌朝。朝食のあと、みんなで帰り支度をしていたら俺のスマホが鳴った。
 画面を見ると――登録はされていない、でも見覚えのある番号。心臓が縮んだけど、でも無視はできない。……したくない。

 俺はスマホを持って廊下の奥まで移動した。深呼吸をしたあとで通話ボタンをスライドする。

「……はい」
『綿辺?』
「…………」

 聞こえてきたのは昨日と同じ声。それは俺を委縮させるけれど、でも――昨日ほどじゃなかった。

 自分の過去も。過ちも。俺は受けとめるって決めたんだから。

『悪かった』

 そう思っていたから、原田の言葉は意外だった。「え?」と俺は聞きかえす。
 原田はすこし気まずそうに沈黙したあと、

『昨日。悪かった。電話のあとで頭冷やした。……べつに綿辺は悪くねえ。俺がガキだっただけだ。そんだけ言っておこうと思って』
「あ――」

 あっけに取られたけど、これを逃したら二度と原田と話す機会なんてこないだろう。俺は急いで「俺も。あのときはごめん」と言った。

「言いすぎだったって反省してる。ごめん」
『……ああ』

 原田は低く笑った。お互いにガキの頃のこと引きずって、バカみてぇだな。

『もう忘れようぜ』

 俺がそれに返事をする前に電話は切れてしまったけれど。

 俺の過去にひとつ決着がついたことだけは、はっきりとわかった。

 


 そして、八月。
 色々あったゲーム合宿を経て俺たちは全国大会に臨んだ。俺だけパズルゲーム部門の二回戦負けというなんとも言えない記録だったけれど、でも全力をだしたから悔いはない。

 みんな自分の得意分野で活躍し、なんと聖夜はシューティングゲーム部門で堂々の優勝を果たした。しかも歴代最高得点。
 彼の優勝が決まったときの会場の盛りあがりは地鳴りでも起きているかのようで――でも、それ以上にざわついたのが試合後のインタビューだった。

 ……ちなみにこのインタビューは大会の公式チャンネルでライブ配信されている。これは毎年恒例だ。
 ただし今年はイケメンすぎる男子高校生が歴戦のスナイパーのようなハイレベルの射的を見せているとSNSでバズり、同接は一万人を超えていた。

 恐ろしい話だ。一万人。
 インタビュアーから『こんなにたくさんの視聴者さんが見てくれてたんですよ』と言われた聖夜は、カメラ目線でありがとうございますと笑顔でお礼を言ったあとで。 

 客席から見守っていた俺に向けてにっこり微笑んだあと、こうつづけたのだった。

『俺の恋人がそばで応援してくれていたから勝てました』――と。