【完結】イケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた


 新田(にった)先輩の親戚がやっているという旅館は隣のY県の高原にあった。

 自然豊かなことで有名なY県だけあって、夏の風に吹かれる芝生は瑞々しく旅館の背後に広がる山々は雄大な絵みたいだ。七月でも空気は凜と澄んでいて心地いい。近くには牧場もあった。
 旅館自体は年代ものって感じがしたけれど、これはこれで趣があっていい。

 ここまでは新田先輩の伯父さんが車で送ってくれた。四角張った顔とガタイのよさは先輩とよく似ている。
 ゲームなんてやめて外で遊んでこいとか言いそうな見た目だけど(偏見)、「若いときに夢中になれることがあるってのはいいことだ。大会、休み取って行くからな」と車内で言ってくれて嬉しかった。

「じゃ、俺たちの部屋はこっちね」と伯母さんに出迎えてもらったあと、なぜか鳥見橋(とりみばし)先輩が二階の一番奥の部屋まで俺たちを連れていく。

 十畳はありそうな和室だった。日に焼けた畳がなんだか懐かしい。ちゃぶ台には花柄のポットと伏せられた湯飲み茶碗、スティックタイプの緑茶と地元の銘菓が用意されている。

「なんか実家感あるよな」とたっくんが俺に言う。
 ちなみに彼は車内では俺の隣に座っていて、いまもすぐ横にいる。まるで聖夜からガードするみたいに。

 ――聖夜と東京で一泊したって聞いたら、俺、なんか鬼責めされそう……

 けっきょくあの夜のことは言えなかった。たっくんだけじゃなくて、……だれにも。

「ああ、実家だと思ってくつろいでくれていいから」と新田先輩が隅に積まれていた座布団を畳に適当に放りながら言う。俺とたっくんはあわてて「そういうのは俺たちがやりますから」と止めた。

「いやいや、そういうのは新田に任せておけばいいよ。ね、聖夜」
「わかります」と聖夜はちゃっかり座布団を敷いて鳥見橋先輩とちゃぶ台の前に座っている。

「聖夜も後輩だろ! くつろいでないで手伝えよ!」
「いいって、夏稀。それより休憩しようぜ」
「茶も俺たちが淹れるっす。先輩、休んでてください」
「そうか?」

 俺とたっくんに止められ、新田先輩はやっと座布団の上に落ちついてくれる。中学時代バスケ部でいまは手芸部とうちをかけもちしている彼は、謎に腰が低い。身長は一番高いのに。

「あらためて方針を確認しておこう」とみんなが一息ついたところで新田先輩が言う。

「今年の大会は俺たちにとって大事な節目になる。聖夜が入ってくれて部に昇格できる最低人数の五人になったからだ。ここで結果を残せば昇格も夢じゃない」
「はい」と俺たちはうなずく。会長の鳥見橋先輩は「あ、これうま」とサブレを食べている。

「まずは各自の得意ジャンルをはっきりさせておこう。聖夜はオールマイティにこなせるが、射的が秀でている。拓虎は音感が優れていてリズムゲームに強い。夏稀は……」
「…………」
「夏稀は……いると……癒やされるからな……。鳥見橋はパズルゲーム、俺はアクション。見事にジャンルがばらけているが、これは強みだ」

 なんか俺だけすごい言葉をえらばれた気がするけど、ツッコむ場面ではないので真面目に聞いておく。

「なので今年は団体戦にはエントリーせずに個人戦で成果をだそう。ひとりでも好成績を残ればそれは立派な活動実績になるはずだ。なにか意見は?」

 新田先輩は俺たちを見まわす。
「特になさそうだな」と副会長の彼がまとめて、俺たちはこの二日間のスケジュールを確認しあった。




「視界を広く持って。一点を見つめるとぶれるからもっと」
「だからナツに近付くなっつーの!」

 昼飯はここにくる途中のサービスエリアで済ませてきていた。外は快晴だけど、べつにアウトドア派ではない俺たちは夕飯の時間まで部屋にこもって各自特訓をする。

 俺は新田先輩から特に得意ジャンルはないと言われたようなものなので、聖夜に射的を教えてもらうことになった。たっくんはリズムゲーなら教えられるけど、と言ってくれたけどだれかに教わるなら射的のほうがやりやすい。

 持ちこんだ携帯ゲーム機を操作していると、隣にいる聖夜が俺を後ろから抱きしめるようにして俺の手に自分の手をかぶせてくる。――のを見て、タブレットでリズムゲーをしていたたっくんがキレたのだった。

 聖夜は俺の後ろでにこりと笑ったらしい。

「どうして? 俺はナツにいいやりかたを教えてあげてるだけだよ?」
「そんなにくっつかなくてもできんだろ!」
「このほうがやりやすいんだよ。――エイムがぶれる問題だけど、力を一定にかけることが大事で……」
「離れろっつてんだよ!」

 聖夜に抱きつかれてどきどきしちゃう…! とかヒロインちっくなことを考えている余裕もなかった。「聖夜、大丈夫だから」と俺が彼の腕をそっとほどこうとしたとき、「どうして?」と逆に強く拘束される。

「大会で買って実績残したいんだよね? なら俺の言うこと聞いて」
「は、はい……」
「だーかーらぁ! くっつきすぎだっつうの!」

 ちなみに先輩たちは完全に静観。
「これあれだよねー、玉露」「煎茶としか書いてないが」とゲーム機から目を離さずぽつぽつ会話している。助けてほしい。

「……ナツ、なにかいい匂いする。シャワー浴びてから来たの?」
「寝てるときに汗掻いたから……それで……」
「ナツにセクハラしてんじゃねーよ!」

 ただでさえ目つきの鋭いたっくんににらまれても聖夜はノーダメ。
 このおそろしいやりとりは夕飯の時間だと新田先輩の伯母さんが呼びにきてくれるまでつづいたのだった。



 聖夜から解放されるなりたっくんが俺の腕をつかんできた。侵入者に吠える番犬みたいな顔で「二度とナツにさわんなよ」と聖夜に言う。聖夜は「気をつけるね」と流した。怖い。

 携帯ゲーム機を充電器にさして、みんなで一階の食堂に移動しようとしたとき「夏稀、なんかスマホ鳴ってるみたいだけど」と壁にまとめて寄せておいたバッグのそばにいた鳥見橋先輩が教えてくれた。ありがとうございます、と俺はたっくんから離れてバッグからスマホを取りだす。

 知らない番号からの電話だった。首をひねっていると、「先行ってるな」と新田先輩に声をかけられる。あ、はい、と俺は返事をした。
 みんながでていって、ぱたりとふすまが閉められる。

 俺は迷ったけれど――
 あんまりにも長く電話が鳴っているから、相手がだれかたしかめたい気持ちで通話ボタンをスライドした。

 聞こえてきたのは知らない男の声。

『……綿辺?』

 なぜか俺の名字を知っている男は言う。不快そうに。

『俺――おまえのこと、一生許さないから』