【完結】イケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた


 翌朝、やっぱり聖夜はなんでもない顔をしていた。
 レストランのモーニングはバイキング形式で、和洋中どこのコーナーを見てもレベルの高い料理が並んでいたけれど、最低限胃袋を満たすだけしか俺は皿に取れなかった。聖夜もたいして食べていなかった。

 ――自分が振った相手との朝って、こんな感じなんだ。

 聖夜はふつうに振るまってくれてるけど、それが空元気なのはさすがにわかる。俺たちは言葉少なに帰る支度をして、俺が駅の売店で家族とたっくんへの土産を買ったあとで新幹線に乗りこんだ。

「長旅で疲れたよね。午後の映画はキャンセルしておくから、また日を改めて観にいこう」
「あ、……うん。ごめん」
「気にしないで」

 こんなときでも聖夜は俺を気遣う。……こうして周りを気遣わなければ、家での居場所を確保できなかったのかもしれない。そう考えるとつらかった。

 聖夜はやがてまぶたを閉じたので、俺も寝ているふりをする。
 これからは友達として彼を支えていけたら。虫のいい考えかもしれないけど、それがいまの俺の気持ちだった。

 彼にいやがらせをされたことはまだ覚えているけど。
 聖夜はきっと――そういう形でしか俺を求められない。
 小学生のとき、周りに暴力を振るうことで他人と繋がろうとしていたあいつみたいに。

 予定停車時刻が近づいてきたので俺は聖夜を起こす。やっぱり寝てはいなかったみたいだ。おはよう、と冗談っぽく笑うその顔を見て思う。

「ナツ、忘れものない?」
「……大丈夫。土産も持ったから」

 新幹線を降り、見慣れた駅前のロータリーへと俺たちは向かう。
 聖夜が乗るバスはもうバス停前で待機していた。それじゃ、と彼は笑う。

「聖夜……、」
「うん?」

 とっさに呼びとめたけどなにを言えばいいかわからなかった。
 ごめん? これからも友達でいよう? どれも欺瞞みたいに汚い言葉だと思ったから、俺は口を閉じる。

 聖夜は静かに俺の前に立った。

「大丈夫だよ、ナツ。なにも言わなくていい」
「…………」
「どのみち俺はナツをあきらめる気はないから」

 え、と俺は彼を見る。
 聖夜は――昨夜と同じ、熱っぽい瞳で俺を見下ろしていた。

「俺は必ずナツを手に入れる。覚悟して」

 堂々としたその宣言に俺の心臓が跳ねた。聖夜が片手を持ちあげて、思わず身を固くしたけれど、彼はにっこり笑って手を振る。

「――またね。夏合宿、楽しみにしてる」
「あ……、」
「逃がさないから」

 言葉とは裏腹に真綿みたいなやさしい声だった。
 聖夜はバスに乗りこみ、それを待っていたかのようにドアが閉まる。

 俺はしばらくその場に立ちつくしていた。




 次の日の夜から『添い寝通話』が恒例になった。
 ビデオ通話をお互いが寝つくまでやる。それだけだけど。

『ナツ、まだ寝ないの?』
「う……うん。聖夜は?」
『俺もまだ平気』

 顔が見たいという聖夜のリクエストで俺の部屋にはベッドボードの灯りだけついている。そしてベッドに横になり、スマホが倒れないようリングで立てた上で俺は彼と話していた。
 聖夜も同じ体勢。薄暗い中、ベッドに横向きになってスマホを見ているとほんとうに添い寝されているような気分になってくる。

 俺が断ろうと思えば断れる。でも毎晩、十一時過ぎに聖夜から『いま話せる?』とラインがくると俺はつい『大丈夫』と返事してしまうのだった。

『今度こそナツの寝顔見たいな』
「……いや無理、俺絶対変な顔してるよ」
『なら見せて』
「やだよ……」

 添い寝通話をはじめて一週間。毎回聖夜のほうが先に寝落ちしていた。
 彼の寝顔はいつも子供みたいでつい頭をなでてやりたくなってしまう。

 ……俺は聖夜のこと弟みたいに感じてるのか? 自分でも謎だけど。

「聖夜って寝つきいい……よな?」
『そんなことない。いつも明け方まで眠れないよ』
「うそ。いつも零時過ぎには寝てるじゃん」
『ナツがいるから』

 彼は無防備に笑う。『この前の旅行で気づいた。俺、ナツがそばにいてくれるとよく眠れるみたい』

 そう言われるとつい嬉しくなってしまう。心が満たされる、というか。
 少女漫画の訳ありヒーローに恋するヒロインってこんな気持ちなんだろうか……と思いながら「睡眠薬入らずってこと?」と笑いかえす。聖夜はうなずいた。

『ほんとに。ナツが一緒だと眠るのが怖くないんだ。――通話をはじめるまではトレーナーをかわりにしてたんだけど、雲泥の差だね』

 ……ん?

「なに、トレーナーがかわりって」
『ナツが俺の部屋に泊まりにきたときに着てたトレーナー。あれを枕代わりにすると、二時くらいには眠れたんだよ』

 聖夜からパジャマとして借りたトレーナー。クリーニング代だそうか一応言ってみたけど、『ふつうに洗うからいいよ』との返事だった。

 ――洗っ……洗った、んだよな……?

「き、聖夜さん……? まさかと思うけど、」
『そろそろ眠れそう。おやすみ』
「お願いだから洗ったって言ってくれよ……!」

 こんな感じで俺と聖夜の奇妙な関係はつづいて――可もなく不可もなくな期末テストも終わり、高校は夏休みに入った。

 夏合宿が、はじまる。