【完結】イケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた


 教室に鞄を置いたあと。「マジでひとりで行くの?」の心配するたっくんと別れて俺は聖夜に言われたとおり図書室に行くことにした。
 つか、泊まりってなに。たっくんの目は痛いくらいそう言ってたけど答えられないまま。

 図書室を探すと、一番奥の書棚の間で聖夜は俺を待っていた。昔の文豪の全集とかがある渋いゾーンだ。

「なに考えてんだよ……」と俺は小声で言う。聖夜は笑顔を崩さない。

「それは俺のセリフ。無視されることも覚悟してたんだけど?」
「……そんなこと、しない」

 そういうのはガキっぽいっていうのもあるけど。
 聖夜は――一応、聖夜なりに俺にまっすぐ向きあってくれてるのはわかるから。一応、俺もちゃんとしなきゃと思ってるだけだ。一応。

「はい、シャーペン」と聖夜は自分の鞄から俺のシャーペンを取りだす。礼を言って俺が受けとると、

「まあ俺がこっそり隠したんだけど」とさらっととんでもないことを言われた。

「は!?」
「ダメだよナツ、図書室では静かに」

 だれが大声出させてんだよ……!

 まっすぐ向きあってくれてるというのは勘違いだったかもしれない。……手段えらばないって自分で言ってたもんな。

「また家おいでよ。勉強教えてあげるから。俺ならナツの苦手なとこぜんぶ知ってるよ」

 なんだ、この説得力。

「間に合ってます」
「そう? じゃあ、今度はナツの家にしようか」
「人の話聞けって……!」

 どれだけマイペースなんだよ、と思っていると聖夜が人差し指を立てた。「ひとつ予言してあげるね」と。

「今週か来週、ナツは俺を家に招待することになる」
「……するわけないじゃん」こんな危ないやつを。

「どうかな」と聖夜は笑った。

 返すものは返してもらったので俺は教室にもどる。すぐさまたっくんが「なにかされなかったか」と聞いてきた。

「なにもされてないよ。大丈夫」
「……ならいいけど。つかなんであいつの家なんか泊まったわけ」
「一応……聖夜は友達だし。一応変じゃないと思う。一応」
「一応多くね?」

 たっくんはすねたように「俺の家だってまだそんなに泊まりにきたことないのに……」とつぶやく。

「それは関係ないじゃん」
「うるせーな」

 彼は自分のイスに後ろ向きに座ると背もたれに肘を置いた。いつものそのだるそうな姿勢を見て、たっくんとの日常が帰ってきたんだな、と思う。
 でも――聖夜と出会う前とはなにかがちがう。完全に同じじゃないものが。

「ってか、しばらくテスト前で部活動休みじゃん。俺の家でゲームしようぜ」
「テス勉じゃなくて?」
「補習にならなきゃなんでもいいだろ」

 こう言いながらたっくんの成績は中の上だ。全然勉強してる様子はないのに。飲みこみがはやいんだろう。

「たっくんは余裕でいいよなー」と思わず俺がぼやくと、「俺は力の抜き加減わかってんだよ」というほんとうに余裕の返事がきた。

 たっくんはけっこう感覚派だ。放課後、たっくんがお母さんとふたりで住んでるアパートの一室で一緒に勉強しながら思う。

「俺、図形問題って苦手」
「こんなの直感でわかるじゃん。これがこうでこうなってこう」
「え? なに?」
「だからさー」

 たっくんのざっくりした説明を聞いてると聖夜の説明ってわかりやすかったんだなとしみじみ感じる。
 ……いやべつに。これくらいであいつの評価があがるわけじゃないけど。

「拓虎、ママ仕事行ってくるから。ナツくんはゆっくりしていってね」
「いってら」
「いってらっしゃい」

 途中でたっくんのお母さんがそう言いのこすと仕事にでかけていった。金髪ベリーショートがおそろしいほどよく似合う彼女は警備会社で働いている。
 たっくんと同じで目つきが鋭くて一見怖いけど、話してみると面倒見がよくてやさしいひとだ。遊びにきて彼女がいるとちょっと嬉しい。

「相変わらずかっこいいよな、たっくんのお母さん」
「んー」
「うちもああいう母親がよかったなぁ」
「……ナツのとこだっていいじゃん。いかにも『お母さん』って感じで」
「そう?」
「ん」

 ないものねだりってやつなのかもしれない。
 そう考えてから聖夜が言っていた彼の母親のことを思いだし、だいぶ贅沢だったな、とひとりで反省した。

 ……べつに。これであいつに寄りそうとかそんなつもりもないけど。


 それ以降は聖夜からの特別目立った接触もなく、テストもいつもどおり俺は終えた。
 いつもどおりっていうのはつまり、可もなく不可もなくってことだけど。

 最終日が終わって。開放感で浮かれながら俺たちはゲーセンで遊んで、あとは適当に駅ビルをぶらついてから家に帰った。
 そして母さんが温めなおしてくれた夕飯を食べようと箸を取ったとき、「夏稀、週末家にいるよね?」と母さんがキッチンから声をかけてきた。

「べつに用事ないけど。なんで?」
「聖夜くんのこと誘っちゃった」

 俺は箸を落としそうになる。「は?」

「昨日、偶然スーパーで聖夜くんと会ってね。ちょっと世間話したの。そしたら聖夜くんアップルパイが好きっていうでしょ? よかったらおばさんが作ってあげるから家に遊びにおいでって誘っちゃったの」
「ちょっ……まっ……」
「この前家に泊まらせてもらったお礼もしなくちゃだし」
「な、な、なにしてんだよ……!」

 思わず立ちあがって抗議すると「大丈夫よ、お母さんアップルパイ得意だもの」とずれた返事がくる。そうじゃない。

「俺の知らないとこで勝手に誘うなよ!」
「なに、ヤキモチ?」
「そんなわけないから!」
「用事あるならいいのよー。お母さん、聖夜くんとふたりでお茶会にするから」

 それだけはダメだ。
 それだけはダメだ……!

 ふたりにしたら母さんになにを吹きこまれるかわかったものじゃない。かといってキャンセルさせても日程が変わるだけだろう。

 聖夜の本性を話したって母さんは信じないだろうし。それだったら……。

「……わかったよ。で、いつ?」

 早々に俺は白旗を揚げた。
 身内が陥落されてるの、怖、と思いつつ。