【完結】イケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた



 そのあと、何事もなかったかのように聖夜は俺に勉強を教えてくれたけど今回ばかりはなにも頭に入ってこなかった。

 どうして聖夜は俺のことをここまで想ってくれるんだろう。
 自分で言うのもあれだけど、俺はたいして魅力がある人間じゃない。どこにでもいる高校生だ。聖夜みたいな『アイドル』と友達ってだけでも分不相応なのに――あんなに。

 ……意外とみんな聖夜に近寄りがたく思ってる? 仲のいい相手はいっぱいいるけど、親友みたいな存在はいないとか。
 だから俺にあそこまで言ってくれるんだろうか……。

 風呂に入って歯を磨いたあと、聖夜のベッドに腰かけながら考える。
 着替えは聖夜が自分のジャージを貸してくれた。歯ブラシもまだ開封してないものがあったのでそれをくれた。ベッドも……俺はソファでいいって言ったけど、ナツなら使っていいって。

 ……特別扱いされてる。それはさすがの俺にもわかった。

 ――特別な友達、か……。

 みんなと仲よくしてるように見える聖夜もほんとうはさびしいのかもしれない。ベッドと、教科書類がならんだデスク以外になにもない部屋を見回しながら思う。
 
 最初に感じた違和感。それはあまりにも生活感がないということだった。
 ここで聖夜が生活している感じ。それと……だれかが聖夜の日常に入りこんでいる感じがまったくしない。

 彼がきれい好きというのもあるだろうけど、でもまだ聖夜は高校生だ。家からの仕送りとか友達から借りた漫画とかがその辺に置いてあったっていいはずなのに。
 そういうのもなく彼はひとりで暮らしている。高校から離れたこの部屋で。

「そうだ、」

 母さんに今日泊まるって連絡しとかないと。俺はリビングに置いた自分の鞄からスマホを取りだしてまたベッドにもどる。聖夜はまだ風呂場だ。

 すでに母さんからラインが来ていた。『直接きよやくんの家行った?』というメッセージに『行った』『このまま泊まる』と返事をする。
 明日もふつうに学校だけど、まあここを早くでればなんとかなるだろう。昼はパンでも買えばいいし。

『きよやくんのご両親によろしくね』と、俺が家に寄らなかったことを怒るでもなく母さんが言う。
 ……聖夜のお母さんってどんなひとなんだろ。既読マークだけつけて、スマホの画面を閉じて思う。
 厳しいひとなのかな。それとも、子供に無関心なひとなのかな……。

 ぼんやりしているとラインの通知音がした。母さんからかな、と思って見るとたっくんからだ。
 考えるより先に俺はラインを開く。『この前から態度悪くてごめん』というメッセージを読み、一気に緊張が――自分が緊張していたことにも気づいていなかったけど――解ける。

 そんなことない、と俺は返した。すぐに既読がつく。

『怒ってる?』
『そんなことない 俺がたっくんになにかしたか気にはなってたけと』
『ちがう ナツのせいじゃない』

 鳥見橋先輩から連絡がきた、とたっくんはつづけた。ナツもおまえのこと気にしてる。さっさと仲直りしろって。

「先輩が……」

 ふわふわしているようでちゃんと後輩のことを見てくれていたらしい。今度礼を言おう、と俺は決める。

『最初にナツのこと避けたのは、なんていうか、緒川と一緒にいるのを見るのがいやだったからで』
『ナツのせいじゃない』

 ……妬いてた、ってことなんだろうか。さっきの聖夜みたいに。
『俺がガキだった ごめん』と送られてきたので『気にしないで』と俺は返した。
 友達に妬かれた経験なんてないからどうするのが正解なのかわからないけど、いまの自分の気持ちはわかりきっている。

 ――俺はまたたっくんと話したり遊んだりしたい。そうどう伝えるべきか悩んでいると、『それと』とたっくんが送ってきた。俺は指を止める。

『緒川のことなんだけど』

 ……聖夜?

『ナツ、あいつやばい どこかおかしい』

 唐突な言葉に俺は面食らう。
 入力していた文を消し、なんで、と俺は尋ねた。

『俺見たんだ』
『この前の科学の授業 適当に時間潰してからギリギリで行こうと思って』
『それで教科書とか取りに教室に行ったら』
『もうだれもいないと思ってたのに』

『あいつが、ナツの机に』


 ――『きよやに近づくな』って書いた紙を、入れてた。


 その言葉の意味が俺にはしばらくわからなかった。
 ……聖夜が、俺の机にあのコピー用紙を入れる? どうして?

 あいつがそんなことするわけない。『見間違いだよ』と俺は返信したけれど――

『写真も撮った』

 たっくんからすぐに画像が送られてきて。
 それは――彼の言葉どおり、聖夜が教室の隅にある俺の机に白い紙を入れているところだった。

 ドアの窓ガラス越しに撮ったらしい。見える範囲は狭くて、俺の机の後ろに立っている男子生徒はこっちに背中を見せているけれど、それでも聖夜だとわかる。
 手には、赤い字でなにかが書かれた紙。

『変だと思って緒川が出ていってからなにが書いてあるのかたしかめた そしたらそんなこと書いてあって』
『ナツにはやく教えなきゃと思ったけど でもわけわからなくて』
『こんなに遅くなった ごめん』

 ……どうして。ちがう。なにかの間違いだ。

『きっと』――と俺は返信しようとする。聖夜が入れたんじゃなくて、一度取りだして、またもどしただけだって。
 なんでそんなことをするのかと聞かれても答えられなかったけど。なんでもいい、俺は『彼がいやがらせの犯人だった』以外の答えがほしかった。

 聖夜じゃない。聖夜が犯人のはずがない。
 混乱しながらも俺は文字を入力するのに必死だったから――

 ――いつの間にか、聖夜が目の前に立っていることに気がつかなかった。

 息が止まりそうになる。
 俺はおそるおそる顔を上げた。

「きよ、や……」
「…………」

 フェイスタオルを首にかけた彼は表情のない目で俺を見下ろしていた。俺の膝の上にある、スマホの画面を。

 俺ははっとする。
 もう隠そうとしても遅い。彼は、俺とたっくんのやりとりを見てしまっていた。

「……うそ、だよな。聖夜」
「…………」
「俺の机からでてた紙を気になって見て、またもどしただけとか。そうだよな? 聖夜があれを入れたわけじゃない、よな……?」

 ぽつ、ぽつ、と濡れた彼の髪から滴が垂れる。
 彼は紺色のパジャマを着ていた。しわも染みもない。新品みたいに、清潔な。

 ――やがて、
 ふう、と聖夜が溜め息をつく。

「聖夜……?」
「……まあ、悪くないタイミングだったかな」

 はいでもいいえでもない彼の返事に混乱が加速する。――悪くないタイミング? なにを言ってるんだ、聖夜は?

 きっとなにか納得のいく説明があるはず。そう信じていた俺の思いは、次の聖夜のセリフで裏切られる。

「そうだよ。あの紙――俺に近づくなって書いた紙を入れたのはぜんぶ俺。最初から最後までね」
「……っ!」

 頭を殴られたみたいな衝撃だった。
 ――俺にいやがらせをしていたのは、聖夜。本人からそう告げられても受けいれられず、俺は「なに言ってるんだよ」とつぶやく。

「聖夜は……だって、俺を守ってくれて」
「自作自演ってことだね。遊佐くんと仲たがいしたナツが頼れるのは俺しかいない。だからなにかあればナツは俺のところにきてくれる。そのためにやったんだ」

 理解ができない。「なに言ってるんだよ……」愚鈍に俺はくりかえす。それしか言えなくなってしまったみたいに。

「……そうだね。どこから話そうかな」

 聖夜はタオルで自分の髪を拭く。
 その仕草はおかしいくらい優雅で。あの汚い赤い字とは絶対につながらなかった。

 まずはここから話そうか、と聖夜はやさしい声で言う。

「俺のはじまり。
 そして――俺を救ってくれたヒーローについて」