料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 「焼きか? 揚げか? いや、やっぱ煮込みもいいなぁ~~♪」

 「し、シゲル、不用意に大きな声を立てない方が……ここは危険指定区域の森なのよ……」

 白銀のドレスアーマーに身を包んだ麗しき女剣士レイナが、深紅の髪を揺らして俺の肩をツンツンしながら言う。
 彼女が俺の狩りに同行したいと言うので連れてきたのだ。まあS級冒険者だし、強さは並の冒険者をはるかに上回る。特に問題はないだろう。
 俺たちがいるのは、辺境の町メタリノからさらに奥に進んだ森の中。

 コレットが日課で読んでいた辺境新聞によると、最近ワイバーンの襲撃が急増していて辺境地域への物流が滞っているらしい。
 ってことで、ワイバーンがいそうな山岳地帯へ向かう最中なのだ。

 「おっと、すまん。食材探しはけっこう楽しくてな。ちょっとワクワクしてしまった」
 「ワクワクって……ふぅ……そうだった。シゲルとはこんな奴だった」

 勝手に1人合点のいったような表情でため息をつくレイナ。その時だ―――
 森の奥、空の高みを飛ぶ影が目に入った。

 「おおっ!!」
 「だ、だから声大きいからっ! って、あれは……」

 レイナも気付いたようだ。さすがS級、魔物嗅覚はしっかり備わっている。

 「やったぞ山まで行く手間が省けた。にしも……くはぁああ~いい翼に胴体だなぁ~~ブツブツ」
 「ワイバーン……討伐難易度A級の魔物、油断できないわ……って、シゲル! いま献立考えるのはやめて!」

 俺の心を読んでくるレイナ。
 さすがS級冒険者、ならいつもどおりでいくか。

 「よしレイナ、ひらけた場所に移動するぞ」
 「ええ? それじゃあたしたちが丸裸になってしまう……ってもう走り出しているしぃ!」

 俺はワイバーンたちを追うように走り出して、ひらけた場所まで移動する。レイナもついてきているな、よしよし。

 「シゲル、数が多いわ。ここは慎重に……え? ちょっ、なに出して……」

 マジックサイドポーチからブツを出してと。


 ―――カンカンカンカン!


 「なにやってんのぉおお! シゲルぅううう!?」

 「え、鍋を叩いてるんだが?」

 「見ればわかるわよっ! そんなことしたら……ほらぁああ!!」

 「ギギャ!」
 「ギギャース!」
 「ギャギャース!」

 ワイバーンたちが獲物を見つけたとばかりに、嬉々として次々と急降下してきた。

 おお、きたきたぁ~。

 「やったぜレイナ!」
 「やったじゃないんですけど!?」

 「何言ってんだ? 食材のほうからわざわざ来てくれたんだぞ」

 空にいる獲物をとる方法もあるが、こちらに来てくれた方が断然ありがたい。
 しかもまとまってだ。

 「食材って……うぅうう……あたしの学んできたことがいっさい出てこない……はっ! そうだった。シゲルの興味はそこにしかないんだった」

 レイナが1人うなっているが、あまりおしゃべりの時間はないぞ。
 ―――このチャンスを逃すわけにはいかない。

 「さぁ~~食材確保の時間だ! いくぞレイナ!」

 「くっ、もうどうとでもなれ!―――シルバードレスよ、うなれ!
 ――――――白銀武踏鎧(シルバーグレイス)!!」

 レイナの白銀ドレスアーマーが輝いている。
 たしかドラゴンと戦っていた時も同じ技を出していたな。さすがS級、瞬時に切り替えて即行動に移せるのは今までの経験がものいう。
 この子がちゃんと努力してきた証拠だ。

 「よし、レイナ。そっちにいったのは任せるぞ」
 「ええ、わかったわシゲル!」

 さて、こいつらならこれか―――
 俺はサイドポーチから柳刃包丁を取り出した。光を反射して細長い刃がギラリと輝く。


 「柳刃包丁―――千切り乱舞!!」


 細身の刃が空を裂き、次々とワイバーンの翼を断ち切っていく。まるでキャベツの千切りをしているかのようなリズムで。

 「ふんっ! ふんっ! ふんっ! 刻め刻め刻めぇ! 
 最後の一匹ぃ! ふんっ! ――――――千切り完成!」

 羽をもがれたワイバーンたちが悲鳴を上げながらバタバタと墜落していく。
 そのまま地面に叩きつけられたところを―――

 「これで終りだ」

 包丁の刃先を脳天にお見舞いしていく。
 ワイバーンたちは白目をむいて、そのまま沈黙した。

 血煙と土煙が混じる戦場の中で、俺は汗ひとつかかずに包丁を振るう。
 食材を綺麗に、傷まないように最小の動作で。

 「よし、これで下ごしらえ完了だな」

 俺の独り言に、レイナが剣を構えたまま叫ぶ。

 「下ごしらえじゃないからぁああ!」

 ははっ、元気な奴だ。

 彼女の方に視線を向けると、最後の一匹を迎え撃つべく地を蹴っていた。
 ワイバーンの鋭い急降下の突撃を紙一重で躱したその瞬間―――

 レイナの眉間にしわが寄り、白銀のドレスアーマーが輝きを放って足元の力を爆発させる。閃光となった彼女の剣が、すれ違いざまにワイバーンの首筋を深く薙ぐ。噴き上がる鮮血と絶命の咆哮。

 ふうっと肩の息をならしたレイナが、剣を鞘におさめた。

 「さすがS級冒険者だ。やるな」
 「いやいや! ワイバーンのほとんどは、シゲルが討伐してしまったじゃないか!」

 「細かい事は気にするな。どうだ、なにか得るものはあったか?」
 「え、ええ……なんか色々すごかったわ。あたしの常識が壊されたっていうか。ちょっとまだ整理できないけど……」

 まあ自ら同行したいといってきた彼女のことだ。なにかしらの想いがあってのことだろう。
 悩むのも、考えるのも、好きにすればいい。

 「前よりも良かったぞ」
 「え……前って、ドラゴンと戦っていた時かしら?」

 レイナの真っ赤な髪がわずかに揺れる。

 「ああ、体のきれが前よりいいかんじだったな」

 「え、ええ! そうなの! 体が軽いし、充実しているわ。シゲルのご飯を食べてからかも」
 「そうか、そりゃよかった。飯を作ったかいがあるってもんだ。さあ、食堂に戻るぞ」
 「ええ、わかったわ。シゲル」

 照れたように頬を赤らめつつも笑うレイナ。

 「さてと。じゃあ今日はワイバーン肉を使った唐揚げだな」

 麗しき美人剣士の耳がピクッと反応する。
 凄い勢いで、こちらに詰め寄って来るレイナ。

 「し、シゲル! か、からあげってなに! ねえ、なんなの!(じゅるり)」
 「ははっ、まあ食堂に帰ってからのお楽しみだ」

 「は、はやく帰るわよ! シゲル、はやく!」

 俺は食に貪欲になった女剣士とともに、帰路につくのであった。