料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 「ううぅ……なぜか蘇らんかった~~」

 正座した邪神がしょぼくれた犬みたいに項垂れていた。
 背中にのしかかってるのは邪神の威厳じゃなくて、近所の公園で泣いてる迷子の空気だ。

 「じゃしんさんて……ちょっとおかしい人ですか? 死んだ魔物が生き返るわけないじゃないですか」

 コレットが首をかしげながら、素直すぎるどストレートな疑問をぶつける。

 「ちがわい! おかしいのはそこのおっさんじゃい!」

 邪神がぴしっと指を俺に向けた。

 「なんか言ったか?」

 俺が睨むと、邪神は「ひぃいい!」と悲鳴を上げて背筋をぴんと伸ばす。

 よし。

 さて―――思わぬアクシデントがあったが、夕食はまだまだ終わらない。
 テーブルにはキムチ鍋とカニ鍋。
 辛味と海鮮の香りが入り混じる、カオスで最高の空間だ。
 2つの鍋が出揃ったいま、同時に両方を味わえるという至高の時が流れている。

 「ううぅ……うまそうなのだ(じゅるり)」

 正座のまま口を半開きにして鍋を見つめる邪神。
 威厳なんてもう1ミリもないな。

 すると―――

 「じゃしんさん、ここどうぞ」

 コレットの小さな手が、ぴょこぴょこと上下に揺れた。

 「んぬ? いいのであるか!?」

 手招きされた邪神が目を輝かせる。

 看板娘コレットは、椅子を少しずらして邪神のための隙間を作ってやった。
 邪神は待ち席の丸椅子を抱えて、控えめに……いや、ものすごく嬉しそうにテーブルへ滑り込む。

 ―――ぎゅぅ!

 「ちょっと、あんた遠慮して座りなさいよ。ぎゅぎゅうじゃないの」

 女神グラティアが邪神の肩を押す。

 「うるさいのだ女神! おぬしこそもうちょいつめるのだ。そのデカい尻が邪魔なのだ」
 「うっさい! あんたのそのデカい角が邪魔なのよ!」

 「はいはい店内はケンカ禁止ですよ~♪ いいじゃないですか~寄って食べるお鍋は美味しいですよ~♪」

 コレットのゆる~い介入により、女神と邪神はしぶしぶ距離を詰める。

 そんな様子を見ていたレイナが、微妙な顔で鍋を見つめてぼそりと漏らした。

 「え、なにこれ。あたし、女神さま2人と邪神と聖女と看板娘と相席なんだけど……さっきよりカオスだわ……」

 なにはともあれ、無事テーブルに着席できた邪神。
 速攻で鍋をがっつくのかと思いきや、懐に手を突っ込んでゴソゴソしはじめる。

 「ううぅ……むすめぇ~~かたじけない。ほれ、これやるわい」

 若干涙目の邪神は、コレットに小さな花を手渡した。

 「わーい、お花だぁ! まっくろだけど綺麗ですねぇ~♪」
 「うむ、我の加護がわずかばかりつくのである」

 コレットは満面の笑顔で花を頭につけて上機嫌。
 彼女のちいさな顔のうえで、白く輝く花と黒い光を放つ花が揺れる。

 「ふぉ! あ、あれは地獄の花なのでは……」
 「女神さまと邪神の両方から贈り物って……あの娘、いったいどんな加護を……?」

 「ふぁ~~こ、コレットさん、2つの加護がまざって……もうよくわからない属性になってますよ……」

 教会連中が一連のやり取りを驚愕の目で追い。ロメリーが、なかば呆れたように苦笑した。
 そんな状況のなか……

 「はい、どうぞじゃしんさん、キムチ鍋ですよ」

 コレットが普通に鍋をよそう。

 「クハァア! 辛いっ! じゃがうまいのである!!」

 邪神はその漆黒の顔を真っ赤にさせて叫んだ。

 「あとカニ鍋もありますからね」
 「ふふぉぉお~~キムチの後だとほっこりするのである~~♪」

 もう邪神の恐怖もクソもない。
 そんなハフハフ鍋をかきこむ邪神に、コレットが思い出したかのように声を出した。

 「そうだじゃしんさん。さっき歌ってたの、あれダメです。もっと明るい感じか、静かなやつじゃないと店内BGMとして失格ですよ」

 「い、いや、恐怖の死歌が明るかったらマズいのであるが……」
 「はじめからあきらめちゃダメですよ~何事もチャレンジです♪」
 「う……わかった。善処してみるのである……」

 無邪気な笑顔のコレットに何故か同意した邪神なのであった。

 「コレットさん、恐れ知らずにも程がありますよ……」
 「た、たしかに。ロメリー殿の言う通り、コレット、たまにとんでもなくグイグイいくときあがあるわね」

 「ずっとシゲル君のそばにいたら、そりゃねぇ……」

 「「ああぁ……たしかに」」

 ロメリーとレイナが、女神さまの言葉にウンウンと納得する。2人とも、なにか思い当たるふしがあるかのような表情だ。
 俺としては少し心外なんだが。

 まあいい。

 コレットの言う通り、鍋ってのはみんなで囲むもんだ。

 わいわいガヤガヤ、仕事の疲れも心の疲れも溶けていく。ただただ飯を楽しむという空間。
 この雰囲気、料理人としては最高に幸せな瞬間だ。

 ずっとこの光景を見ていたいのは山々なんだが、そろそろだな。

 俺は静かに鍋の前に立ち、木べらを握った。
 もう一方の手にはどんぶりに盛ったホクホクのご飯。

 「よし、宴もたけなわ。そろそろ“しめ”だな」


 「「「「「「しめ!?(じゅるり)」」」」」」


 全員の声が重なる。期待とよだれが入り混じったいい響きだ。

 「わぁ~~い、やっぱりお鍋のしめはおじやですねぇ~~店長♪」
 「そうね、コレットちゃん。なんかしめって感じするわ~」

 コレットと女神さまはおじやの存在を知っているようだ。
 俺が手にもつご飯を見て、そう予想したんだろう。さすが我が看板娘と女神さまだ。

 もちろん今からつくるのは、おじやだ。

 だが……

 本当におじやが最後かな?

 俺はそんなこと、一言もいってない。

 グフフフ……これからはじまる「しめ」祭りで……全員天国に昇天させてやるぜ。
 俺はこれから繰り広げられるであろう光景を想像して、口角を吊り上げるのだった。