汗が滴り落ちる―――というより、もう女神さまたちの顔はハフハフと湯気を噴き出している蒸気機関車みたいになっていた。
赤みを帯びた具材やスープを「あつっ、はふっ、ふはぁ!」と言いながら口に運ぶ面々。
そんな風に自制心を完全に失った表情で鍋をむさぼる姿は、作り手の俺からすりゃあ最高のご褒美だ。
よしよし、みんな良い顔になってるな。
だが―――
キムチ鍋はこんなもんじゃ終わらない。
「さて……お次はこいつの出番だな」
俺は魔導冷蔵庫を開け、ひとつの塊を取り出す。
白く輝きを放つ乳製品……そう、「あれ」だ。
テーブル席まで持っていくと、全員の視線がピタッと俺に集まった。
「えっ、シゲル君、それって……?」
「わぁ~店長、チーズですね~♪」
そう、俺が取り出したのはチーズの塊。
こいつをみんなの前で薄くスライスして―――
スーッと赤い鍋に滑らせる。
いれた瞬間からじゅわ~~っとチーズが溶け出し立ちのぼる濃厚な香り。
その匂いがまるで魔法の煙みたいに店内の空気を一変させる。
スープの色が赤だけじゃなく、とろんと金色が混じり合いまろやかで濃密な輝きを放ち始めた。
さっそく衣装替えしたキムチ鍋をつつく女神さまたち。
とろみががっかたナイトコカトリスのお肉をパクリ。
「「「「「んん!?」」」」」
全員の体がビクッと震える。
「これ……すごいわよ、シゲル君!」
「たしかに、味が一気に変わったわ……」
「ワタクシの口が……癒されていきます~♡」
「なんか刺激とまろやかがあわさって……もっと止まらなくなる~!」
「チーズがとろとろです~~わ~い糸ひいた~♪」
鍋の中で溶けたチーズが赤いスープと絡み、辛味を包み込むように一体化していく。
一口食べるごとに唾液を飲み込む音が響き店内には熱気と旨味がムンムンに充満する。
辛さの尾を残しつつ、口の中で溶けゆくチーズの甘い余韻。
みんな、黙々と……鍋に取りつくようにハフハフしている。
むふふ、味変の恐ろしさを思い知ったようだな。
よしよし。
だが―――ここで終りじゃない。
「さてさて~~お次は~~」
俺は厨房からもってきた皿をみんなに見せる。
「餅を入れちゃうぞ~~」
「「「「「モチ!?」」」」」
あたまに?マークが浮かぶ面々。むふふ、これがどういうことか、今からたっぷり味あわせてやるぜ。
俺は鍋用に薄くスライスした切り餅を、パラパラと鍋に投入する。
赤い湯の中を漂いながら、じわ~り……じわ~り……と膨らむ白い影。
おそるおそる箸をつける女神さま。
「ふはっ~! 柔らかくて弾力があって、これが餅なのね~シゲル君!」
お、女神さまも初なのか。
まあ、数千という世界を管理しているらしいから、細かい事まで覚えちゃいないんだろう。
「すごいよシゲちゃん! これっ……キムチ汁にあうぅううう!」
「ふぁ~~不思議な食感ですね~」
「ちょ、あ、あたしもロメリー殿、つぎあたしのばん!」
「レイナさん! コレットもコレットの分も残しておいてくださいぃ~」
むふふ、大人気じゃないか。
溶けかけた餅のトロ~~ッとした柔らかさに、キムチスープのピリ辛が絡みつき―――
噛めば噛むほど旨味がしみ出す。
口の中でとろりと溶け、胃の底まで温かさが浸透するような感覚。
「あ、ああっ……! おなかの奥で幸せが膨らむわ……」
やはりキムチ鍋に餅は大正解だな。もちもちトロリ食感が、肉とも野菜とも違う全く新しいアクセントを生み出して食べごたえも増す。
よしよし。だがな……
――――――まだまだぁ!!
「ああ~~店長、なにやってんですか!?」
なにって、先ほどかけたスライスチーズを再び鍋に入れてるのさ。
餅のポテンシャルに圧倒されている場合じゃないぞ~~。
「ぎゃあああああ!! シゲル君、なにこれぇええ!!」
「え、なによグラティアはしたない声だして―――ぎゃあああああ! シゲちゃん、なにこれぇええ!!」
女神たちが狂いだしたように、鍋をつつきまくる。
「ふはぁああ~~~♡ もちもちトロトロで……脳にくるぅ……♡」(ロメリー)
「ちょ……こんなん……ずるい……っ!!」
ロメリーとレイナも同じく、狂い始めた。
「店長~~チーズが混ざると、またまた美味しくなりますね~♪」
マイペースでバクバクいくコレット。
そうだろう、トロトロ餅にチーズのキムチ鍋。これはヤバイからな。
「だ、大司教さま! これはひかえてください! 喉につまらせますよ!」
「「「そうそう、ここは我らが!」」」
「ええ~い、老人あつかいするでないわ~! わしもモチモチトロトロいくぞ~~い♪」
よしよし、教会のやつらも夢中だな。
大司教がもはや意味不明なテンションになりつつある。さっきまで辛いの無理とか言ってたやつは、どこかに消えてしまったようだ。
これが食の力…… 。
だからやめられんのよ。
この顔をもらえば、いくらでも作ってやりたくなる。
店内に充満する食をそそるにおい。
すべてのテーブルから湧き出してくる。
ド田舎食堂そのものが「飯」になったかのような。
なるほど……満席ってのも悪くない。
「クンクン」
……ん?
「クンクンクン」
客の奏でる食の音に酔っていると、奇妙な音が聞こえてきた。
「店長? また変な調理器具でも使ってるんですか?」
「いや……俺はなにもしとらんぞ」
コレットが首を傾げた瞬間―――
神棚がぐらり……と揺れる。
―――ドスン!!
何かが落ちてきた。
これなんかちょっと前にもあったような……
むくりと起き上がったそいつはクソデカい声を張り上げた。
「我は邪神クイボルなりぃいい!
クンクンクンクン……このにおいの元は……ここかぁあああ!!」
鍋をギンギンに凝視する邪神とやら。
「その……赤き旨味……モチモチのトロトロ……
――――――ぐぉおおお……我にも寄越せぇえええええ!!」
どうやら邪神がキムチのにおいにつられて、下界に落ちてきたらしい。
赤みを帯びた具材やスープを「あつっ、はふっ、ふはぁ!」と言いながら口に運ぶ面々。
そんな風に自制心を完全に失った表情で鍋をむさぼる姿は、作り手の俺からすりゃあ最高のご褒美だ。
よしよし、みんな良い顔になってるな。
だが―――
キムチ鍋はこんなもんじゃ終わらない。
「さて……お次はこいつの出番だな」
俺は魔導冷蔵庫を開け、ひとつの塊を取り出す。
白く輝きを放つ乳製品……そう、「あれ」だ。
テーブル席まで持っていくと、全員の視線がピタッと俺に集まった。
「えっ、シゲル君、それって……?」
「わぁ~店長、チーズですね~♪」
そう、俺が取り出したのはチーズの塊。
こいつをみんなの前で薄くスライスして―――
スーッと赤い鍋に滑らせる。
いれた瞬間からじゅわ~~っとチーズが溶け出し立ちのぼる濃厚な香り。
その匂いがまるで魔法の煙みたいに店内の空気を一変させる。
スープの色が赤だけじゃなく、とろんと金色が混じり合いまろやかで濃密な輝きを放ち始めた。
さっそく衣装替えしたキムチ鍋をつつく女神さまたち。
とろみががっかたナイトコカトリスのお肉をパクリ。
「「「「「んん!?」」」」」
全員の体がビクッと震える。
「これ……すごいわよ、シゲル君!」
「たしかに、味が一気に変わったわ……」
「ワタクシの口が……癒されていきます~♡」
「なんか刺激とまろやかがあわさって……もっと止まらなくなる~!」
「チーズがとろとろです~~わ~い糸ひいた~♪」
鍋の中で溶けたチーズが赤いスープと絡み、辛味を包み込むように一体化していく。
一口食べるごとに唾液を飲み込む音が響き店内には熱気と旨味がムンムンに充満する。
辛さの尾を残しつつ、口の中で溶けゆくチーズの甘い余韻。
みんな、黙々と……鍋に取りつくようにハフハフしている。
むふふ、味変の恐ろしさを思い知ったようだな。
よしよし。
だが―――ここで終りじゃない。
「さてさて~~お次は~~」
俺は厨房からもってきた皿をみんなに見せる。
「餅を入れちゃうぞ~~」
「「「「「モチ!?」」」」」
あたまに?マークが浮かぶ面々。むふふ、これがどういうことか、今からたっぷり味あわせてやるぜ。
俺は鍋用に薄くスライスした切り餅を、パラパラと鍋に投入する。
赤い湯の中を漂いながら、じわ~り……じわ~り……と膨らむ白い影。
おそるおそる箸をつける女神さま。
「ふはっ~! 柔らかくて弾力があって、これが餅なのね~シゲル君!」
お、女神さまも初なのか。
まあ、数千という世界を管理しているらしいから、細かい事まで覚えちゃいないんだろう。
「すごいよシゲちゃん! これっ……キムチ汁にあうぅううう!」
「ふぁ~~不思議な食感ですね~」
「ちょ、あ、あたしもロメリー殿、つぎあたしのばん!」
「レイナさん! コレットもコレットの分も残しておいてくださいぃ~」
むふふ、大人気じゃないか。
溶けかけた餅のトロ~~ッとした柔らかさに、キムチスープのピリ辛が絡みつき―――
噛めば噛むほど旨味がしみ出す。
口の中でとろりと溶け、胃の底まで温かさが浸透するような感覚。
「あ、ああっ……! おなかの奥で幸せが膨らむわ……」
やはりキムチ鍋に餅は大正解だな。もちもちトロリ食感が、肉とも野菜とも違う全く新しいアクセントを生み出して食べごたえも増す。
よしよし。だがな……
――――――まだまだぁ!!
「ああ~~店長、なにやってんですか!?」
なにって、先ほどかけたスライスチーズを再び鍋に入れてるのさ。
餅のポテンシャルに圧倒されている場合じゃないぞ~~。
「ぎゃあああああ!! シゲル君、なにこれぇええ!!」
「え、なによグラティアはしたない声だして―――ぎゃあああああ! シゲちゃん、なにこれぇええ!!」
女神たちが狂いだしたように、鍋をつつきまくる。
「ふはぁああ~~~♡ もちもちトロトロで……脳にくるぅ……♡」(ロメリー)
「ちょ……こんなん……ずるい……っ!!」
ロメリーとレイナも同じく、狂い始めた。
「店長~~チーズが混ざると、またまた美味しくなりますね~♪」
マイペースでバクバクいくコレット。
そうだろう、トロトロ餅にチーズのキムチ鍋。これはヤバイからな。
「だ、大司教さま! これはひかえてください! 喉につまらせますよ!」
「「「そうそう、ここは我らが!」」」
「ええ~い、老人あつかいするでないわ~! わしもモチモチトロトロいくぞ~~い♪」
よしよし、教会のやつらも夢中だな。
大司教がもはや意味不明なテンションになりつつある。さっきまで辛いの無理とか言ってたやつは、どこかに消えてしまったようだ。
これが食の力…… 。
だからやめられんのよ。
この顔をもらえば、いくらでも作ってやりたくなる。
店内に充満する食をそそるにおい。
すべてのテーブルから湧き出してくる。
ド田舎食堂そのものが「飯」になったかのような。
なるほど……満席ってのも悪くない。
「クンクン」
……ん?
「クンクンクン」
客の奏でる食の音に酔っていると、奇妙な音が聞こえてきた。
「店長? また変な調理器具でも使ってるんですか?」
「いや……俺はなにもしとらんぞ」
コレットが首を傾げた瞬間―――
神棚がぐらり……と揺れる。
―――ドスン!!
何かが落ちてきた。
これなんかちょっと前にもあったような……
むくりと起き上がったそいつはクソデカい声を張り上げた。
「我は邪神クイボルなりぃいい!
クンクンクンクン……このにおいの元は……ここかぁあああ!!」
鍋をギンギンに凝視する邪神とやら。
「その……赤き旨味……モチモチのトロトロ……
――――――ぐぉおおお……我にも寄越せぇえええええ!!」
どうやら邪神がキムチのにおいにつられて、下界に落ちてきたらしい。

