ド田舎食堂。店内は黙々とカニの身をほじくる音が聞こえてくる。
よしよし、夢中になってむさぼっているじゃないか。
だがこんなもんで終わらないぜ。まだ序章だ。
「じゃ、次の鍋そろそろいくぞ」
「「「「「…………!?」」」」」
黙ってカニをほじってた面々が、一斉にこちらを向いた。
手元はカリカリ継続中だが。
「店長~~なにすればいいですか~?」
コレットが席から立ち上がり、腕まくりをする。
彼女には各テーブルの鍋に水と煮干し、それに昆布を入れてもらい静かに火をつける。
ふつふつと小さな泡が縁に現れ、だしの香りが立ち上った。
さて、コレットが各テーブルの準備を進めているうちに、俺はカウンター奥の厨房で具材を整える。
まな板に並ぶのは、長ねぎ、ニラ、えのき、豆腐。これらを鍋に入れやすいように切っていく。そして次に取り出したるは……
赤みがかった白菜。
「ふあぁ~~店長なんですかこれ?」
カウンターから身を乗り出したコレットが、まじまじとまな板の上のブツを凝視する。
さすがのコレットもこいつは知らないか。
「これはキムチだ」
「きむち?」
まあわからんのも無理はない。キムチはこの異世界には存在しないからだ。少なくとも世界中を旅した俺は見たことないからな。
そもそもこの世界には激辛はおろか、辛い食べ物という文化があまり発達していない。
むふふ……本日のお客さま、あらたな味の世界にご招待というわけだ。
「ってことはシゲル君?」
「そうだ、2つ目の鍋はキムチ鍋だ」
「「「「「キムチなべ!!」」」」」
なぜか全員が元気に復唱した。ついでにうしろの大司教たちも。
ま、解説はあえてしない。こいつは食べてからのお楽しみだ。
俺はキムチを食べやすく切る。そして魔導冷蔵庫から更なる具材を取り出した。
ナイトコカトリスのもも肉。こいつをひと口大のサイズに切り分ける。
脂が適度にあり柔らかく弾力もある。鍋に入れれば、じんわり旨味がスープに溶け出すってわけだ。
それから、もう一丁お肉をば。レッドボアのバラ肉を薄切りにする。
バラ肉は脂身の甘みと旨味がキムチ鍋のスープに溶け出し、鍋全体にコクと深みを与えてくれる。
前世では豚キムチとして使用される定番の部位だな。相性も抜群だ。
さて、具材の用意はこれでよしと。
これを全部鍋に入れてもいいんだが……そうはいかん。ここはひと手間加えるぞ。
フライパンにごま油をひき、粗くみじん切りにした生姜とにんにくを香りを確認しながらフライパンを熱する。
香りが立ったところで、ナイトコカトリスのもも肉とレッドボアのバラ肉をサッと入れる。赤身と脂身が層になった肉は、火を通すと脂の甘みがじんわり滲む。
「んん~~いいかおりぃ~(じゅるり)」
「ふはぁ~~おにくぅ~~~(じゅるり)」
テーブル席から女神さまが鼻をクンクンさせて、コレットはカウンター越しに身を乗り出してじゅるりする。
うむ、やっぱ肉ってのはいかなる場合でも正義だな。
肉の色が変わったところで、キムチ半分を投入。
ぱちぱちと音を立て赤い汁が油と絡み、湯気が上がるたびに客席の鼻孔が熱くなる。
「うわぁ~~味のイメージがつかないですけど、美味しそうです~(じゅるり)」
コレットが身を乗り出し声を漏らす。
教会連中も気になるのか、コレットが声を上げるたびにチラチラとこちらを伺っている。
テーブル席の女神さまたちも思わず唾を飲む音が連鎖して、食欲がそそられている模様。
よしよし、じゅるりが伝播しはじめたぞ。
「さて、炒めるのはこれでよしと」
俺はフライパンを置くと鍋の出汁を確認して昆布を取り出し、炒めた肉とキムチを鍋に加える。
赤と黄金の色が混ざり合い湯気とともに香りが立つと、女神さまたちが思わず鼻先を鍋に近づける。
「……なにこの香り……刺激的だわ~~(じゅるり)」
「そうよね! なにかツンとくるような、それでいて濃厚な……(じゅるり)」
「ですね! ですね! どんな味がするんでしょうか!(じゅるり)」
女神たちとロメリーが想像できない未知の料理に目を輝かせる。
さっきまで女神に恐縮しっぱなしだった聖女の姿はもはやどこにもない。食欲に勝るものはないからな。
鍋に長ねぎ、えのき、豆腐を加え、弱火でじっくり煮る。
次に、味噌、醤油、みりんを合わせて鍋に溶かすと、赤と茶の深みのあるスープがさらに濃くなる。
「ふわぁ~~カニ鍋とはまた違った色ですね~~♪(じゅるり)」
「そ、そうだなコレット。なぜだか食欲を掻き立てられる不思議な感じだ(じゅるり)」
よしよし、コレットとレイナもじゅるりが止まらなくなってきたぞ。
仕上げにニラと残りのキムチを加え、軽く全体を混ぜる。
蓋をして少しばかり煮ると、鍋の中で具材とスープが絡まり香りが厚みをいっそう増した。
「あとちょっとだからな」
「「「「「じゅるり!」」」」」
コクコクと反射的に頷く女神たち。
ひと通り火が通ったことを確認した俺は―――
鍋の蓋をゆっくり持ち上げた。
赤く濃厚なスープと湯気が立ち上り、肉やキムチに豆腐が顔を出す。鼻孔をくすぐるキムチの香り、肉と野菜の旨味が一体になったにおい。
やはりキムチ鍋はいいな。この食欲をそそる感じがたまらんよ。
「―――よし、完成だ。心ゆくまで食べてくれ」
「「「「「ごくり……」」」」」
先程までじゅるりしていた面々だが、いざ実食となると手が止まったようだ。
まあこんな赤い鍋、食べるのも見るのも初めてだろうから気持ちはわかる。
そんな静かな均衡を破った者がひとり……
女神グラティアだ。
ゆっくりと、キムチ鍋を口に運ぶ女神さま。
口に入れた瞬間―――
「ああぁ……いたいっ! なんか、いたいわ!」
「ちょっとグラティア、いたいってなによ……そんな料理あるわけないで……いたっ! いたいっ!」
女神さまたち2人が揃って同じリアクションを取った。
続いてロメリーも口を抑えながら「ひぃっ……!」と涙目で箸を握り、レイナは「な、なにこれ!?」と目を大きく見開き唇を震わせる。
まあ確かに初キムチの辛味にはビックリするだろう。
「うわー、わしこの辛いの無理じゃ!」
「大司教さま、この赤き地獄の汁は……悪魔の食事……!?」
後ろのテーブル、大司教組の反応も似たような感じだ。
俺はちょっとニヤリとしながら全員の反応を観察する。
むふふ、だよな。初めはそういう反応がくると思ってだぜ。
だが一名だけ、予想とは違う反応をした子がいる。
「ふはぁ~~これ凄いです~~クセになるぅ~ハフハフ~♪」
我がド田舎食堂の看板娘コレットだ。
彼女はまわりの目などおかまいなしに、キムチ鍋を夢中でかきこんでいく。
「こ、コレットさん、大丈夫なのですか?」
「そ、そうだ。コレットいたくないのか?」
ロメリーとレイナはコレットの気が狂ったのかと、心配そうな声をだす。
「え? いたい? まあちょっと辛いですけど。全然いけますよ~~はぁ~美味しいです~ハフハフ」
そんなコレットの食欲に刺激されてか、女神グラティアが再びキムチ鍋を口にしはじめた。
女神アスタやロメリー・レイナもそれに続く。
「いたっ! でも、うまっ! ハフハフ!」
「た、たしかに! なんかクセになってきたわ! ハフハフ!」
「ほ、本当ですね! いたっ! おいし! いたっ! おいし! 美味しぃ~~い!」
「う、うむ。あたし、これ……止まらないわ! ハフハフ!」
よしよし、だろう。
こいつは止まらなくなるんだよ。
辛さの刺激が快感に変わって、具材の旨味と合わさって食欲をそそるんだよなぁ。
痛みと快感の連鎖ってやつだ。
猛烈な勢いでハフハフする女神たちの様子を見て、他のテーブルの面々も次第に箸が進み出す。
汗を拭いながらも、キムチ鍋の具材を口に運びじゅるりと唾を飲む音が聞こえる。
赤くなった頬を押さえつつ、辛味に負けずスープをすする。
大司教のテーブルも、テンションが異常なことになってきた。
「う……うまっ!? …だが辛っ!! …だがうまいぞ!!」
「大司教さま……さっき、無理とか言っておられたのでは?」
「「「そうだそうだ、ここは我らが食べますゆえ」」」
「何を言うておる~~わしもガンガンいくぞ~~」
食堂の客が全員、夢中で貪り食いはじめた。
女神も聖女もS級冒険者も看板娘も大司教も汗まみれでハフハフ。
こりゃ――――――最高じゃないか。
「し、シゲル君! これ、すごいわ! こんな料理を最後に用意してたなんて!」
女神さまが大興奮だ。
むふふ……これで終りだと思っているようだがそのキムチ鍋……まだまだ進化するんだなぁ。
俺はいっさい手を抜かんからな。
容赦はしないぞ……全員じゅるり天国に落としてやるぜ。
よしよし、夢中になってむさぼっているじゃないか。
だがこんなもんで終わらないぜ。まだ序章だ。
「じゃ、次の鍋そろそろいくぞ」
「「「「「…………!?」」」」」
黙ってカニをほじってた面々が、一斉にこちらを向いた。
手元はカリカリ継続中だが。
「店長~~なにすればいいですか~?」
コレットが席から立ち上がり、腕まくりをする。
彼女には各テーブルの鍋に水と煮干し、それに昆布を入れてもらい静かに火をつける。
ふつふつと小さな泡が縁に現れ、だしの香りが立ち上った。
さて、コレットが各テーブルの準備を進めているうちに、俺はカウンター奥の厨房で具材を整える。
まな板に並ぶのは、長ねぎ、ニラ、えのき、豆腐。これらを鍋に入れやすいように切っていく。そして次に取り出したるは……
赤みがかった白菜。
「ふあぁ~~店長なんですかこれ?」
カウンターから身を乗り出したコレットが、まじまじとまな板の上のブツを凝視する。
さすがのコレットもこいつは知らないか。
「これはキムチだ」
「きむち?」
まあわからんのも無理はない。キムチはこの異世界には存在しないからだ。少なくとも世界中を旅した俺は見たことないからな。
そもそもこの世界には激辛はおろか、辛い食べ物という文化があまり発達していない。
むふふ……本日のお客さま、あらたな味の世界にご招待というわけだ。
「ってことはシゲル君?」
「そうだ、2つ目の鍋はキムチ鍋だ」
「「「「「キムチなべ!!」」」」」
なぜか全員が元気に復唱した。ついでにうしろの大司教たちも。
ま、解説はあえてしない。こいつは食べてからのお楽しみだ。
俺はキムチを食べやすく切る。そして魔導冷蔵庫から更なる具材を取り出した。
ナイトコカトリスのもも肉。こいつをひと口大のサイズに切り分ける。
脂が適度にあり柔らかく弾力もある。鍋に入れれば、じんわり旨味がスープに溶け出すってわけだ。
それから、もう一丁お肉をば。レッドボアのバラ肉を薄切りにする。
バラ肉は脂身の甘みと旨味がキムチ鍋のスープに溶け出し、鍋全体にコクと深みを与えてくれる。
前世では豚キムチとして使用される定番の部位だな。相性も抜群だ。
さて、具材の用意はこれでよしと。
これを全部鍋に入れてもいいんだが……そうはいかん。ここはひと手間加えるぞ。
フライパンにごま油をひき、粗くみじん切りにした生姜とにんにくを香りを確認しながらフライパンを熱する。
香りが立ったところで、ナイトコカトリスのもも肉とレッドボアのバラ肉をサッと入れる。赤身と脂身が層になった肉は、火を通すと脂の甘みがじんわり滲む。
「んん~~いいかおりぃ~(じゅるり)」
「ふはぁ~~おにくぅ~~~(じゅるり)」
テーブル席から女神さまが鼻をクンクンさせて、コレットはカウンター越しに身を乗り出してじゅるりする。
うむ、やっぱ肉ってのはいかなる場合でも正義だな。
肉の色が変わったところで、キムチ半分を投入。
ぱちぱちと音を立て赤い汁が油と絡み、湯気が上がるたびに客席の鼻孔が熱くなる。
「うわぁ~~味のイメージがつかないですけど、美味しそうです~(じゅるり)」
コレットが身を乗り出し声を漏らす。
教会連中も気になるのか、コレットが声を上げるたびにチラチラとこちらを伺っている。
テーブル席の女神さまたちも思わず唾を飲む音が連鎖して、食欲がそそられている模様。
よしよし、じゅるりが伝播しはじめたぞ。
「さて、炒めるのはこれでよしと」
俺はフライパンを置くと鍋の出汁を確認して昆布を取り出し、炒めた肉とキムチを鍋に加える。
赤と黄金の色が混ざり合い湯気とともに香りが立つと、女神さまたちが思わず鼻先を鍋に近づける。
「……なにこの香り……刺激的だわ~~(じゅるり)」
「そうよね! なにかツンとくるような、それでいて濃厚な……(じゅるり)」
「ですね! ですね! どんな味がするんでしょうか!(じゅるり)」
女神たちとロメリーが想像できない未知の料理に目を輝かせる。
さっきまで女神に恐縮しっぱなしだった聖女の姿はもはやどこにもない。食欲に勝るものはないからな。
鍋に長ねぎ、えのき、豆腐を加え、弱火でじっくり煮る。
次に、味噌、醤油、みりんを合わせて鍋に溶かすと、赤と茶の深みのあるスープがさらに濃くなる。
「ふわぁ~~カニ鍋とはまた違った色ですね~~♪(じゅるり)」
「そ、そうだなコレット。なぜだか食欲を掻き立てられる不思議な感じだ(じゅるり)」
よしよし、コレットとレイナもじゅるりが止まらなくなってきたぞ。
仕上げにニラと残りのキムチを加え、軽く全体を混ぜる。
蓋をして少しばかり煮ると、鍋の中で具材とスープが絡まり香りが厚みをいっそう増した。
「あとちょっとだからな」
「「「「「じゅるり!」」」」」
コクコクと反射的に頷く女神たち。
ひと通り火が通ったことを確認した俺は―――
鍋の蓋をゆっくり持ち上げた。
赤く濃厚なスープと湯気が立ち上り、肉やキムチに豆腐が顔を出す。鼻孔をくすぐるキムチの香り、肉と野菜の旨味が一体になったにおい。
やはりキムチ鍋はいいな。この食欲をそそる感じがたまらんよ。
「―――よし、完成だ。心ゆくまで食べてくれ」
「「「「「ごくり……」」」」」
先程までじゅるりしていた面々だが、いざ実食となると手が止まったようだ。
まあこんな赤い鍋、食べるのも見るのも初めてだろうから気持ちはわかる。
そんな静かな均衡を破った者がひとり……
女神グラティアだ。
ゆっくりと、キムチ鍋を口に運ぶ女神さま。
口に入れた瞬間―――
「ああぁ……いたいっ! なんか、いたいわ!」
「ちょっとグラティア、いたいってなによ……そんな料理あるわけないで……いたっ! いたいっ!」
女神さまたち2人が揃って同じリアクションを取った。
続いてロメリーも口を抑えながら「ひぃっ……!」と涙目で箸を握り、レイナは「な、なにこれ!?」と目を大きく見開き唇を震わせる。
まあ確かに初キムチの辛味にはビックリするだろう。
「うわー、わしこの辛いの無理じゃ!」
「大司教さま、この赤き地獄の汁は……悪魔の食事……!?」
後ろのテーブル、大司教組の反応も似たような感じだ。
俺はちょっとニヤリとしながら全員の反応を観察する。
むふふ、だよな。初めはそういう反応がくると思ってだぜ。
だが一名だけ、予想とは違う反応をした子がいる。
「ふはぁ~~これ凄いです~~クセになるぅ~ハフハフ~♪」
我がド田舎食堂の看板娘コレットだ。
彼女はまわりの目などおかまいなしに、キムチ鍋を夢中でかきこんでいく。
「こ、コレットさん、大丈夫なのですか?」
「そ、そうだ。コレットいたくないのか?」
ロメリーとレイナはコレットの気が狂ったのかと、心配そうな声をだす。
「え? いたい? まあちょっと辛いですけど。全然いけますよ~~はぁ~美味しいです~ハフハフ」
そんなコレットの食欲に刺激されてか、女神グラティアが再びキムチ鍋を口にしはじめた。
女神アスタやロメリー・レイナもそれに続く。
「いたっ! でも、うまっ! ハフハフ!」
「た、たしかに! なんかクセになってきたわ! ハフハフ!」
「ほ、本当ですね! いたっ! おいし! いたっ! おいし! 美味しぃ~~い!」
「う、うむ。あたし、これ……止まらないわ! ハフハフ!」
よしよし、だろう。
こいつは止まらなくなるんだよ。
辛さの刺激が快感に変わって、具材の旨味と合わさって食欲をそそるんだよなぁ。
痛みと快感の連鎖ってやつだ。
猛烈な勢いでハフハフする女神たちの様子を見て、他のテーブルの面々も次第に箸が進み出す。
汗を拭いながらも、キムチ鍋の具材を口に運びじゅるりと唾を飲む音が聞こえる。
赤くなった頬を押さえつつ、辛味に負けずスープをすする。
大司教のテーブルも、テンションが異常なことになってきた。
「う……うまっ!? …だが辛っ!! …だがうまいぞ!!」
「大司教さま……さっき、無理とか言っておられたのでは?」
「「「そうだそうだ、ここは我らが食べますゆえ」」」
「何を言うておる~~わしもガンガンいくぞ~~」
食堂の客が全員、夢中で貪り食いはじめた。
女神も聖女もS級冒険者も看板娘も大司教も汗まみれでハフハフ。
こりゃ――――――最高じゃないか。
「し、シゲル君! これ、すごいわ! こんな料理を最後に用意してたなんて!」
女神さまが大興奮だ。
むふふ……これで終りだと思っているようだがそのキムチ鍋……まだまだ進化するんだなぁ。
俺はいっさい手を抜かんからな。
容赦はしないぞ……全員じゅるり天国に落としてやるぜ。

