料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 ド田舎食堂の店内を眩い光が埋め尽くした。
 まるで真昼の太陽が天井から降りてきたかのように―――

 金糸の髪、透き通るような白い肌、そして淡く輝く羽衣。
 その全身から神々しい光を放つ女性が店内に降り立った。

 「ちょっと!! 大事な神棚になにしてくれてんのよアンタらぁ!!」

 怒鳴ってるのに神々しい。
 いや、神々しいのに怒鳴ってる。
 どっちでもいいが、存在感が強烈だ。

 この感じ……ああ……久しぶりだな。
 間違いない。俺を異世界に転生させてくれたあの女神さまだ。

 「め、め、女神様って。ど、ど、ど、どういうこと、シゲル!」
 「ふぁああ~~~て、て、店長~~! お二人ともキラキラしてますぅぅ~~!」

 レイナは完全に硬直、コレットはテンション上がってぴょんぴょん飛んでる。
 んでロメリーはというと……

 「%&②ぁあウ!めがァ?!$さむぁぱぁ~~&%!!!」

 ダメだ、なんか目が見たこともないマークになってる。
 とりあえず、彼女はそっとしておいてと。

 俺は目の前にいる超絶美人さんに対してコック帽を脱ぎ、頭を下げる。

 「ふふシゲル君、ひさしぶりね。元気そうでなによりだわ」
 「ああ、おかげさまで好きなことをやらせてもらってる。ところで、そちらも女神さまなのか?」

 女神さまの隣にもう一人。光に包まれた別の美女がいた。
 こちらは銀髪の穏やかな雰囲気だが、目がやや鋭い雰囲気を醸し出している。

 「ええ、この子は女神アスタよ。私の腐れ縁で食べ友なのよ」
 「ちょっ、グラティア! なんて紹介の仕方するのよ!」

 ……なるほど。グルメ友達か。
 もうちょっと女神らしくしなさいと起こる銀髪の女神と、ごめ~んとてへぺろする金髪の女神。
 仲の良い食べ友のようだな。

 「アスタもシゲル君の料理を気に入ってるの。でもさ~私の分なのに横からつまみ食いするのよ~」
 「はあ? ちょ、ちょっと、余計なこと言わないでよ!」

 「おお、マジか。そいつは知らんかった」

 俺の知る女神さま以外にも、俺の飯を贔屓にしてくれるやつがいるんだな。
 いいね、なんか嬉しいわ。

 そんな会話を続けていたら、緑の髪が俺の視界に入ってきた。目が正気に戻ったロメリーだ。

 「な、なんで女神様と普通に会話してるんですか、シゲルさんっ!?」
 「ちょっとした知り合いだからな」
 「そんなご近所さん感覚で、女神様と知り合わないんですよ!?」

 ロメリーが突っ込みを入れる横で、レイナとコレットも頷いている。

 「さすがシゲルね……」
 「店長の無茶苦茶はブレないですぅ~~~」

 そう言われてもな。
 女神さまは俺が転生したってことは伏せてくれてるようだし。知り合いってのは嘘じゃない。

 いや、俺だって驚いたんだぞ?

 「フフ、せっかく下界にきたんだから、シゲル君ともう少しおしゃべりしたいとこだけど……ちょっとそれはあとね」

 女神グラティアが、くるりとその綺麗な顔をうしろに向ける。
 大司教ドロスたちを見た瞬間、その瞳が冷たい光を帯びた。

 「さてと……私の大事な神棚に手を出そうとした不届き者たちを、どうしてくれようかしら」

 女神の指先が軽く動いた、その瞬間―――

 「はうぁぁあああ! す、すべての魔法陣が崩壊していくぅうう!!」

 大司教ドロスの叫び通り、教会の面々が展開していた魔法陣が次々と音を立てて砕け散る。
 こりゃすげぇ、さすが女神さまだ。

 「属、属性鑑定……属性多数、鑑定不能っ!」
 「魔力サーチ……じょ、上限突破っ! 測定できませんっ!」
 「だ、大司教さまっ! 最上級鑑定魔法でも未知の反応! これは……もはや神の力かと!」

 取り巻きたちが女神さまに鑑定やサーチをかけたようだが、どれも想定外な結果になっているようだ。

 「ななななな、なぁあああっ!!」

 大司教が死んだように青ざめて、その場でひれ伏した。
 取り巻きたちも雪崩のように土下座をはじめる。

 「め、女神グラティアさまの聖域とは知らず、と、とんだご無礼ぉおお……!」

 「まったくもう、あんたたちがグダグダするから、神棚にご飯が来ないじゃないの! 私、ずっと楽しみにしてたのに!」

 怒るところがそことはな。
 この女神さまは本当に俺の飯を気に入ってくれてるんだ。
 こりゃ最高の誉め言葉だぜ。

 「ご、ご飯? あ、あの……女神様はお食事を取られるので……?」
 「当たり前でしょ! 私、シゲル君のご飯が大好きなんだから!」

 女神が胸を張って言い放つ。
 そのあまりの堂々っぷりに、教会の連中は圧倒されていた。

 「し、シゲル殿……とは? 女神様がご贔屓にされるとは……どこぞの有名宮廷料理人なのでしょうか?」

 「どこぞもなにも、あんたの目の前にいるでしょうが! どこに目ついてんのよ!」


 「「「「「えええええ!! このおっさんがぁああああ!?」」」」」


 「だ、だが……確かに聖女ロメリーもシゲルと言っていたような……」
 「まさか、こんなおっさんが女神様の寵愛を受けているというのか……!」
 「よもや女神様は騙されているのでは!?」

 ふたたびどよめきが起きる。
 だが、女神の声がそれを吹き飛ばした。

 「ちょっと! 私のシゲル君になんか文句あるわけ?」

 ピーーンと張りつめる空気。
 誰も息を呑めない。
 いかなる声よりも、冷たく鋭い声が店内に響いた。

 「あんたたち、勝手に押しかけてきておきながら、シゲル君への敬意が足りてないんじゃない? さっきの神棚の件と言い、やっぱりお仕置きが必要なようね」

 女神さまがパチンと指を鳴らすと、光る槍がスーっと出てくる。
 「さあ、一度苦行を味わってきなさい」と言いながら、光る槍を構える女神さま。
 光りがより強まり、強烈な力がその槍に集約されていく。

 「ひぃいい~女神様がお怒りだ~~!」
 「逃げろぉ~~~!」
 「死んじゃうぅ~てか死んだぁ~~」

 パニックになる店内。窓から無理やり逃げようとする者。その場で祈りをはじめる者。テーブルを持ち上げて盾にしようとする者。
 そんな大混乱にもかかわらず、無情にもブンと振り降ろされる光の槍。

 が……その一撃が店内で炸裂することはなかった。


 「こら、店内で暴れるな」


 出刃包丁で女神の槍を受け止めながら、俺は双方ににらみを利かせた。

 女神グラティアがピタッと止まり、その美しい金髪がフワっと揺れる。

 「女神さま。とりあえずケンカやめて、席に着いたらどうだ?」
 「シゲル君……」

 「う、ウソでしょ……グラティアの一撃を包丁で止めるって」

 そんな様子を見守っていた女神アスタが苦笑する。

 「でも……まずはシゲちゃんの言う通り席につきましょうかグラティア」
 「そうね、ちょっと大人げなかったわ。ごめんね、シゲル君」

 ああ、わかればいい。
 そして俺は床に這いつくばっている教会連中にも声を掛ける。

 「あんたらもだ」

 「ふはぁあああ……女神様の一撃をほ、ほ、ほ包丁でぇえええ」
 「なんなのだこのおっさんは? 元勇者か? いや勇者といえど……」

 そんなことはどうでもいい。


 「いいから座れ。ここは食堂―――飯を食う場所だ」


 店内にいた全員が、一瞬ぽかんとしたあと―――

 「「「「「は、はひいっっ!!!」」」」」

 きれいなコーラスで返事をした。
 大司教まで椅子を引いてピンと背筋を伸ばしている。
 なんだこの光景。

 さて、ようやく落ち着いたな。

 「わぁ~~いっ! シゲル君の食堂でご飯よ~~~っ!」
 「ちょっ……テンション上がりすぎよグラティア……」

 テーブルでキャッキャしはじめる女神さま。
 よしよし、客の期待も温まってきたようだ。これでこそ作りがいがあるってもんだぜ。

 「ふふっ、シゲル君。今日はなにを食べさせてくれるの?」
 「たしか昨日はナイトコカトリスを狩ってたわね」

 ほぅ、下界のことはある程度見ているのか。
 俺は魔導冷蔵庫をあけて、食材の確認をした。

 ナイトコカトリスの肉も使うが……まだクラブロードの身がけっこう残っているな。
 よし、決めた!

 「よっしゃ、今日は大人数だし鍋だな」

 「「鍋!?」」

 2人の女神が同時に声を発する。

 「そうだ、ナイトコカトリス(鳥)とクラブロード(カニ)をふんだんに使った寄せ鍋だ」

 「「なにそれ!?(じゅるり)」」

 女神は二人そろってじゅるりした。

 よしよし、これは最高の鍋を作ってやらんとな。