料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 聖女ロメリーが一歩前に出て口をひらいた。

 「シゲルさんは、ワタクシを救ってくださったのです」

 「救ったとは、どういうことですかな? 聖女ロメリーよ」

 そんな彼女の発言に眉をひそめる大司教ドロス。
 そして大司教の声に、周囲の教会幹部たちもひそひそと蠢き始める。

 「はい、シゲルさんには魔の洞窟で絶体絶命の窮地を救って頂きました」

 ロメリーの視線がスッと俺に向けられる。
 その動きを見た大司教がさらに眉をひそめた。

 「報告書にあった聖女に助力した人物がこの店主だと……?」

 「いやいや、ゴーストグランデをこんなおっさんが浄化できるわけがない!」
 「そうそうだ、女神の祝福もうけておらんただのさびれた田舎食堂のおっさんだぞ!」
 「我ら崇高な教会本部のものならまだしも、こんなコックがなにを助けるというのか!」

 さびれた食堂で悪かったな。
 まわりの取り巻きたちが、好き勝手なことを言っている。
 そもそもあんたらがフォローしないから、この子がしんどくなってるのだが。

 取り巻きたちのガヤが飛び交う中、ロメリーはガバッと振り返り、俺をかばうように手を広げた。

 「違います! 違うのです! シゲルさんはとてもお強いお方です! 魔の洞窟の魔物も、海辺のリッチーも、討伐したのはシゲルさんです!」

 ロメリーが声を大きくはった。
 普段ここまで彼女が抵抗したことはなかったのだろうか、まわりも驚きの様子を隠せないようだ。

 そこへ大司教がズイっと前に出て、ロメリーに問いかける。

 「むうぅ……それが仮に事実だとして、お勤めはどうしたのだ? 聖女ロメリーよ」

 「はい、当初の依頼を完了したのでお休みを頂いておりました。こちらの食堂は素晴らしいご飯がいっぱいで、心身ともに癒されております」

 ロメリーは、はっきりした口調で大司教への問いかけに答えた。
 大司教がさらにズイっと前にでた。

 「仕事が片付いたなら、なぜすぐに次のお勤めをこなさぬのか? なぜ善行に励まぬのだ?」

 そんな大司教の言葉に、ロメリーは真摯に答える。

 「で、でも。シゲルさんが、お休みすることも大事だと気づかせてくれたんです。だからワタクシは……」

 そんな彼女の言葉を遮るように、再びヤジが飛ぶ。

 「聖女様は善行を積むことがお勤め、なぜこんなさびれた店にいりびたっているのか?」
 「そうだそうだ! 聖女様が動いてくれんと仕事が回らんのだ!」
 「善行だ、善行を積むのです!」

 おいおい、こんな少女1人に全部押し付ける気かよ。

 前世の俺を思い出す。

 「これはおまえの仕事だ」
 「好きでやってるんだろ?」
 「代わりはいない」
 「やらなければみんなに迷惑がかかるんだぞ」

 何度も何度もすり込まれて。
 その結果、疑問をもつ余裕すら潰されてしまった。

 ロメリーも同じだ。

 「聖女だから」
 「救わねばならぬから」

 それが使命と徹底的に教え込まれたから逆らえない。
 幼い頃から積み重ねられた刷り込みは重い。

 ……でもな。

 俺は転生した。
 俺はもう一度やり直すことが出来た。

 だからこそ、この子を見捨てられねぇって気持ちがふつふつとわいてくる。


 「おい、聖女は別にもいるんだろ? ロメリーに全て任せるのはどうかと思うぞ」


 おっと、思わず口が出てしまったな。
 俺の言葉が発せられるとしばらくの静寂が店内を包んだ。

 そして次の瞬間―――

 「はぁ? 他の聖女だと? 聖女クレイマに頼むだと!?」
 「いやいや、あの女は扱いが難しい!」
 「では聖女アンドレが―――」
 「いやいやいや! もっとだめだ! あれは教会の信用を落とす」
 「では貴殿の教会所属の―――」
 「それも無理だ! 彼女は暴走する!」

 ……なんだ、他の聖女は全員ヤベーのか。

 てことは……
 ロメリーは幼くして聖女になった。だから扱いやすかったんだろう。
 ほかにも候補はいたのかもしれない。だがみんなロメリー状態になる前に病んでしまったのかもしれん。この子は人一倍強いから、我慢しているうちにそれが我慢とは思わなくなってしまったんだろうな。

 「ええい!」

 大司教が杖を叩いた。

 「そのようなことはどうでもよい! 善行を積むのがあなたの目的ではないのか? 聖女よ!」
 「あの、ですからワタクシは仕事のバランスを考えて……」
 「善行にバランスなど無関係ではないのか? 聖女よ!」
 「で、ですから……その……」
 「聖女よ、善行を積むことになぜ迷う!」

 ロメリーはうつむいてしまった。
 俺は彼女の肩を優しく掴んでうしろに下がらせる。
 大司教たちの前に出た俺は、メニューをグイっと前に出した。

 「おい。ここは少女を吊るし上げる場所じゃねぇ。飯を食う場所だ。とりあえず注文してけ。話はそれからだ」

 「はいはい~~お冷ですねぇ~♪」

 俺に合わせるように、テーブルにお冷を配り出すコレット。

 「なにを言っておる。田舎のおっさん店主ごときが仕切るでないわ!」
 「客じゃないなら……ご退店いただくしかないんだが? 教会のお偉方はそんな道理もわからんのか」

 少しばかり圧をかけて言い放つと、大司教の眉間にしわが寄る。

 「くっ……誰がこんな店の飯を―――!」

 そこまで言いかけた大司教が、ふと俺の背後に視線を動かした。

 「む……なんだこの棚は?」

 大司教の視線の先にあったのは神棚。
 取り巻きたちがざわつく。

 「大司教、これは……異教の祭壇かと!」

 「アホか。ただの神棚だよ」

 俺は呆れたように教えてやる。

 「邪教の儀式に違いありません!」
 「もしや悪魔召喚の可能性も!」
 「神とは邪神のことでは?」
 「我らが女神グラティア様の名のもとに浄化せねば!」

 全員が魔法陣を展開しはじめる。


 ―――いやいやいや。


 なにやってんだよ、いい年した大人が。
 仕方なく俺が止めようとしたその瞬間―――

 神棚が、ぼわっと光り輝いた。

 眩い光が天井を突き抜ける。
 羽衣のきらめき、甘い香り、柔らかな風。

 ―――ストン

 神棚の上から、ひとりの女性が降ってきた。

 「ちょっと!! 大事な神棚になにしてくれてんのよアンタらぁ!!!」

 神々しい光と淡い羽衣に包まれた超絶美人さんの叫びが店内に響く。

 続いてもう一人、ストン。

 「ちょっ、グラティア! あんたが引っ張るから、わたしも下界に落ちちゃったじゃない!」

 おお、懐かしいな。
 後から落ちてきたのは知らんが。

 「ぐ、ぐ、ぐ、グラティア……!?」

 大司教がいまだかつてないほどガクブルしている。

 「げかい……って? ぐ、ぐらてぃあって……? こ、このお顔……って? し、しげるさん。ま、まさかまさかまさかですよね? さすがのシゲルさんでもこれはないですよね?」

 ロメリーはもっとガクブルしていた。

 「こ、こ、このお方は?」

 「おお、女神さまだな」


 「「「「「め、女神様ぁあああああ!?」」」」」


 全員が叫んだ。