今回の討伐目標であるナイトコカトリスをしとめた翌日、俺たちはド田舎食堂に帰ってきた。
陽が再び沈みつつある夕暮れ時。
「ふぅ~あの焼き鳥~絶品だったわ~」
「ですです~タレ以外のも食べてみたいですね~」
女剣士レイナと聖女ロメリーが満ち足りた顔で談笑している。
即席で作った夜食をいたく気に入ってくれたようだ。
さて、食堂に戻って魔導冷蔵庫に食材をいれんとな。落ち着いてから今晩の料理を考えるか。
んん?
なんだか、店内が騒がしいな。
ガラっと引き戸を開けると―――
「満席やないかい!!」
俺は思わず叫んじまった。
なんじゃこの光景は。
普段はほぼうちの看板娘しかいないんだが……まあ、それもどうかと思うけど。
それが今は―――人、人、人、人、人。
だが、いきなり有名店になったのでは無さそうな雰囲気。
なぜならこいつらの服装は……
「あ、店長~おかえりなさ~い♪」
カウンターからぴょっこと顔を出したのは、うちの唯一の店員である看板娘のコレット。
栗色の髪にレイナからもらったカチューシャをつけて、いつもの調子でひょこっとこちらに駆けてくる。
「おう、コレット。どうしたんだこれ?」
「ええっとですね―――」
「ふむ。あなたが店主か」
コレットの話を遮るように奥の席からずいっと出てきたのは、かっぷくのいい初老の男。
金刺繍の襟付き法衣に、ピカピカのロザリオを首から揺らしながら俺をジロリと見据えてきた。
「わしは大司教ドロスである」
大司教ってことは、教会本部の人間か。
まわりにいるやつらも全員、白い法衣とか青い刺繍入りのマントとかいかにも教会の関係者ですって格好をしている。
なるほど、だいたい状況は把握した。
こいつらの目的は―――
俺ではなく、ロメリーだ。
ロメリーは聖女。そして聖女の所属は大教会。
つまり、この男はロメリーの上司ってことか。
「んで、その大司教さまとやらが、俺の食堂になんの用事だ?」
俺はにべもなく言った。
すぐさま、ガタガタッと席から立ちあがる音が連なる。
「くっ……大司教様にむかって不敬だぞ!」
「ハハっ、田舎のおっさんには事の重大さが理解できておらんのだよ」
「たしかに、こんなさびれた食堂の店主ではやむを得んか」
さびれた食堂で悪かったな。
でもな、俺んとこの飯はうまいぞ。
うしろを見るとロメリーの肩がわずかに震えていた。
その表情は、この子が食堂にきたばかりの顔になっている。一気に現実に戻されたといった感じだな。
やはり長年染み込んだ体質は、そうは変わらないようだ。
「ふむ、そうであったな。我らが話をするは店主ではなく―――」
大司教ドロスがロメリーに視線を向けた。
ロメリーの指が、聖杖を強く握りしめて白くなる。
だがその重苦しい空気を―――全て吹き飛ばしたやつがいる。
クンクン……
クンクンクン……
クンクンクンクンクン……
「……コレット?」
我がド田舎食堂の看板娘が、鼻をヒクヒクさせて寄せてきた。俺の身体をよじ登らんとする勢いで。
大司教が怪訝な顔をコレットに向ける。
「これ、娘。な、なにをして―――」
「―――店長ぉおお!! 豚汁作ったでしょ!!」
「ひっ! わ、わしの話を……」
クンクンクン……
「それに! 焼き鳥のにおいがするぅぅぅうう!!」
「さっきからなにを言っておるのだ!?」
大司教が困惑する中、コレットは俺の袖をつかんでぶんぶん揺らす。
「店長! においを残すなんて反則ですよぉ!!」
そう言われてもな、野営で食事はするもんだし。やっぱ獲りたても調理したいしな。
そんな俺たちを見て、大司教は顔を真っ赤にして杖を床に叩きながら声を荒げた。
「わしは女神グラティアさまより天啓を賜りし大司教である! 今はくだらん食のはなしなど―――」
「ああぁああ! 甘いにおいもするぅぅぅぅ!!!」
「わしの話を聞かんかぁあああ!!」
俺は苦笑して肩をすくめた。
「わるいなじいさん。この娘の食欲はあんたじゃ止められんのでな」
「むぬぅ……なんと無礼な……」
大司教は怒りでぷるぷる震えながら、食堂中に言い放った。
「皆の者! 聞け! この店主シゲルという男、聖女ロメリーをたぶらかし恩恵を独占しようとする邪悪な男である!! それが証拠にこの娘にも邪悪な教えを浸透させて、教会をないがしろにしておる!」
なんじゃそりゃ……
「な、なんと!!」
「聖女様を私欲に利用!? 許せん!」
「断罪せよ! 教会の敵だ!」
店内がざわめきに包まれる。
おいおいおい、どういう理屈でそうなるんだ。娘のやんちゃぐらい大目に見てやれよ。そもそも雁首揃えてこんな辺境まで来る必要があるのか?
俺が一歩前に出ようとした時、誰かに袖を引っ張られた。
「あ、あの……」
ロメリーが一歩前に出る。
その瞳は揺れていない。
「違うんです。皆さま」
静かで、でも芯のある声。
その場すべての視線が、一人の少女に注がれる。
ロメリーは胸の前で指を組み―――
「シゲルさんは、ワタクシを救ってくれました。だから悪人なんかじゃありません」
そこにはいつもの顔のロメリーがいた。
陽が再び沈みつつある夕暮れ時。
「ふぅ~あの焼き鳥~絶品だったわ~」
「ですです~タレ以外のも食べてみたいですね~」
女剣士レイナと聖女ロメリーが満ち足りた顔で談笑している。
即席で作った夜食をいたく気に入ってくれたようだ。
さて、食堂に戻って魔導冷蔵庫に食材をいれんとな。落ち着いてから今晩の料理を考えるか。
んん?
なんだか、店内が騒がしいな。
ガラっと引き戸を開けると―――
「満席やないかい!!」
俺は思わず叫んじまった。
なんじゃこの光景は。
普段はほぼうちの看板娘しかいないんだが……まあ、それもどうかと思うけど。
それが今は―――人、人、人、人、人。
だが、いきなり有名店になったのでは無さそうな雰囲気。
なぜならこいつらの服装は……
「あ、店長~おかえりなさ~い♪」
カウンターからぴょっこと顔を出したのは、うちの唯一の店員である看板娘のコレット。
栗色の髪にレイナからもらったカチューシャをつけて、いつもの調子でひょこっとこちらに駆けてくる。
「おう、コレット。どうしたんだこれ?」
「ええっとですね―――」
「ふむ。あなたが店主か」
コレットの話を遮るように奥の席からずいっと出てきたのは、かっぷくのいい初老の男。
金刺繍の襟付き法衣に、ピカピカのロザリオを首から揺らしながら俺をジロリと見据えてきた。
「わしは大司教ドロスである」
大司教ってことは、教会本部の人間か。
まわりにいるやつらも全員、白い法衣とか青い刺繍入りのマントとかいかにも教会の関係者ですって格好をしている。
なるほど、だいたい状況は把握した。
こいつらの目的は―――
俺ではなく、ロメリーだ。
ロメリーは聖女。そして聖女の所属は大教会。
つまり、この男はロメリーの上司ってことか。
「んで、その大司教さまとやらが、俺の食堂になんの用事だ?」
俺はにべもなく言った。
すぐさま、ガタガタッと席から立ちあがる音が連なる。
「くっ……大司教様にむかって不敬だぞ!」
「ハハっ、田舎のおっさんには事の重大さが理解できておらんのだよ」
「たしかに、こんなさびれた食堂の店主ではやむを得んか」
さびれた食堂で悪かったな。
でもな、俺んとこの飯はうまいぞ。
うしろを見るとロメリーの肩がわずかに震えていた。
その表情は、この子が食堂にきたばかりの顔になっている。一気に現実に戻されたといった感じだな。
やはり長年染み込んだ体質は、そうは変わらないようだ。
「ふむ、そうであったな。我らが話をするは店主ではなく―――」
大司教ドロスがロメリーに視線を向けた。
ロメリーの指が、聖杖を強く握りしめて白くなる。
だがその重苦しい空気を―――全て吹き飛ばしたやつがいる。
クンクン……
クンクンクン……
クンクンクンクンクン……
「……コレット?」
我がド田舎食堂の看板娘が、鼻をヒクヒクさせて寄せてきた。俺の身体をよじ登らんとする勢いで。
大司教が怪訝な顔をコレットに向ける。
「これ、娘。な、なにをして―――」
「―――店長ぉおお!! 豚汁作ったでしょ!!」
「ひっ! わ、わしの話を……」
クンクンクン……
「それに! 焼き鳥のにおいがするぅぅぅうう!!」
「さっきからなにを言っておるのだ!?」
大司教が困惑する中、コレットは俺の袖をつかんでぶんぶん揺らす。
「店長! においを残すなんて反則ですよぉ!!」
そう言われてもな、野営で食事はするもんだし。やっぱ獲りたても調理したいしな。
そんな俺たちを見て、大司教は顔を真っ赤にして杖を床に叩きながら声を荒げた。
「わしは女神グラティアさまより天啓を賜りし大司教である! 今はくだらん食のはなしなど―――」
「ああぁああ! 甘いにおいもするぅぅぅぅ!!!」
「わしの話を聞かんかぁあああ!!」
俺は苦笑して肩をすくめた。
「わるいなじいさん。この娘の食欲はあんたじゃ止められんのでな」
「むぬぅ……なんと無礼な……」
大司教は怒りでぷるぷる震えながら、食堂中に言い放った。
「皆の者! 聞け! この店主シゲルという男、聖女ロメリーをたぶらかし恩恵を独占しようとする邪悪な男である!! それが証拠にこの娘にも邪悪な教えを浸透させて、教会をないがしろにしておる!」
なんじゃそりゃ……
「な、なんと!!」
「聖女様を私欲に利用!? 許せん!」
「断罪せよ! 教会の敵だ!」
店内がざわめきに包まれる。
おいおいおい、どういう理屈でそうなるんだ。娘のやんちゃぐらい大目に見てやれよ。そもそも雁首揃えてこんな辺境まで来る必要があるのか?
俺が一歩前に出ようとした時、誰かに袖を引っ張られた。
「あ、あの……」
ロメリーが一歩前に出る。
その瞳は揺れていない。
「違うんです。皆さま」
静かで、でも芯のある声。
その場すべての視線が、一人の少女に注がれる。
ロメリーは胸の前で指を組み―――
「シゲルさんは、ワタクシを救ってくれました。だから悪人なんかじゃありません」
そこにはいつもの顔のロメリーがいた。

