料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 【レイナ視点】


 「ふぁああ、ど、ど、どうしましょうレイナさん、ワタクシ人間やめちゃったのかもぉ……」
 「だ、大丈夫か、ロメリー殿!」

 思わず声が裏返った。いや、裏返るのも当然よ。だってロメリー殿は、今さっきまで完全に石だったんだから。

 ナイトコカトリスの放った照らされたものを石に変える「石化の邪光」。
 ロメリー殿はあたしをかばって、それを正面から受けた。

 受けたはず……だった。

 なのに。

 一瞬の出来事で、運悪くあたしは攻撃モーションに入った瞬間だったから対応がすぐに取れなかった。そして、邪光が照らされたあとに状況があたしの視界に入ってきて……感情がたかぶりじわじわと後悔の念がわいてきたところに「ピシッ」っ音がして……

 「プリン食べたいぃ~~!」て言葉と共に、石がぱっかぁ~んと割れて中からロメリー殿が出てきた。

 いや、出てくるってなにそれ!?

 プリン食べたいってなに!?
 石化をたまごの殻みたいに割るなんて聞いたことないわよ!?
 なにこの聖女さま、いや聖女なんだけども!

 「ねぇ、レイナさん、ワタクシ今の……どんなでした!? ねぇ、ねぇ!」

 ロメリー殿はその勢いのまま、「ねぇ」「ねぇ」とあたしの鎧を掴んでがっしがっし揺らしてくる。
 ちょっと待ってほしい。あたしのほうが「ねぇ」って言いたい。
 石の中からロメリー殿が出てきたもんだから、あたしも混乱しているのよ。

 「わ、ワタクシ、もしかしてシゲルさんみたいでした!? ねぇ、ねぇ、レイナ早く言って!」

 ロメリー殿の取り乱しようがすごい。もはやいつもの「さん」をつけることすら忘れてる。

 「あ、まあ……シゲルっぽくは……あったかな……」

 あたしは言ってから、はっとした。
 本音が出ちゃった。……しまったわ。

 ロメリー殿の綺麗な翡翠色の瞳からハイライトが消えていく。

 だって、だって!

 石をぶち破って生還って、それはもうシゲル級なの!
 凶悪な魔物に「美味いのまて~」って包丁片手に嬉々とした顔して森の中に入って行くコック帽かぶったおっさんと同じカテゴリーだもの!

 「うわぁあ~~ん! やっぱりワタクシ、人間やめちゃったんだぁ~~!」

 ロメリー殿は半泣きであたしにすり寄ってくる。

 「これ、シゲルさんのご飯いっぱい食べてるからですか!? だったらレイナもおなじですよね~一緒に人間やめましょうよぉ~~!」

 「落ち着いて!? あたしを巻き添えにしないで」

 だめだ、ロメリー殿が壊れた。
 完全にメンタルがプリン並みにぷるぷるしてる。
 たしかにシゲルのご飯はどれも絶品で、そのうえなにか不思議な力を与えてくれているような気がするけど……


 「ギュァ! ギュァ! ギャァアアアア!!」


 ―――っ!

 なんて声出すのよ……耳鳴りがあたしの脳をグワンと揺らす。
 ナイトコカトリスの鳴き方が今までと違う。
 自慢の必殺攻撃を無効にされて怒っているような。

 「はれ……? ワタクシ、なにを……」

 「ロメリー殿! 石化対策は、やつのとさかが光ったらすぐさま後方に戻るわ!」
 「ふぇ? あ、わ、わかりました! ワタクシは結界をはればいいんですね!」

 よかった。ロメリー殿が帰ってきた。ナイトコカトリスに脳を揺らされたのが刺激になったのか。いずれにせよ、あたしたちはこいつを討伐しなきゃならない。
 あたしはグッと親指を立ててサムズアップすると、すぐさま地を蹴る。

 シルバードレスに魔力を通わせ、一気にナイトコカトリスとの距離を詰めると、やつの大きな鉤爪が振りおろされてきた。

 その攻撃を受け流し、弾き、踏み込む。

 「はぁあああ!」

 ナイトコカトリスへの斬撃がやつの叫びを誘発して、耳鳴りがガンガンする。
 だが、確実にダメージは蓄積しているはず。

 「―――――ギュアアアアア!」

 この鳴き方……

 やつのとさかが光を帯び始めた。

 あたしは即座にステップを踏んで、後方にすばやく戻る。
 ロメリー殿が待ってましたとばかりに結界を展開した。

 ナイトコカトリスの石化の邪光が結界に直撃して、ジュウウウと焼きつくような音が響く。周辺の空気が死んだみたいに乾き、地面の草が砂になった。

 「にしても、ずいぶんダメージは与えられましたね……」

 ロメリー殿が、あたしに回復魔法をかけながら言う。
 その声には少しばかりの疲れが感じられた。

 「ええ、でもこっちもたいがいだけどね」

 あたしのかえしに、ロメリー殿がフフっと笑う。魔法で体力や傷は回復できても、精神力までは回復できないし、つかれは溜まる。
 永久に戦える者などこの世に存在しない。
 あたしの腕は重い。呼吸も荒くなりはじめてる。

 でも、ここで下がる気はない。
 ナイトコカトリスとの戦闘を重ねて、こいつの攻撃パターンと強度はだいたい把握できた。

 「そろそろ勝負をかけましょうか」
 「そうですね、レイナさん。やっちゃいましょう」

 ロメリー殿の笑顔は、さっきとは違って落ち着いていた。

 あたしは再び白銀のシルバードレスに魔力をこめる。
 先ほどまでの魔力量ではない、もてる力をすべてつぎ込む。


 「さあ、体力の削り合いはそろそろ終わりよ!
 ――――――燃えろぉお! 炎華のドレスアーマー!!」


 魔力が燃え上がり、白銀のドレスアーマーが紅蓮に染まる。
 剣にも、髪にも、靴先にまで炎が宿る。
 シゲルと行動を共にしたときに得たあたしの最終奥義。魔力・体力・精神力を大量に消費するから、短期間しかもたないのでここぞという時にしか使えない。

 だから……ここで決める!!

 大地を蹴った。炎があたしの後を追うように軌道を描く。

 「ギュラァアアア!」

 ゴウッっとナイトコカトリスの放った凄まじい衝撃波があたしを襲う。
 でも……フルパワーのあたしをなめないで!

 真っ赤な炎の固まりとなったあたしは、襲い掛かる衝撃波を突き破り一気に敵の眼前に躍り出た。

 「――――――はぁああああ!」

 炎の斬撃―――

 「ギュ? ギュァアアア!」

 ナイトコカトリスのとさかが宙に飛んだ。
 これで石化攻撃はできないわ。

 「―――つぎぃいい!」

 続けざまに―――へびの尻尾を斬り落とす。

 「ギュルラァアアアア!」

 なに、あの動き!?

 ナイトコカトリスが怒り狂ったのか、その巨体をわずかに浮かせて回転をはじめる。
 巨大なくちばしを突き出して回転力をつけたまま、猛烈なスピードでこちらに突っ込んできた。

 あたしは剣を盾にその突撃を正面から受け止めた。

 ズンと身体に響く重み。
 その衝撃は凄まじく、腕が折れそうなほどきしむ。

 くっ……!

 炎華のドレスアーマーの力も尽きかけている。
 だが、ここで受け流すことはできない。うしろにロメリー殿がいるから。

 「ギュアギュアギュアアアア!」

 ナイトコカトリスの勢いは止まらず、むしろ増していく。

 んくっ……!
 も、もう、力が……!

 物理的にどうしようもない事象に悔しさが湧き出てくる。
 ここまでか……せめてロメリー殿には逃げるよう声をださないと……。

 間近に見るナイトコカトリス。
 頑丈そうな鱗のしたで、筋肉が脈動しているのがわかるわ。

 いえ、そんなことよりロメリー殿に、と声を上げようとしたその時―――


 じゅるり―――


 ……は?

 いや今、あたし「じゅるり」した!?

 なんで!?

 でも、シゲルが言ってた。
 ナイトコカトリスは激うまだって。シゲルは何を作ってくれるんだろう。唐揚げかな。
 皮はパリッと、肉はじゅわっと、旨味が濃くて……

 いえ、やはりあたしの推しはかつ丼よ。
 丼ものにしてくれるつもりなのかもしれないわ!
 鳥ベースの親子丼なるものもあるとか言ってたし……じゅるり。

 いやいやいや、まって! この状況でなにやってんの、あたし!?

 でも……

 なんか力が湧いてくる。

 美味しいご飯を想像すると、なぜか戦える気がしてきた。

 まさか……

 あたしも、もうシゲル側の人間なの!?

 「――――――キュアァアアアア!」

 目の前で奇声をあげる凶悪な魔物。あたしもろとも突き抜けて、ロメリー殿までも巻き込もうとしている。
 ここで死んだらシゲルのご飯はもう食べられないわ。

 それは絶対にいやだ。

 あたしのなかで何かが燃えはじめた。

 「―――はあぁぁぁぁ!」

 赤い炎がかつてないほど集中し、一塊となる。
 受けた炎剣を強引に弾きあげて、突撃してきたナイトコカトリスのくちばしごと上へ弾き飛ばす。

 「ギュガァッ……ガッガァアア!!」

 凄まじい突き上げに、頭からのけ反るナイトコカトリス。

 ―――喉元が、露わになった。今しかチャンスはない!!


 「――――――はぁあああああ!」


 一閃―――炎の軌跡がその斬撃のあとを追う。

 ナイトコカトリスの首が宙をとび、地にズシンと沈んだ。

 ふぅ……

 勝ったわ。

 あたしはそのまま地面にぶっ倒れた。
 仰向けに大の字に転がるあたしの横に、トスっと座るロメリー殿。
 どちらもボロボロね。

 「お見事ですレイナさん」
 「ロメリー殿もお疲れさま」

 しばらくの静寂の後、あたしは口をひらく。

 「ねぇ……ロメリー殿……」
 「はい……なんでしょう……」

 「これ……やっぱり……かつ丼よね……?」

 ロメリー殿は一瞬の沈黙のあと―――

 「ふふっ、唐揚げかもしれませんよ」

 夜の森に2人の笑いとじゅるりが響いた。