夜風が冷たい。森の奥で焚き火がぱちぱちと静かに弾けていた。
その炎の上に鉄鍋。中身はさっき仕留めたレッドボアの豚汁だ。
肉の旨味に根菜の甘み。あわせて味噌の香りが、夜の空気にふわりと溶けていく。
「すはぁ~~~ああ……いい匂い……(じゅるり)」
「ふはぁあ~~見てるだけで温まりそうですね~(じゅるり)」
そうだろそうだろ、野営の楽しみは食事だからな。
腹を空かせた仲間にとっちゃ、これ以上のご馳走はない。俺は2人のお椀に熱々の豚汁を流し込む。
「……できたぞ。熱いから気をつけてな」
俺がお椀を差し出すと、レイナとロメリーが食い入るようにお椀からでる湯気を見つめた。
「……すでに匂いが美味だわ……」
「はぁぁ……これ絶対おいしいやつ……」
レイナが整った鼻をピクリとし、ロメリーは手を合わせる。
「「いただきま~す♪」」
まず、レイナが一口。
お椀を持ち上げ豚汁が唇に触れた瞬間、肩がびくりと震えた。
「……なに……これ……っ」
目元がとろんと蕩けた。
普段は剣を握ってる硬い表情の彼女が、ゆるゆるに蕩けていく。
「身体に……しみるわ……芯から温かくなる……」
ロメリーも続けて一口。
両手で椀を抱え込んで、ほわぁぁぁ~っと声が漏れた。
「しあわせ……あったかい……生き返るぅ……」
まるで湯に浸かった猫みたいな顔だ。
聖女ってこんな顔でとろけるんだな……ちょっとかわいい。
「だめです。止まりません……ハグハグ」
ロメリーの食事ペースがどんどん加速する。
「お肉やわらかいわ……こんなに野営の食事っておいしかったっけ?」
そんなことを呟きながらも、レイナのペースもグングン上がっていく。
そうだろそうだろ、これが携帯食とかだけだとテンションだだ下がりだからな。
野営での楽しみは「飯」の美味さにかかっている。
無心で豚汁をかき込む女剣士と聖女。この2人、本当に食いっぷりが素晴らしいの一言だ。
「おかわり頂けるかしら?」とレイナがお椀を差し出してくる。
「もちろんあるさ」
「じゃあ、あと……いっぱい……いや、二杯……!」
「わ、ワタクシも……あと三杯はいけます……!」
「お前らどんだけ腹へってんだよ」と笑う俺だが、
―――正直、こういう反応が一番嬉しい。
料理を続けていて思うのだが、食った奴がこうやって顔ゆるませて食欲に忠実になる瞬間が一番報われるんだ。
よしよし、2人ともたらふく食ってくれ。
野営であったかい飯が食えるってのは、それだけで幸せだろ。
いやぁ……にしても。
最高じゃねぇか。
焚き火は暖かく夜は静かで、ふたりの笑顔は湯気みたいにやわらかかった。
◇◇◇
焚き火のぱちぱちという音が、静かな夜の森に溶けていく。
「レイナさんが前衛で斬り込んで、私が支援結界を……」
「そうね、互いの位置を素早く確認する方法とロメリー殿の光魔法を―――」
食事も終わり、就寝前のひと時。
レイナとロメリーは、今日の反省会と今後の連携についてなにやら話し込んでいる様子だ。
さて、俺は何をするかというと。
サイドマジックポーチから赤い果実を取り出した。
どこにでもある普通のリンゴである。
ふふふ、豚汁だけで今晩の野営は終わらないんだぜ。
油断している2人をチラッと見て、俺は少しばかり口角を吊り上げた。
さて、やりますか―――
リンゴを手のひらで軽く転がして、芯の周りをナイフでくり抜く。
穴のあいたそこへ小さなバターを落とし、はちみつをとろりと垂らした。
さらにリンゴの側面に竹串を刺し入れて、焚火の傍にそっとかざす。
パチパチ……パチパチ……
焚火のはぜる音。
じっくり、じっくり、時間をかけて熱を通していく。
パチパチ……パチパチ……ジュッ……
バターとはちみつがリンゴの中心で混ざりはじめて、甘い香りが夜風にのる。
「…………あれ? なんでしょう?」
最初に気付いたのはロメリーだった。
彼女にうさ耳と尻尾があったらば、完全にぴくんと動いただろう。
続いてレイナもすぐに鼻をヒクヒクさせる。
「いやいや……なんか……すっごい甘い匂いしない?」
ガサガサ……
よしよし、きたきた。
焚火から漏れ出る甘いにおいに誘われて、2つの影が近づいてきた。
「話し合いもいいが、根を詰めすぎると頭が回らなくなるぞ」
俺はにやりと笑う。
そんな時は、甘いものだ。
ちょうど2人がこちらに来た頃合いで、じゅわぁ……バターが溶け、はちみつが泡立ち、リンゴの果汁と混ざり合う。
焚き火の赤が、リンゴの皮に金色の光を揺らす。
一口かじったときの味と香りを思い浮かべただけでもヨダレものだぞ。
「……待って。絶対おいしいじゃんそれ(じゅるり)」
「はいっ、レイナさん、それ絶対おいしいやつです……(じゅるり)」
よしよし、じゅるりがはじまったか。我慢できなくなってきたな。
俺は頃合いを見て、リンゴを竹串から抜き取り皿に移す。
表面は少ししっとり、スプーンを入れればバターとはちみつに溢れた果肉がほろり。
「はちみつ焼きリンゴだ。熱いから気をつけろよ。」
二人は同時にスプーンを入れ―――そして同時に沈んだ。
「……っ、あま……っ! これがリンゴ?」
「とろっとろと、しゃりしゃりがまざって……な、なんですかこれ……」
レイナは未知の食べ物に遭遇したかのような驚きを見せる。しかしスプーンを動かす手は止まらない。
ロメリーはもう完全に蕩けている。瞳は半分夢の世界。ときおり「ああ女神様……ここが天国なのですね」とかブツブツ漏らしている。
ハフハフという音がしばしの間、森の中にながれた。
「し、シゲルぅ~~最高だったわ~」
「シゲルさん……はふぅ……ああぁ美味しかったぁ」
最後の一口を食べ終えた二人が、あったかい息を吐きながら微笑む。
「もうこれだけで明日がんばれる……」
「野営の夜ってこんなに幸せだったでしょうか……」
焚き火がぱちん、と弾けた。
最高だな、こりゃ。
こんだけ大満足してもらえるなんて、作ったかいがありまくりだぜ。
こういう夜は悪くない。
なんて思っていた時だった―――
――――――!?
魔物の気配か……
レイナとロメリーも同じく感じ取った様子で、一瞬で表情が切り替わる。
「にしてもこの気配……」
「ええ、シゲル」
「シゲルさん、レイナさん気を付けてください。すごい魔力量です」
さきほどのレッドボアとは格が違うか。
いずれにせよ……今回のお目当てが向こうから現れてくれたようだ。
その炎の上に鉄鍋。中身はさっき仕留めたレッドボアの豚汁だ。
肉の旨味に根菜の甘み。あわせて味噌の香りが、夜の空気にふわりと溶けていく。
「すはぁ~~~ああ……いい匂い……(じゅるり)」
「ふはぁあ~~見てるだけで温まりそうですね~(じゅるり)」
そうだろそうだろ、野営の楽しみは食事だからな。
腹を空かせた仲間にとっちゃ、これ以上のご馳走はない。俺は2人のお椀に熱々の豚汁を流し込む。
「……できたぞ。熱いから気をつけてな」
俺がお椀を差し出すと、レイナとロメリーが食い入るようにお椀からでる湯気を見つめた。
「……すでに匂いが美味だわ……」
「はぁぁ……これ絶対おいしいやつ……」
レイナが整った鼻をピクリとし、ロメリーは手を合わせる。
「「いただきま~す♪」」
まず、レイナが一口。
お椀を持ち上げ豚汁が唇に触れた瞬間、肩がびくりと震えた。
「……なに……これ……っ」
目元がとろんと蕩けた。
普段は剣を握ってる硬い表情の彼女が、ゆるゆるに蕩けていく。
「身体に……しみるわ……芯から温かくなる……」
ロメリーも続けて一口。
両手で椀を抱え込んで、ほわぁぁぁ~っと声が漏れた。
「しあわせ……あったかい……生き返るぅ……」
まるで湯に浸かった猫みたいな顔だ。
聖女ってこんな顔でとろけるんだな……ちょっとかわいい。
「だめです。止まりません……ハグハグ」
ロメリーの食事ペースがどんどん加速する。
「お肉やわらかいわ……こんなに野営の食事っておいしかったっけ?」
そんなことを呟きながらも、レイナのペースもグングン上がっていく。
そうだろそうだろ、これが携帯食とかだけだとテンションだだ下がりだからな。
野営での楽しみは「飯」の美味さにかかっている。
無心で豚汁をかき込む女剣士と聖女。この2人、本当に食いっぷりが素晴らしいの一言だ。
「おかわり頂けるかしら?」とレイナがお椀を差し出してくる。
「もちろんあるさ」
「じゃあ、あと……いっぱい……いや、二杯……!」
「わ、ワタクシも……あと三杯はいけます……!」
「お前らどんだけ腹へってんだよ」と笑う俺だが、
―――正直、こういう反応が一番嬉しい。
料理を続けていて思うのだが、食った奴がこうやって顔ゆるませて食欲に忠実になる瞬間が一番報われるんだ。
よしよし、2人ともたらふく食ってくれ。
野営であったかい飯が食えるってのは、それだけで幸せだろ。
いやぁ……にしても。
最高じゃねぇか。
焚き火は暖かく夜は静かで、ふたりの笑顔は湯気みたいにやわらかかった。
◇◇◇
焚き火のぱちぱちという音が、静かな夜の森に溶けていく。
「レイナさんが前衛で斬り込んで、私が支援結界を……」
「そうね、互いの位置を素早く確認する方法とロメリー殿の光魔法を―――」
食事も終わり、就寝前のひと時。
レイナとロメリーは、今日の反省会と今後の連携についてなにやら話し込んでいる様子だ。
さて、俺は何をするかというと。
サイドマジックポーチから赤い果実を取り出した。
どこにでもある普通のリンゴである。
ふふふ、豚汁だけで今晩の野営は終わらないんだぜ。
油断している2人をチラッと見て、俺は少しばかり口角を吊り上げた。
さて、やりますか―――
リンゴを手のひらで軽く転がして、芯の周りをナイフでくり抜く。
穴のあいたそこへ小さなバターを落とし、はちみつをとろりと垂らした。
さらにリンゴの側面に竹串を刺し入れて、焚火の傍にそっとかざす。
パチパチ……パチパチ……
焚火のはぜる音。
じっくり、じっくり、時間をかけて熱を通していく。
パチパチ……パチパチ……ジュッ……
バターとはちみつがリンゴの中心で混ざりはじめて、甘い香りが夜風にのる。
「…………あれ? なんでしょう?」
最初に気付いたのはロメリーだった。
彼女にうさ耳と尻尾があったらば、完全にぴくんと動いただろう。
続いてレイナもすぐに鼻をヒクヒクさせる。
「いやいや……なんか……すっごい甘い匂いしない?」
ガサガサ……
よしよし、きたきた。
焚火から漏れ出る甘いにおいに誘われて、2つの影が近づいてきた。
「話し合いもいいが、根を詰めすぎると頭が回らなくなるぞ」
俺はにやりと笑う。
そんな時は、甘いものだ。
ちょうど2人がこちらに来た頃合いで、じゅわぁ……バターが溶け、はちみつが泡立ち、リンゴの果汁と混ざり合う。
焚き火の赤が、リンゴの皮に金色の光を揺らす。
一口かじったときの味と香りを思い浮かべただけでもヨダレものだぞ。
「……待って。絶対おいしいじゃんそれ(じゅるり)」
「はいっ、レイナさん、それ絶対おいしいやつです……(じゅるり)」
よしよし、じゅるりがはじまったか。我慢できなくなってきたな。
俺は頃合いを見て、リンゴを竹串から抜き取り皿に移す。
表面は少ししっとり、スプーンを入れればバターとはちみつに溢れた果肉がほろり。
「はちみつ焼きリンゴだ。熱いから気をつけろよ。」
二人は同時にスプーンを入れ―――そして同時に沈んだ。
「……っ、あま……っ! これがリンゴ?」
「とろっとろと、しゃりしゃりがまざって……な、なんですかこれ……」
レイナは未知の食べ物に遭遇したかのような驚きを見せる。しかしスプーンを動かす手は止まらない。
ロメリーはもう完全に蕩けている。瞳は半分夢の世界。ときおり「ああ女神様……ここが天国なのですね」とかブツブツ漏らしている。
ハフハフという音がしばしの間、森の中にながれた。
「し、シゲルぅ~~最高だったわ~」
「シゲルさん……はふぅ……ああぁ美味しかったぁ」
最後の一口を食べ終えた二人が、あったかい息を吐きながら微笑む。
「もうこれだけで明日がんばれる……」
「野営の夜ってこんなに幸せだったでしょうか……」
焚き火がぱちん、と弾けた。
最高だな、こりゃ。
こんだけ大満足してもらえるなんて、作ったかいがありまくりだぜ。
こういう夜は悪くない。
なんて思っていた時だった―――
――――――!?
魔物の気配か……
レイナとロメリーも同じく感じ取った様子で、一瞬で表情が切り替わる。
「にしてもこの気配……」
「ええ、シゲル」
「シゲルさん、レイナさん気を付けてください。すごい魔力量です」
さきほどのレッドボアとは格が違うか。
いずれにせよ……今回のお目当てが向こうから現れてくれたようだ。

