料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 「さぁ~~討伐クエストよ。燃えるわぁ~ロメリー殿よろしくね」
 「ええ、レイナさん。近隣の街道が通れなくて困っている人たちのためにも頑張りましょう!」

 赤い髪と緑の髪が交互に揺れる。
 俺たちは辺境の町メタリノを離れ、街道をゆっくりと進んでいた。

 「にしても正体不明ってのはなんだろうな」

 俺は前を歩く2人に声をかけた。
 俺の問いかけに聖杖を抱えるロメリーが口をひらく。

 「大教会の依頼書によれば、魔物の目撃者はいないんだそうです」
 「ということは、襲撃して食べられたか……もしくは強力な攻撃で跡形もなく……か。いずれにせよ情報が少ないわね」

 教会の依頼書によると、街道を通行する馬車や商隊が襲われているそうだ。
 ただし、事の起こった現場に行った際には馬車しか残っていないのだそうな。

 「激しく争った形跡は確認できるようですが、肝心の魔物の情報がありません。あとは……現場に石の欠片がゴロゴロ転がっていることが多いとか」
 「石ねぇ……土属性の魔法でも使う魔物なのかしら?」

 レイナの言う通り、魔法を使用する魔物は存在する。
 まあ魔法というよりは、魔力を使用して魔法のような攻撃をするのほうが正しいが。ドラゴンのブレスも魔力を凝縮して放っているらしい。
 土属性であれば、岩や石を生成して弾丸のように飛ばすといった攻撃が想定されるな。

 にしても石ねぇ……

 「ふぅむ……美味いやつだといいんだが」

 俺の言葉に、バッとこちらを振りむく剣士と聖女。
 若干じゅるりな顔になってるぞ。

 まあ、野営での楽しみと言えば食事なので、当然と言えば当然か。

 その後も街道を進む俺たち。

 「ブルルル……」

 お、おいでなすったな。

 街道脇の森からガサガサと気配。
 レイナとロメリーもすぐさま警戒態勢に入った。
 うむ、さすがS級冒険者にすご腕聖女だ。基本的なことは確実にできている。

 暗闇の奥でフゥーフゥーと唸る音。

 「複数いるな……」

 レイナは剣を静かに抜き、ロメリーはスッと聖杖を構える。
 俺は包丁を抜いていない。

 「5~6体いるわ……討伐対象ではなさそうね」

 レイナが剣を握り直し、森の闇に目を凝らす。
 彼女の言う通り、この気配は普通に出現する魔物だろうな。

 「ええ、探知魔法で5体の魔物を確認しました。ワタクシたちを囲むように移動しています」

 杖を掲げるロメリーが視線を森の奥に送る。

 「ブルウウウ!」

 静寂を破るように複数の影が森から飛び出してきた。
 けっこうなスピードだ。

 お、あれは!?

 「レッドボアね! 一気に来るわよ!」

 レイナの叫び通り、現れた魔物はレッドボア。イノシシ型の魔物だ。
 強敵とまではいかないが、こいつの突進は威力があるの要注意だな。

 俺はスッと後ろに下がる。今回は2人でやりたいんだそうだ。
 ま、パーティー結成したばかりだし。
 レッドボアならば、2人の試運転にはちょうどよいかなと思う。

 「「「「ブルウウウ!」」」」

 茶褐色の毛に覆われたレッドボアたちは、牙を剥き鋭い目でこちらを睨みながら突進してくる。

 「―――はぁああああ!」

 彼女のシルバードレスが輝きを放つ。

 レイナは突進してくるレッドボア一体に狙いをつけたようだ。
 激突の瞬間にスッと横へ身体を動かし、レッドボアが通り抜けざまに一閃を食らわす。

 いい動きだ。さすが伊達にS級冒険者を名乗ってないな。

 「ブヒィイイ!」

 悲鳴を上げてバウンドするレッドボア。一撃で仕留めたな。

 「女神グラティアよ……きゃっ!」

 そこへロメリーの悲鳴が聞こえてくる。レイナの剣圧で弾かれたレッドボアがバウンドしていき、魔法詠唱準備中の彼女のお尻をがつんと突いたようだ。
 その勢いで、レイナのところまでバウンドしたロメリーが、女剣士のお尻にゴッツンこした。

 「うわっ、ちょっと!」

 レイナは別のレッドボアに斬りかかっており、体勢を崩して2人ともどさっと地面に転がってしまう。

 「だ、大丈夫かロメリー殿」
 「いたたた……は、はい。まさかあんな角度からバウンドしてくるなんて……うかつでした」
 「い、いや。あたしもそちらにボアを飛ばしてしまった」

 話もそうそうに、2人はすぐに体勢を立て直し再び戦闘に戻る。
 仕切り直しだ。

 ロメリーは、素早く攻撃魔法を放ちレッドボアを攻撃し始める。
 レイナも剣を振り応戦。

 「っと! いつものようにバンバン撃つわけにはいきませんね……」
 「くっ……このっ! っとロメリー殿の位置を確認しないと」

 いつもと勝手が違う戦闘に戸惑いが感じられる。
 ばんばん動き回る運動量の多いレッドボアに苦戦しはじめたようだ。

 2人とも動きが硬くなってる。

 ソロの戦い方に慣れすぎているんだろう。
 1人での戦闘は誰も助けてくれない反面、まわりを気にせず自分のやりたいように動ける。

 良く考えれば2人ともいままでボッチだった。
 ソロでの戦いは慣れていても、いきなりパーティー組んで機能するわけもないか。
 ま……俺も誰ともつるんでこなかったから、人の事は言えんけどな。

 だがロメリーの扱う魔法自体が強力なのもあって、徐々にレッドボアたちのダメージは蓄積されていく。それはレイナも同じくで、調子が狂ったとしても強力な斬撃で傷は負わせている。

 これはいかん。

 「ここまでだな……」

 「し、シゲルさん! 待ってください!」 
 「そうだシゲル、まだやれるから!」

 いやいやいや、これ以上続けてたら……

 「食材がダメになってしまうぞ!」

 ボロボロになっていくレッドボアたち。だがその闘志は失われておらず、むしろ興奮状態が高まりダメージを気にせず無茶をし始めている。
 一撃で仕留めないから肉が傷むじゃないか。

 俺はパーティーメンバーになる際に条件をつけた。

 それは……


 「――――――食材優先だ!」


 俺は包丁を抜いて、ササっと残りのレッドボアたちを片付けた。

 「……ふぅ。これで良しと」

 「ふあぁ~~やっぱりシゲルさんってすごい……」
 「たく、一瞬で片づけるんだから。これで冒険者ランクEとか無茶苦茶よ」

 若干不満気な顔を見せる2人だったが、すぐに連携についての反省点などを話し合い始めた。
 まあ互いに自身の考えを話し合うのはいいことだ。

 俺はグッと伸びをして息を吐いた。
 日も落ちかかっており、夕暮れの鮮やかな光が目に染みる。

 「さて、ここらで野営の準備だな」

 そんな俺の言葉にピクリとする美人剣士と聖女。
 凄まじく期待あふれる目で見てくるじゃないか。

 もちろんその期待には応えてやるぞ。

 なにせ良い食材が手に入ったのだから。


 「―――晩飯は豚汁(しし汁)に決まりだな。レッドボアの肉をスープにする。野菜もたっぷり入れる熱々のやつだぞ」


 「な、なんだそれはシゲル!(じゅるり)」
 「ほ、ほんとうです、なんですかそれ、シゲルさん!(じゅるり)」

 2人とも想像だけでじゅるりしはじめた。
 食の連携はたいしたものだ。

 よしよし、最高の晩飯にしてやろうじゃないか。