料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 「へぇ~美麗剣士~? それレイナさんの二つ名ですかぁ~」

 コレットはにやにやしながらレイナの顔を覗き込む。
 さらにロメリーが「はい、王都ではそう呼ばれてました! あ、あと孤高の炎姫とかもありましたね」と無邪気に追い打ちをかける。

 「も、もうやめろぉ~~!!」

 テーブルに顔を伏せたレイナは、耳まで真っ赤にさせていやいやしている。
 なんか、かわいいなこいつ。

 S級冒険者ともなれば二つ名がつくのは良くあることだが。こいつは勝手につくもんだから、本人からしたら望まぬものがついてしまうこともある。
 ま、それだけレイナが実績を積んできた証でもあるんだが。

 「で、二人は知り合いってことでいいんだな?」

 このままだと、この女剣士はテーブルと一体化していまいかねないので、話題を変えるべくレイナとロメリーに視線を向けた。

 レイナが顔を上げて、赤い髪を揺らした。

 「一度だけ、ロメリー殿の護衛をしたことがあるのよ」

 なるほど、聖女の護衛クエストか。
 冒険者ギルドに一度でも行けばわかるが、魔物討伐と並んで護衛の依頼はけっこうある。俺はまったくやらんかったけどな。だって食材ゲットできるわけじゃないし。

 「まあその時は他にも護衛がいたから、あまり話せなかったけど」

 ロメリーも小さく頷いて、口を開いた。

 「はい、そうですね。あの頃は聖騎士さんたちがいなくなって、1人デビューの頃なので……一度だけお願いしたことがあるんです」
 「ええぇ、ひ、ひとりデビューって……!? てことはロメリー殿は、いま1人で国をまわっているってことかしら?」

 驚くレイナの問いかけに黙って頷くロメリー。
 まあ、この子は仕事を引き受けすぎた上に1人で抱え込んでいたからな。
 ロメリーの目の前に山となっている手紙の山がその異常さを物語っている。

 「なるほどな、偶然にもうちの常連2人が知り合いだったというわけか」
 「ふぁ~~S級美人冒険者に聖女さま、メンツだけならとんでもないんですけど、他が閑古鳥だからなぁ~」

 「おまえな……」

 相変わらずズバズバ言ってくれるコレット。
 うちはそもそも客が大量には来にくい立地だから、しかたないんだ。
 コレットは茶化しながらも店の心配をしてくれているのはわかるがな。

 ―――ガサガサ

 ふと見ると、カウンターの隅でロメリーが分厚い紙束と格闘をはじめていた。
 大教会本部から届いた封書の山―――洞窟のゴーストに加えて、海辺のリッチー討伐が終わった途端、次の任務がドサドサと押し寄せているようだ。

 「やれる範囲でやってみたらどうだ?」

 俺が言うと、ロメリーは小さく目を見開いた。

 「できる範囲で……ですか?」

 「ああ。全部こなそうとするから潰れるんだ。人間、できることとできないことがある」

 この子は前世の俺に似た感じがする。元よりできない量をやる前提で仕事すると、身体はもちろんのこと心が疲れる。そして心や感情が鈍ると、リミッターが外れて正常な判断ができなくなるんだ。延々と仕事することに疑問を抱かず当たり前と思えてしまったりな。

 この子の場合は「仕事をすべてやる」が正義になっている感じがする。

 「……でも、ワタクシが選り好みしてよいのでしょうか」
 「いいさ。もう自分のキャパくらいは分かってるだろ?」

 もちろん人生において自分に負荷をかける場面はあるだろう。それに新人時代には仕事のコントロールせいと言われても難しくもある。
 が、この子は10歳で聖女になってずっと働きづめだ。
 もはや新人やらの段階はとうにすぎている。
 だから自分でうまく立ち回ることも覚えなきゃいけない。不幸な事に、まわりにそれを教えてくれる大人がいなかったんだろうな。だが、今からでも全然間に合う。

 ロメリーは少し考えてから、ゆっくりと頷いた。

 「……できないことは、できないとお返事します。別の方でも対処可能でしょうし、聖女もワタクシだだけではありません」

 「ああ、それでいい」

 ようやく「無理しない勇気」を持てたか。

 しばらくして、ロメリーは手紙の束を仕分けながら小声でつぶやいた。
 手には一通の依頼書が握られている。

 「この依頼……正体不明の魔物が出没しては近隣の街道を荒らしているようです。場所は辺境地区、この町も含まれていますね。魔物は夜にしか姿を見せないとか。これは……」

 その横顔は、真剣そのもの。
 ここはあまり教会関係者も来ないし、王国の騎士団もいない。

 「この依頼は解決したいです。放置していると被害も増えるでしょうし」

 ロメリーの翡翠色の瞳が強く光る。
 出没エリアはこの辺境地区か。が……

 「夜ってのは面倒だな」

 暗闇での狩りは格段に難易度が上がる。
 冒険者たちも夜間戦闘は嫌う傾向にあるからな。

 「はい、シゲルさん。夜間戦闘となると光魔法を集中して維持しないと。ですがそうなると前衛で踏ん張ってもらえる方が必要……」

 ふぅ……と息を漏らした聖女。
 そんな美少女に、俺はある提案をしてみた。

 「前衛ならここにいるじゃないか」


 「「え……あっ……!」」


 2人の声が重なった。
 深紅の赤髪とエメラルドグリーンの緑髪が同時に揺れる。

 「で、でもS級冒険者のレイナさんはソロで誰とも組まないって聞いてましたが?」
 「聖女さまこそ、護衛の聖騎士はいないのかしら?」

 「ボッチ2人で何言ってんだ」


 「「ちょっ! ボッチじゃないですぅ!!」」


 再び声が重なった。

 「ふふ、でも聖女様が後衛ならこれ以上になく光栄なことね」
 「いえいえ、ワタクシこそS級冒険者さまが前衛だなんて。とっても贅沢です」

 そして互いに顔を見合わせて、クスリと微笑むレイナとロメリー。
 どうやら2人はパーティーを組むで同意したようだな。

 1人でやれることやれないことはある。
 俺だって料理に集中できるのは、コレットのおかげだ。
 掃除やホール、それになによりも客をつかむキャラ、これは俺にはないだろう。

 レイナもロメリーも、互いに頼るということでいい関係性を築ければいいな。


 「えっと……ギルドへのパーティー登録も必要ですね。あと大教会にも報告しておきます」
 「うん、それがいいわ。ギルドでもこの魔物の討伐クエストが出ていれば受けてもいいし。ところで……ねぇ、シゲル」

 「なんだ?」

 レイナとロメリー、なぜか同時にモジモジしはじめる。

 「シゲルも……登録していいかしら?」
 「はい、ぜひ……お願いしたいです」

 なんで?

 「いや、俺は食堂の店主だぞ?」

 「でも、今回の依頼……野営になると思うわ(じゅるり)」

 そりゃそうだろう、討伐対象が夜しか出てこないんじゃな。
 あとなぜヨダレを垂らす?

 「そ、その……お料理を作れる人がいないんです(じゅるり)」

 なるほど、野営における飯問題か。
 どちらも料理の腕が壊滅的なのは知っている。
 以前、レイナが作ったシチューはカチカチでスプーンが入らなかった。そしてロメリーは「プリンできました~」と言って、なんか黒いスライムみたいなのを持って来たことがあったな。

 あれが唯一の楽しみである食事だとしたら……

 ふぅ……しゃーない。

 「……まあ、食材と料理優先でいいなら付き合ってやる。ただし、行ける時しかついていかんぞ」
 「「もちろんっ(じゅるり)!!」」

 なぜ同時にヨダレを垂らすんだお前ら。
 食への執念、魔物討伐より強くないか?

 「では、決まりですね」

 ロメリーが満面の笑みで書類に記入し、パーティー名の欄に筆を走らせた。

 【パーティー名:グリル・セイントフレア】

 「……なんで料理っぽい名前なんだ?」
 「だって、シゲルさんがいなきゃ始まりませんから!」
 「う、うん。確かに。「グリルおっさん」とかよりは聞こえがいいし」
 「誰がグリルおっさんだ」

 そんなやり取りをしていたら、コレットがカウンターから手を振る。

 「店長~パーティー結成おめでとうございます~! 帰ってきたら、ちゃんと食材持ってきてくださいね~!(じゅるり)」

 ここにもヨダレ垂らしている美少女がいたか。

 とにもかくにも……

 S級美人冒険者と聖女、そしておっさんによるちょっとズレた最強パーティーが、ここに誕生したのだった。