料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 ド田舎食堂に帰って来た俺たち。
 クラブロードの身と甲羅を適度に切り分け、本日使用する分のみを厨房に準備する。

 カンと中華包丁を置き、俺はカニの甲羅を見つめた。
 途中リッチー退治や、流されたロメリーのビキニ探しとか予定外な事が発生したが―――結果として、最高の食材が手に入ったな。
 肉厚の脚、身がぎっしり詰まったハサミ、そして香り立つ黄金のカニ味噌。
 どれもこれも、使わずにはいられねぇ食材だ。

 「な、なにを作るんですかシゲルさん!」
 「て、店長……それ中華鍋ですよね! ってことは!?」

 カウンターから厨房を覗き込む2つのかわいい顔。
 聖女ロメリーとうちの看板娘コレットだ。

 「カニチャーハンにする。ちょっと待っててくれ」

 「か、カニチャーハン……教会ではきかないお料理ですが、た、楽しみです……」
 「や、やっぱり~~王道のカニ鍋かと思いきや、まさかのチャーハン! さすが店長、予測不能ですぅう~♪」

 ふむ、コレットの言うとおり、たしかに鍋でもいいが……今はガッとかき込む飯の方がいいだろう。
 カニ鍋はまた後日だな。

 「さて……やるか」

 ボウルに卵を割り入れる。
 黄身を箸でほぐすたび、ぷつりぷつりと粘度のある音がして淡い黄金色が広がっていく。
 よく溶きほぐして、しっかり空気を含ませる。それがふわっとした卵チャーハンの第一歩だ。

 鉄鍋に火にかける。
 油をたらし、ぐるりと回すと煙が一筋立ち上る。ここからは一瞬の勝負だ。


 ジュッ―――


 油の弾ける音とともに、鉄鍋の中に黄金色の卵が広がった。
 卵の香ばしい甘みが立ちのぼり、店内の空気を一瞬で「飯屋」に変える。

 「ふはぁ~~この匂い……これだけで、ごはんいけちゃいますぅ~~(じゅる)」
 「ただ卵焼いているだけなのに……す、すごい(じゅる)」

 コレットとロメリーがうっとりしたように息をのむ。

 ふむふむ、だがこの程度でうっとりしてもらっては困るな。
 俺は鉄鍋をふるいながら、もう片方の七輪に目をやった。

 七輪の上にはカニの身と甲羅がじっくりと炙られている。
 トレント炭の赤い熱に照らされて、甲羅の縁がじわじわと焦げていく。中に詰まった黄金色のカニみそが、ふつふつと泡を立てていた。

 七輪から漏れ出すその香り―――濃厚で、甘く、そしてほんのり磯の香り。

 「な、なにこのかおりぃいい……鼻が幸せすぎるぅうう(じゅるり)」
 「か、かにみそって、こんなにも香ばしいものなんですね(じゅるり)」

 2人が同時に口をぬぐう。
 よしよし。

 では……

 俺は鉄鍋を左でふりながら、右手でトングを持ち甲羅を軽く傾ける。
 中のカニみそがとろりと流れ、香りが一段階濃くなった。その瞬間、ロメリーがぐらりと膝をつく。

 「うぅ……かおりだけでご飯3杯いけそうでしゅ……(じゅるり)」

 ロメリーがカニみそに頭をやられたようだ。
 聖女だろうがなんだろうが、飯の誘惑に勝てる奴はいないからな。

 さて、俺は視線を鉄鍋に戻す。
 卵のふわふわにご飯を投げ入れ、中華お玉でほぐすように混ぜる。
 パラパラとご飯が踊るたび、卵の甘みと油の香りが空気を包み、カン、カンッと中華お玉が響いた。
 
 「ハァハァ……まだですかぁ店長ぅうう……(じゅじゅり)」
 「まあまてコレット。ここからが「カニチャーハン」の真髄だぞ」

 刻んだ長ネギを投入。シャキッという音とともに、青い香りが一瞬で立つ。
 次に、ほぐしたカニの身を加える。


 その瞬間―――空気が変わった。


 「ひゃああ……ぷりっぷりのカニ……炒めてるだけで罪深いですぅ!(じゅじゅるり)」
 「しっ、静かに……今、聖なる香りが漂ってます……(じゅじゅるり)」

 おっと、聖女も看板娘もちょっと壊れてきたな。ちょい急ぐか。

 鶏ガラスープの素をひと振り。そして醤油を鉄鍋のふちから、細く垂らす。
 
 ―――ジュウウウウッ!!

 爆ぜる音とともに、焦げ醤油の香りが鼻を打った。
 カニの身が火の中でほぐれ、黄金色の卵と一体になっていく。

 塩胡椒で味を整え、火力を維持したまま―――
 鉄鍋を傾けて皿に流し込む。

 じゅるりが止まらなくなった2人のまえで、山のように盛られたチャーハンがつやつやと輝いていた。

 「さて、仕上げだな」

 「て、店長ぅう、もうこれ完成ではぁあ? いっていいですよね! ね!!」
 「ひぃいい、さらになにかがあると! こんなこと聖典にも書いてませんよ!?」

 当然だ。

 最高の一品を食ってもらいたいからな。ここは手は抜かん。

 そこに、七輪で焼いておいた「炭火焼きカニ」の出番である。
 トレントの木炭でじっくり炙ったカニ脚からは、ほのかな甘みと香ばしさが漂う。焼き面はこんがり焦げ目がつき、噛めばじゅわっと旨みが広がるぷりっぷりの身だ。
 その身をほぐして、熱々のチャーハンの頂点にゴロゴロと乗せた。
 そしてその上から―――カニみそをとろりとかける。

 「よし、―――クラブロードのカニチャーハン、かにみそ特製黄金盛り! おまちぃ!」

 二人が同時にごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。


 「て、てんちょうぅうう……これこれこれがぁあああ(じゅじゅじゅるり)」
 「ひゅはぁああ~~シゲルさんの料理は……人の心を堕とす魔法ですぅ!(じゅじゅじゅるり)」


 よしよし、こんだけテンション上がってくれたら、作ったかいもあるってもんだ。
 神棚にもお供えを……

 ―――シュンッ!

 一瞬で消えやがった。女神さまもお待ちかねだったようだ。

 俺は最高の客と従業員、そして神に恵まれてるな。