リッチーが息絶えたと同時に、海上に広がりつつあった黒いモヤが晴れていく。
「ふぅ……」
やれやれ、とんだハプニングを起こしやがって。
俺が一息つくと、コレットたちがこちらに来た。
「ふはぁ~~店長すご~~い!」
コレットが両手を上げてピョンピョン跳ねている。と同時にビキニのスイカが2つ、今にも溢れ出しそうだ。
おまえのほうが凄いんだが……。
「り、リッチーを切る人、初めて見ました……」
ロメリーはといえば、目を白黒させたまま固まっていた。
「こんなガイコツ切るために来たんじゃないんだがな。狩場を荒らされては黙っておれんだろ、一料理人として」
「いやいや、普通は切れないんですよ!? 料理人うんぬんのお話じゃなくて!?」
固まっていた聖女が、綺麗な緑髪を揺らしながら力説する。
「し、知り合いの聖女に、聖属性魔力を刀剣に変える方がいますが……それでもリッチーは切れるかどうか。やはりシゲルさんは凄すぎます……ていうか、手に持っている頭蓋の討伐部位を教会本部に持って行けば、シゲルさんは聖人認定間違いなしですよ!」
ロメリーが興奮気味にまくし立てるが……
―――ぽいっ。
俺はその頭部を海に放り投げた。
ぼっちゃ~んという情けない音とともに、リッチーの頭部は波に沈んでいった。
「って、なんで捨てちゃうんですかぁ!?」
ロメリーが口を尖らせて、両手をブンブンと上下させる。
「いや、これ食えないから」
「ええぇぇ~~!?」
「さすがに身はついてないぞ」
「食べる食べられないじゃなくて! 聖人に認定されるなんて、望んでも叶えられない栄誉なんですよ!?」
なぜかロメリーは半泣きで訴えるが、俺は肩をすくめた。
「俺は好きな料理しかしない。そう決めてるからな」
聖人になって感謝されるべく頑張る人を否定はしない。だが、それは俺にとっての栄誉じゃない。
俺にとっての栄誉は、うまい飯と、うまそうに食ってくれる顔。それだけで十分だ。
「そもそも店長は「聖人」ってガラじゃないかもですねぇ~平凡なおっさんを装った裏組織の人間ってかんじ」
コレットが腕を組んで、うんうんと真面目な顔でうなずく。
おい。おまえはなんでいつも物騒な方向へ行くんだ。
「う、裏組織って!?」
ロメリーが青ざめる。なぜこの子もコレットに乗せられるんだよ。
「はっ……まさかワタクシやコレットさんに、このいやらしい格好のまま接客させるつもりでは!?」
「するわけないだろ……ちょっと頭を冷やせロメリー」
なんだその極悪クソ野郎設定は。
「そ、そうですよね。リッチースパッて切ったあたりからちょっと取り乱してしまいました……。も、もしかしてワタクシは想像以上にとんでもない人に関わってしまったのでしょうか……」
「え? なんでですかぁ~海で遊べるしぃ~怖い魔物はいなくなったし、あとは食材さがすだけですよぉ~♪」
コレットがケロッとした顔で、海に入ろうとロメリーを手招きしている。
リッチーが出た時はかなりビビってたが、相変わらず切り替えがはやい子だ。
「そうだぞロメリー、コレットを見習って楽しんだらどうだ?」
「えっと……たのしむ、楽しむ、タノシム?」
どうやら仕事のしすぎでこの聖女さまは、楽しみ方を忘れてしまったらしい。
「食材は俺がさがすから、コレットと海でバシャバシャしてればいいんだよ」
「ば、バシャバシャ?? よ~~し、こうなったらヤケです!
ワタクシも楽しみますよぉ~~って、シゲルさん! なんか出てきましたぁ~~!」
「―――ピギィイイイイイ!!」
おお、このタイミングできたか!
「これはラッキーだぞ! 向こうからきてくれた!」
俺がそう言った瞬間、海面がぐらりと揺れた。
波間から、無数の泡がブクブクと浮き上がり、やがて―――巨大なハサミが姿を現す。
「ひ、ひぃっ! 店長なにこれ、でっか……!!」
「な、なんですかこの魔物……魔力の密度が異常です!」
コレットが腰を抜かして、ロメリーが目を見開いた。
そう、こいつが本日のお目当て
―――――――――クラブロードだ。
「ひゃああ、て、店長ぉ~~でっかいカニさんですうぅうう!」
「し、シゲルさん。クラブロードってカニ型魔物の最上位種ですよ! リッチーより危険度高いかも!」
「ああ、ヤバいな」
「ですよね、シゲルさん。ここは、いったん退きましょう」
水飛沫の中から現れたのは、まるで鋼鉄の城塞。
赤黒い甲羅の表面は岩のように硬く、陽を受けて鈍く光っている。
8本の長く巨大な脚が海底を叩くたび、大きな波がたつ。
ハサミは人間ひとりを軽々と挟み潰せるほどの大きさで、開閉するたびに「ギィ……ギィ……」と不気味な音を立てていた。
きたきたぁ……
――――――これ、これぇええ!
「ヤバいぐらい美味そうだぞ! こいつは大あたりだ!!」
「そっちのヤバイですか!? ってまた一人で平然とズンズン前にいっちゃううう!」
「ピギィイイイイイ!!」
クラブロードがその巨大なハサミをゆっくりと持ちあげた。
俺たちを獲物と思っているんだろう。
さて、こいつの硬い甲羅に使うのならば……
俺はサイドマジックポーチに手を入れて、一丁の包丁を取り出した。
が、その瞬間―――
白い閃光がクラブロードに直撃する。
「くっ……硬いです!」
ロメリーが魔法弾を放ったな。だがその攻撃は甲羅に弾かれて火花が散る。
「ですが聖女をなめないでください!
女神グラティアより賜りし聖なる光よ! 敵を撃て!
――――――上級聖光弾魔法!!」
聖女の放った魔法はクラブロードの腹部に命中した。
甲羅がわずかに削れて、「キシィイイイイ」と不気味な声をもらすカニ魔物。
「くっ……上級魔法でもほとんどダメージを与えられないです! なんて硬いのですか」
「ロメリー!!」
「は、はい。シゲルさん、少しでも助けになればと!!」
ロメリーがクラブロードを警戒しつつも大声を上げる。
手伝ってくれる分にはかまわん。だが……
「狙うなら関節部分にしろ!」
「え? あ、なるほど……これが幾多の修羅場を乗り切った冒険者の知見というわけですね!」
「おうよ、甲羅中央を傷つけたらカニみそが漏れるからな!」
「ええぇ、カニみそって!?」
ロメリーの声が情けなく裏返った。
「そうなったら最悪だぞ!」
「……あ、はい」
なぜかロメリーの声が小さくなった。
「ふぅ……」
やれやれ、とんだハプニングを起こしやがって。
俺が一息つくと、コレットたちがこちらに来た。
「ふはぁ~~店長すご~~い!」
コレットが両手を上げてピョンピョン跳ねている。と同時にビキニのスイカが2つ、今にも溢れ出しそうだ。
おまえのほうが凄いんだが……。
「り、リッチーを切る人、初めて見ました……」
ロメリーはといえば、目を白黒させたまま固まっていた。
「こんなガイコツ切るために来たんじゃないんだがな。狩場を荒らされては黙っておれんだろ、一料理人として」
「いやいや、普通は切れないんですよ!? 料理人うんぬんのお話じゃなくて!?」
固まっていた聖女が、綺麗な緑髪を揺らしながら力説する。
「し、知り合いの聖女に、聖属性魔力を刀剣に変える方がいますが……それでもリッチーは切れるかどうか。やはりシゲルさんは凄すぎます……ていうか、手に持っている頭蓋の討伐部位を教会本部に持って行けば、シゲルさんは聖人認定間違いなしですよ!」
ロメリーが興奮気味にまくし立てるが……
―――ぽいっ。
俺はその頭部を海に放り投げた。
ぼっちゃ~んという情けない音とともに、リッチーの頭部は波に沈んでいった。
「って、なんで捨てちゃうんですかぁ!?」
ロメリーが口を尖らせて、両手をブンブンと上下させる。
「いや、これ食えないから」
「ええぇぇ~~!?」
「さすがに身はついてないぞ」
「食べる食べられないじゃなくて! 聖人に認定されるなんて、望んでも叶えられない栄誉なんですよ!?」
なぜかロメリーは半泣きで訴えるが、俺は肩をすくめた。
「俺は好きな料理しかしない。そう決めてるからな」
聖人になって感謝されるべく頑張る人を否定はしない。だが、それは俺にとっての栄誉じゃない。
俺にとっての栄誉は、うまい飯と、うまそうに食ってくれる顔。それだけで十分だ。
「そもそも店長は「聖人」ってガラじゃないかもですねぇ~平凡なおっさんを装った裏組織の人間ってかんじ」
コレットが腕を組んで、うんうんと真面目な顔でうなずく。
おい。おまえはなんでいつも物騒な方向へ行くんだ。
「う、裏組織って!?」
ロメリーが青ざめる。なぜこの子もコレットに乗せられるんだよ。
「はっ……まさかワタクシやコレットさんに、このいやらしい格好のまま接客させるつもりでは!?」
「するわけないだろ……ちょっと頭を冷やせロメリー」
なんだその極悪クソ野郎設定は。
「そ、そうですよね。リッチースパッて切ったあたりからちょっと取り乱してしまいました……。も、もしかしてワタクシは想像以上にとんでもない人に関わってしまったのでしょうか……」
「え? なんでですかぁ~海で遊べるしぃ~怖い魔物はいなくなったし、あとは食材さがすだけですよぉ~♪」
コレットがケロッとした顔で、海に入ろうとロメリーを手招きしている。
リッチーが出た時はかなりビビってたが、相変わらず切り替えがはやい子だ。
「そうだぞロメリー、コレットを見習って楽しんだらどうだ?」
「えっと……たのしむ、楽しむ、タノシム?」
どうやら仕事のしすぎでこの聖女さまは、楽しみ方を忘れてしまったらしい。
「食材は俺がさがすから、コレットと海でバシャバシャしてればいいんだよ」
「ば、バシャバシャ?? よ~~し、こうなったらヤケです!
ワタクシも楽しみますよぉ~~って、シゲルさん! なんか出てきましたぁ~~!」
「―――ピギィイイイイイ!!」
おお、このタイミングできたか!
「これはラッキーだぞ! 向こうからきてくれた!」
俺がそう言った瞬間、海面がぐらりと揺れた。
波間から、無数の泡がブクブクと浮き上がり、やがて―――巨大なハサミが姿を現す。
「ひ、ひぃっ! 店長なにこれ、でっか……!!」
「な、なんですかこの魔物……魔力の密度が異常です!」
コレットが腰を抜かして、ロメリーが目を見開いた。
そう、こいつが本日のお目当て
―――――――――クラブロードだ。
「ひゃああ、て、店長ぉ~~でっかいカニさんですうぅうう!」
「し、シゲルさん。クラブロードってカニ型魔物の最上位種ですよ! リッチーより危険度高いかも!」
「ああ、ヤバいな」
「ですよね、シゲルさん。ここは、いったん退きましょう」
水飛沫の中から現れたのは、まるで鋼鉄の城塞。
赤黒い甲羅の表面は岩のように硬く、陽を受けて鈍く光っている。
8本の長く巨大な脚が海底を叩くたび、大きな波がたつ。
ハサミは人間ひとりを軽々と挟み潰せるほどの大きさで、開閉するたびに「ギィ……ギィ……」と不気味な音を立てていた。
きたきたぁ……
――――――これ、これぇええ!
「ヤバいぐらい美味そうだぞ! こいつは大あたりだ!!」
「そっちのヤバイですか!? ってまた一人で平然とズンズン前にいっちゃううう!」
「ピギィイイイイイ!!」
クラブロードがその巨大なハサミをゆっくりと持ちあげた。
俺たちを獲物と思っているんだろう。
さて、こいつの硬い甲羅に使うのならば……
俺はサイドマジックポーチに手を入れて、一丁の包丁を取り出した。
が、その瞬間―――
白い閃光がクラブロードに直撃する。
「くっ……硬いです!」
ロメリーが魔法弾を放ったな。だがその攻撃は甲羅に弾かれて火花が散る。
「ですが聖女をなめないでください!
女神グラティアより賜りし聖なる光よ! 敵を撃て!
――――――上級聖光弾魔法!!」
聖女の放った魔法はクラブロードの腹部に命中した。
甲羅がわずかに削れて、「キシィイイイイ」と不気味な声をもらすカニ魔物。
「くっ……上級魔法でもほとんどダメージを与えられないです! なんて硬いのですか」
「ロメリー!!」
「は、はい。シゲルさん、少しでも助けになればと!!」
ロメリーがクラブロードを警戒しつつも大声を上げる。
手伝ってくれる分にはかまわん。だが……
「狙うなら関節部分にしろ!」
「え? あ、なるほど……これが幾多の修羅場を乗り切った冒険者の知見というわけですね!」
「おうよ、甲羅中央を傷つけたらカニみそが漏れるからな!」
「ええぇ、カニみそって!?」
ロメリーの声が情けなく裏返った。
「そうなったら最悪だぞ!」
「……あ、はい」
なぜかロメリーの声が小さくなった。

