料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 「よし、二人とも準備はできたか?」

 俺はズボンを膝までまくり上げ、包丁一式を持って海辺の波打ち際に立っていた。
 ―――今日の食材は海にいるからだ。

 「はぁ~い、店長~見て見てぇ~! コレットの水着どうですか~♪」

 明るい声と共に、砂浜をぴょんぴょん跳ねるちっこい16歳の美少女。
 彼女は嬉しそうに両手を広げて俺の前まで来た。

 小麦色の砂に映える、鮮やかなオレンジのビキニ。
 栗色の髪は陽を浴びて金色がかって見え、琥珀色の瞳がきらきらと輝いている。
 彼女は身長こそ150センチほどと小柄だが、その身体の一部は……
 うむ、どこからどう見ても「育ちすぎた16歳」である。

 元気いっぱいの笑顔。
 けれどその下で、ぶるんぶるん揺れる二つの主張が物理的に目のやり場を奪ってくる。

 「おお……似合ってるな。すごくかわいいぞ」

 「やた~店長に褒められました~~♪」

 跳ねるたび、重力と弾力が喧嘩している。
 うむ、あの動きはもはや物理現象を超越しておる。

 「コホン、あんまり跳ぶんじゃない」

 俺は少し視線をそらし、咳払いした。
 なぜここにコレットがいるのか。
 最初はいつものごとく、俺1人で食材探しに行くつもりだったが―――昨日の事だ。

 「シゲルさん、食材探しに行かれるのなら……ワタクシもご一緒してよろしいでしょうか?」

 そう言ってきたのは聖女ロメリーだった。

 まあ、同行したいというなら断る理由もない。それに彼女の実力ならば、大抵の事には対処可能だ。
 だが、その話を聞いたコレットが―――。

 「えぇえ!? 海ですか!? 店長、コレットも行きます!!」

 ……と、目を輝かせて言い出したわけだ。

 そんなわけで、結果的に「おっさん+美少女二人」で海、という構図になったのである。

 で、肝心の言い出しっぺである聖女さまなんだが。

 ……岩陰から顔だけ出して、もじもじとこちらの様子を伺っている。

 「し、シゲルさん……こ、これ……ほんとに、これでいいんでしょうか……?」

 砂浜の岩陰からおずおずと現れたのは、真っ白な肌に緑の髪を揺らす美少女。
 海風に吹かれて、翠色の瞳が潤んで見える。
 そして―――その肢体を包むのは、面積の限界に挑戦する布切れ。

 「コ、コレットさんからお借りした水着……布面積が少なすぎますぅ……!」

 うむ、たしかに少ない。

 ロメリーもコレットと同じくビキニなのだが、その豊かな肢体がまったく収まっていない。
 目のやり場どころか、視線の逃げ場もないぞ。
 なぜゆえにこんな水着しか持っていないのだ。コレットよ。

 とはいえ、本日の食材探しは海だから仕方ない。

 「まあいいじゃないか。今回の現場、ロメリーの普段着ている白い法衣じゃ濡れるからな」
 「いやいや、それを言うなら白い調理服にコック帽のシゲルさんの方が濡れますよ!?」

 ロメリーが赤面しながらもツッコミを入れる。

 「俺はこれしか持ってないんだ」

 それにおっさんのビキニなど、なんの需要もない。

 「こ、こんなの破廉恥です……」

 ロメリーが両手で胸を押さえ、体をくねらせる。
 その度に、布の境界線が危うく波打ち―――。ちょっと一回その動きをやめてくれ。

 「いや、かわいいぞ。だからそんなに恥ずかしがるな」

 「そうそう大丈夫ですよぉ~聖女さま似合ってますよぉ~~♪」

 コレットが満面の笑みで寄ってきた。
 この子の用意した水着のせいでもあるんだが、本人はこれっぽちもそうは思っていないらしい。

 「清楚とむっちり悩殺スタイルのコラボですねぇ~うらやましいです~♪」
 「ちょ、ちょっとコレットさん、言い方がなんか嫌です!」

 「どうせまわりには誰もいない。ちょっと我慢しろ」

 「ううぅ……同行を願い出たのはワタクシなので、頑張ります……」

 ようやくクネクネダンスをやめてくれた聖女。
 さてと……ではでは海に入ってみるか。

 「お目当ての食材がいてくれるといいんだが」

 俺が海に入ろうとしたところ、ロメリーが声を上げる。

 「……!? シゲルさん! なにか嫌な感じが近づいてきます!」

 さきほどまでとは一転して真剣な表情だ。
 たしかに……なにか沖から近づいてくるな。

 「あ、あれは! リッチーです!」
 「リッチー? あの骨の亡霊か? 海にまで出張してんのかよ」

 「最近、王都近海を荒らしているリッチーです! 教会本部にも情報は入っていて、ワタクシのスケジュールも魔の洞窟の翌月は、リッチー討伐が入っています」

 「うわぁ~なんか黒いモヤが広がってきましたよ~」

 コレットが言う通り、リッチーから黒いものが垂れ流されはじめた。
 おい……なんだこれ。何してくれてんだ……。


 「いけません、瘴気です! 触れると危険です!
 天を照らす聖なる光よ、闇を切り裂き、絶望を払う盾となれ!
 顕現せよ―――――――――結界(セイクリッド・バリア)!!」


 聖女ロメリーが【結界】を展開した。

 「コレットさん、この中から出てはいけません! シゲルさん、ワタクシがロングレンジで聖属性魔法攻撃を仕掛けます。―――って、あれ? シゲルさん!?」

 「ロメリーさん、店長ならあそこですよ」

 「きゃぁああ! リッチーの目の前にいるぅううう!!」

 ロメリーの悲鳴が響いた。だが【結界】の中にいるわけにはいかない。
 俺は包丁を構え、リッチーの眼前で制止した。

 「シゲルさん! リッチーはゴーストの上位種です! 今度こそ物理攻撃は効かな―――」


 ―――スパっ!


 リッチーの首が綺麗に落ちた。
 まるで刺身を一枚引いたときのような、無音の切れ味。

 「……へ?」

 「食材の宝庫を荒らすんじゃねぇ、この布切れガイコツが」

 俺は切り落としたリッチーの頭蓋骨を鷲掴みにしてつぶやいた。
 食材を腐らせるやつは断固許せねぇ。
 まったく、食える身もないやつがデカい顔して海(食材の宝庫)を汚すなよ。

 「ふ、ふはぁああ……り、リッチーを包丁で切った……!?」

 おっと、ちょっと頭にきて、ロメリーの事を見てやれなかったな。

 「ま、海がきれいになったからよしとしよう。ロメリー喜べ。これで来月分の仕事もなくなった。2カ月休みだ」

 「な、なんか知らないけど……休日が増えてくぅうううう!!」

 聖女ロメリーは口をパクパクさせながら、俺の包丁を見つめていた。