料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 「帰ったぞ~~」

 ド田舎食堂の戸をくぐると同時に、俺は肩に担いだ聖女ロメリーを下ろした。

 「ひぃぃぃぃ! ま、また美少女さらってきたぁああ!!」

 コレットがトレイを盛大に落として絶叫する。
 またって、なんだよ。

 「やっぱりこの店、裏組織だったんだぁ! 美少女神官さんをさらって【ノーパン教】に洗脳して―――そして私もノーパン店員としてこき使われるんだぁあ!」

 「どんなクソ教団だそれ。想像力の方向おかしいだろ」

 「あれ……ここは?」

 この騒がしさにロメリーが目を覚ましてあたりを見回す。
 動く体力も残っていなかったから、帰路はずっと俺が担いで走った。魔力も使い果たして、疲れが溜まっていたのだろう。熟睡していたようだ。

 緑の髪をゆらすロメリーに、コレットの眼球が釘付けになった。

 「ああ~っ!? し、新聞の聖女さまだぁっ!」

 コレットが真っ青になって新聞と本人を交互に見比べる。
 ま、聖女がいきなりきたらビックリするか。そんな看板娘にひとこと。

 「ほら、コレット仕事だ。お冷とおしぼり」

 「は、はぁ~い。ふあ~聖女さまがきてくれたなんて~あとでサインくださ~い♪」

 まったく調子のいいやつだ。

 「あ、あのシゲルさん、スイーツって何をお作りに……?」
 「えっ!? 店長、スイーツですか!?」

 2人の美少女がぴたりとこちらを向く。
 そういえばコレットにもまだ作ったことなかったか、スイーツ。

 「プリンだ。ちょっと時間かかるぞ」



 ◇◇◇



 俺はプリンカップを並べながら、静かに油を薄く塗る。
 カウンターからコレットと聖女ロメリーがその様子を固唾をのんで見つめていた。

 「はぁあ……プリンの型だぁ……まさかこんなド田舎でプリンが食べられるなんてぇ……」
 「ひゅええぇ、コレットさん。ぷ、プリンとはそこまで凄いモノなのですね?」
 「もちろんですぅ~ロメリーさん。最高のスイーツですよぉ」

 速攻で聖女と仲良くなったようだな。さすがうちの看板娘。
 にしてもコレット……プリンを知っていたか。

 この異世界にもプリンは存在する。が、それほど流通はしていない。
 食べたとしても上流階級が主だろう。
 コレットが以前働いていたあろう店は、かなりのやり手のようだ。

 魔導冷蔵庫から取り出した卵を常温に戻し、ボウルに水を張る。
 とりあえず下準備はこれでよしと。

 「なんて大きな魔導冷蔵庫なんでしょう……」
 「ふふ~わがド田舎食堂が誇る王国最高峰の厨房ですから~! お客さんは全然来ないですけどね~♪」

 ロメリーが目をまんまるにしてデカい冷蔵庫を見上げ、コレットが我がことのようにブルンと胸を張る。
 褒めてるのか貶してるのかどっちなんだって話だが、まあいい。

 さて、次の工程はカラメルソースだ。

 鍋に水とグラニュー糖。
 こいつは火を入れる順番を間違えると、すべてが台無しになる。

 中火で温め、焦げる寸前で鍋を揺する。
 泡の音がパチパチとリズムを刻み、甘くほろ苦い香りがじんわりと立ち上る。

 「な、なんですかこの香ばしい香り……(じゅるり)」
 「ですよね~! 聖女様でもじゅるりしちゃいますよね~(じゅるり)」
 「はっ……わ、ワタクシ、なんてはしたない音を……(じゅるり)」

 看板娘と聖女のじゅるり二重奏を聞きながら、沸騰したところに熱湯を少し注ぐと、カラメルが「ジュワッ」と跳ねる。

 「ひゃっ……!」

 その音に、ロメリーがびくりと肩をすくめた。

 濃い狐色になったカラメルを、熱いうちにプリンカップに注いでいく。

 さてさて、お次はプリン本体だな。
 ボウルにさきほど常温に戻した卵と卵黄を割り入れ、泡立てずに静かに溶きほぐす。

 そして、今回の目玉を取り出した。

 「あっ、これって!」と、ロメリーが目を見開く。
 「そうだなゴーストグランデの核だ。こいつがプリンにさらなる可能性をプラスしてくれるぞ」

 淡く光を放つ半透明の結晶体。まるで魂のかけらだ。

 「ふぇええ……ゴーストグランデって無茶苦茶ヤバイ魔物じゃなかったですか?」
 「ええ、コレットさん。聖女のワタクシがベストコンディションであっても、討伐できるかどうかわからない強敵ですね」
 「それをまたまた店長が……」
 「はい、そのお顔から察しますが、そのとおりです……包丁でスパッと」

 2人がなにやら話しているが、俺は調理に集中する。
 ゴーストグランデの核を木べらで軽く押しつぶすと、淡い光が卵液に溶けていく。
 空気が一瞬しんと静まった。
 ロメリーがポツリと呟く。

 「……なんだか、心が温かくなります。魔物の部位なのに……不思議」
 「そういう効能があるんだ。心の疲れを癒やす。特に働きすぎなやつにな」

 「うぐっ……」

 ロメリーが唇をかんだ。図星らしい。
 俺はにやりと笑ってグラニュー糖を加え、円を描くように混ぜた。
 甘さのなかに、ゴーストの核が出す独特の存在感。
 この世界でしか味わえない食材だ。

 次は、鍋に牛乳とバニラビーンズを入れる。
 火を入れると、甘い香りが一気に広がった。

 「はぁぁ……なんてやさしい香り……(じゅるり)」
 「バニラビーンズって、こんなに尊い香りなんですねぇ……(じゅるり)」

 牛乳が沸騰直前で湯気をあげた瞬間、火を止め、
 先ほどの卵液に少しずつ注ぐ。

 混ざり合うたび、プリン液がしっとりと金色に輝いた。

 「この液体……もう飲めそう……(じゅるり)」
 「ですよねぇロメリーさん……いっちゃいましょうか(じゅるり)」

 「こら、まだだ。これをこしながらさっきカラメルを入れたプリンカップに入れ、15分寝かせる」

 「15分も!? ながいっ!」
 「焦るな。中途半端な仕事じゃいいものは作れないぞ」

 「なるほど……祈りも、焦っては届かない……(じゅるり)」

 お、うまいこと言うじゃねえかロメリー。よだれたれてるけどな。

 さあ~~次はいよいよオーブンで焼くぞ。

 布巾でプリンカップたちを優しく覆って。バッドに湯を1センチほど入れたら、プリンカップをそこへ置いていく。
 そしてオーブンへセット。これであとは待つだけだ。

 「湯せん焼きってやつですか? 店長」
 「そうだなコレット。優しく熱を入れてやらんとな。心までやわらかく仕上がる」

 「ふぁああ~~楽しみぃ~~」

 にしても湯煎焼きなんて、よく知っているなこの子。

 バッドに入ったプリンたちを低温でじっくり火を通す。

 しばらくすると、厨房からはほんのりと甘い香りが満ちてきた。

 「ああ~ん、じゅるり止まんない~(じゅるり、じゅるり)」
 「はふぅ~(じゅるり、じゅるり)」

 ロメリーとコレットは、耐えられずに「じゅるりの合唱」をはじめる。

 しばらく経って、オーブンからプリンを取り出し、焼き上がったプリンを氷水でしっかり冷やす。

 その間に生クリームを泡立て、フルーツをカット。
 苺、キウイ、リンゴ、桃―――。

 プリンを型から外して皿に落とし、
 そのまわりにホイップ、果物、アイスを盛り付ける。
 金色のカラメルがとろりと流れ、最後にミントをひと葉。

 「―――よし、ゴーストプリン・ア・ラ・モードおまち!」

 「じゅるぅ~じゅるり!」
 「じゅじゅ、じゅるり!」


 ふむ……待たせすぎたか。