料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~

 「ふあぁ! ドラゴンの次はワイバーンの群れを千切りしてるぅうう!」
 「ちょっと! 今度はS級魔物ジャイアントトレントの枝を切り落としまくってるわよ! 満面の笑みで!」

 はっ! 女神ともあろうものが、2人して取り乱してしまった。
 いったん落ち着いて……

 シゲル君のステータスをチェックする。これは女神にしか見ることのできない、個人の能力を数値化したものだ。
 いま確認した下界の映像から見ても、少なくともS級冒険者の数値を超えているはず……。下手したら勇者級の数値がでるかも……


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 シゲル(36歳)、料理人、おっさん 
 ・基礎体力→測定不能
 ・基礎筋力→測定不能
 ・基礎耐久力→測定不能
 ・包丁斬撃力→上限突破(未知)
 ・調理能力→上限突破(未知)
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 「―――って! なんも数字でてこないじゃん!!」

 「うそでしょ……この子一般人よね? 特殊な素質でもあったの?」
 「ないない! いたってノーマルだったはず!」

 シゲル君はいたって普通の一般人として、異世界に転生させた。
 さすがの私も転生まえにステータスぐらいはチェックするし。

 「じゃあ、やっぱりあんた何かチートスキル授けたんじゃないの! ていうか(未知)ってステータスなに!? はじめて見たんだけど!」

 女神アスタが声を荒げた。こんなに興奮した彼女を見るのは数千年ぶりかという勢いだ。
 でも、やはり思い当たる節がない。むしろ何かしらのチートスキルを与えていれば納得もできたんだけど。

 「やっぱりそんなチートスキル授けてないわ。強いて言うなら……【女神のオマケ】ぐらい?」
 「【女神のオマケ】? あれスキルですらないでしょ」
 「だよね……転生者全員にもれなく付いてくる、ちょっと健康になるだけのお守りみたいなもんだし。あとは成長率アップが僅かに加算されるけど……ほんと誤差レベル」
 「じゃあ、なんでこんな……意味不明なステータスになってるのよ!」

 それは私が聞きたい。
 まさかシゲル君、常に危ないクスリきめてるとかじゃないよね!
 変なキノコとか食べてないよね!

 こうなったら、多少手間だけど。

 私たちはシゲル君の人生記録を超倍速で再生してみた。
 異世界に転生してからの。


 その結果―――


 「わぁあ~~全部包丁で切ってるぅうう! ずっと包丁振ってるうう! 10歳でドラゴン切ってるぅううう!」
 「この子なんでずっと走ってるの? 馬とか使いなさいよ! 移動方法おかしくない!?」

 「ふわぁ~~シゲル君、転生して30数年間ずっと、料理してるか食材(魔物)狩ってるかしかしてないぃ」
 「365日休みなし……これ、完全にブラック企業じゃん!」
 「私の想像以上に前世の不遇から解き放たれた反動がすごいことになっちゃったのかも……でも、彼にとっては好きなことしかしてないから、まったく苦になってないみたい。魂がどんどん輝きを増しているもの」
 「てことは、料理が好きすぎて異常なほどに包丁振りすぎて、何でも斬れるほどの威力になっちゃった……ってこと?」

 あんな雀の涙ほどの、加護ともいえないオマケでステータスをカンストさせたっての? 
 シゲル君はこの異世界の誰よりも多く魔物を討伐している。それにともなって基礎体力や耐久力もグングン伸びているみたい。まあ、本人は食材集めとしか思ってないようだけど。
 しかもまだ成長し続けてるって……

 私たちは顔を見合わせて、同時にため息をついた。
 前世のブラックから、転生後の超ブラックになったわけじゃなさそうだ。

 「……そっか。本当に好きなことをやり続けたから、こうなっちゃったのね」

 そういうこと……
 もう無理矢理納得することにした。

 とにかく状況は確認できたし、画面を閉じようとしたところ……
 ふと映像の端に写った女性に目がいった。

 「あれ、この女の子……シゲル君と一緒にいる子よね。たしかレイナだっけ、なんか様子変じゃない?」
 「ほんとだ……これ、ほんのわずかだけどバフ効果出てるわよ」

 ど、どういうこと? まだなんかやってるのシゲル君? 
 もうぅうう~~~無理矢理納得して画面閉じようとしたのにぃ~

 「でもそんな付与スキル、シゲル君にはないんだけど……」
 「あっ! これって、【女神のオマケ】じゃない? 料理に混ざってるぽい!」

 「ええぇ!? おすそ分けしちゃってるの!?」
 「たぶんそうじゃないかな。調理の際に【オマケ】が付与されちゃってるんだわ」

 下界映像を見る限り、レイナ自身もシゲル君の料理を食べてなにかしらの変化が起きていることは自覚しているようだ。
 でも、それはあくまで「きっかけ」にすぎない。
 本来レイナの持っている力を、シゲル君の料理が引き出しているという方がしっくりくる。
 私たちは黙って映像を見つめながら、ただただ呆れてしまった。と同時に少しばかり温かいものを感じていた。

 「はぁ~~」
 「どうしたの、グラティア?」
 「まさか【女神のオマケ】まで調味料にしちゃうなんて。ほんとシゲル君、どんだけ料理バカなのよって」
 「ほんとよね……どんだけ料理狂いなのよ」

 しばらくの沈黙のあと……

 二人して笑いあい、再び神棚に視線を戻す。
 今日も供えられた新しい皿から、食欲をそそる香りが立ち上っていた。

 「ま、いいわ。これからも毎日、美味しいもの食べさせてくれるわけだし」
 「担当女神として、ちゃ~んと見守らないとね?」
 「ギクッ……と、当然よアスタ。女神グラティアの名に誓って。
 って、ちょっとアスタ、なにモグモグして……あ~~~っ! それ後で食べようと楽しみにしてた、とっておきのかつ丼!」

 「あんたの隠し場所なんて一目瞭然よ~わざわざ時間停止まで付与しちゃって~」

 「「にしてもこれもうまぁ~だわ~♪」」

 神棚の奥からこだまするのは、笑い声と食欲に抗えない女神たちの声。
 その裏で、シゲルは今日もまた―――包丁を振り、料理を作っているのだった。