「君はいらない」と言われたので出て行きました。今さら後悔してももう遅いです

そのころ、公爵家では問題が起きていた。

「この帳簿はどういうことだ!」

ロイドは机を叩いた。

分厚い帳簿のページには、乱れた数字が並んでいる。
収入と支出が合っていない。

以前はこんなことはなかった。

「仕入れの金額も増えている……どうしてだ」

執事が静かに答える。

「以前は奥様が確認されていました」

ロイドは顔を上げた。

「エレノアが?」

「はい。仕入れ先との交渉も、帳簿の管理も奥様が」

ロイドはしばらく黙り込む。

思い出す。

夜遅くまで机に向かっていたエレノア。
静かに書類を整理していた姿。

だが自分は一度も気にしなかった。

「そんなこと……聞いていない」

「奥様は自分から言う方ではありませんでした」

執事は続ける。

「屋敷の管理、使用人の調整、食費や維持費の計算……すべて奥様がされていました」

ロイドの胸に、重いものが落ちる。

「……では、今は誰がやっている」

「担当を分けましたが、うまくまとまりません」

そのとき、別の使用人が慌てて入ってきた。

「ロイド様!また仕入れの計算が合わないそうです!」

ロイドは額を押さえた。

公爵家の仕事は多い。
だが、それを支えていた人間がいた。

エレノア。

三年間、何も言わずに働いていた妻。

「……探せ」

ロイドは低く言う。

「え?」

「エレノアを探すんだ」

今ならまだ間に合うかもしれない。

ロイドの胸には、初めて強い後悔が生まれていた。