「君はいらない」と言われたので出て行きました。今さら後悔してももう遅いです

レオンハルトに案内され、私は町の商店へ向かった。

そこは大きな店ではなかったが、人の出入りは多い。

「ここだ」

店の奥の部屋に通される。

机の上には分厚い帳簿がいくつも積まれていた。

私はそれを開いた瞬間、思わず固まった。

「……これは」

数字がばらばらに書かれている。
計算も合っていない。

支出と収入も整理されておらず、何にどれだけお金が使われているのか分からない状態だった。

「ひどいだろう」

レオンハルトが腕を組んで言う。

「正直、私も何がどうなっているのか分からない」

私はページをめくりながら、頭の中で整理していく。

三年間、公爵家の家計を管理してきた。
この程度の帳簿なら、すぐに分かる。

「このままだと、かなり損をしています」

「……何?」

レオンハルトが少し驚いたようにこちらを見る。

私は指で数字を示した。

「この仕入れ価格が高すぎます。それに、同じ商品を二重に注文しています」

「本当か?」

「はい。それから――」

私は次々に問題点を説明していく。

仕入れの無駄。
計算ミス。
記録の漏れ。

しばらく話していると、レオンハルトは静かに言った。

「……驚いた」

私は顔を上げる。

「君は本当に屋敷の管理をしていただけなのか?」

「え?」

「商人でもおかしくない」

そんなことを言われたのは初めてだった。

公爵家では、誰も私の仕事を評価したことはない。

「もし帳簿を整理すれば、利益はもっと出ると思います」

そう言うと、レオンハルトは少し考えたあと、ゆっくりうなずいた。

「頼む」

「……?」

「この店を立て直してくれ」

まっすぐな視線だった。

私は胸の奥が少し温かくなるのを感じた。

誰かに必要とされるのは、久しぶりだった。

「はい」

私ははっきり答える。

「やってみます」

その日から私は、この店の帳簿を任されることになった。

そして――

これが、私の新しい人生の始まりだった。