チョコレートに想いを込めた春、君が消えた

「あ、先生。今日部活休んでもいいですか」

「良いけど、どうした? 珍しいな、お前がそんなこと言うなんて」

 飯田先生は首をかしげる。不思議だよな。今まで無遅刻無欠席だったし。

「なんか、手が震えるんです、料理すると」

 飯田先生が目を見開いてしまう。

「な、なんだそれっ。大丈夫なのか」

 俺の手をぎゅっと握ってくれる。

「薬はもらいました、休めば治るって」

「曖昧だな。はぁ……わかった。部長にも伝えとく」

 手を離してから、飯田先生は教卓の方に戻っていく。本当にそうだよな、早く治ってほしい。

「はよ、留喜」

 タオルで汗を拭いながら、奏は俺の前の席に腰を降ろす。

「ここ借りていいかー?」

 座ってから聞くのか。クラスメイトは首を縦に振る。

「後ろって良いよな、寝てもバレない」

 理由それかよ。思わず笑ってしまう。

「寝ないから、俺は」

「ええーマジ? 体育以外眠いだろ。俺八割寝てる」

 奏はクスクス笑っている。

「多いな。もしかして、奏が和哉に勉強教えてもらってた?」

「あーそう、俺!」

 和哉が言っていた。『テスト前になると、いつも勉強教えてって、泣きついてくるバカがいる』って。

「お前かぁ……」

 ちょっと羨ましかったんだよな。テスト前だけ、和哉を独り占めしていたから。

「不満そうな顔だな? お前も勉強会したかった?」

 つい頷いてしまう。

「テストの時だけ、放課後遊べないの嫌だった」

「へー。和哉言ってたよ、テスト終わったら留喜がいつもとびっきり美味い飯作ってくれるんだって」

 そんなことまで話していたのか。

「……ただのハンバーグだろ」

「留喜は天才なんだ。なんでも作れるし、超美味い。特にハンバーグはプロ並み! 最高だよ、毎日食いたい」

 奏が歯を出して笑う。

「か、和哉が言ってたのか」

「そ。あいつの話すことは八割が留喜のこと」

 そんなの知らなかった。

「死んでから知りたくなかったな」

 そっと頭を抱えてしまう。マズい。泣きそうだ。

 知るのが遅すぎる。なんで今。ありえない。違うと思っても、期待してしまう。もしかしたらお前も、俺のことが……。

 なぁ和哉、何の話をしていたんだ。

 奏が羨ましい。独り占めして、俺の話ばかり聞いて。俺がしたかったことを全部しやがって。

 スマホを持って立ち上がる。

「留喜?」

「ちょっと出てくる」

 廊下に出たらじわじわと涙が溢れた。くそ。人いないよな? 服の袖で、必死で涙を拭う。いつからこんなに、泣き虫になったんだろう。