チョコレートに想いを込めた春、君が消えた


「急性のストレス反応です、おそらく」

 あったことを一通り聞いて、医者はそう告げる。

「ストレス?」

 俺は首をかしげる。

「はい。親や友達が亡くなった、事故にあったなど、ショックが大きいことがあると起こるものです」

「ショック……」

 小さな声で呟く。

「はい。脳が混乱して、味覚や感覚に異常が現れます。身体が震えたり、何も感じなくなったりするんです」

 症状が一致している。

「いつまで、このまま」

 医者は首を振る。

「わかりません。焦りは禁物です、ゆっくり、時間をかけるべきです。今は心も身体も休ませた方が良いと思います」

 時間をかけるってどれくらい? 休ませるって、寝ること以外ならどうやって?

 一生このままなのか?

「治療法はありますか」

 隣にいた兄さんが聞いてくれる。

「薬で症状を和らげることは可能です」
 
 明確な方法はないか。

 結局、不安を抑える薬や睡眠薬を処方してもらった。薬を飲まなくても治ることもあるらしいけど、もらっていた方が安心できるし。

「「ありがとうございました」」

 医者にお礼を言って、兄さんと俺は診察室を出る。これからどうしたらいいんだ。家庭科の授業は、部活は……?

「留喜、部活は休め。家庭科の授業も」

 病院から出て家に向かっていると、隣にいた兄さんが言う。

「え、でも」

 兄さんは首を振る。

「どっちも出るなら見学。参加はなし」

 心配してくれている。

「……わかった。でも俺、このままだと。料理の専門学校行きたいのに」

 和哉に勧められたし、作るのも好きだし。

「気にするな、数ヶ月で治る」

 確信もないのに、言い切ってくれた。その様子を見て、少しだけ気が抜ける。

 そうだと良いな。いや、そうでないと困る。
 また、料理がしたい。和哉もきっと、俺が包丁を触らなくなるのは望んでない。

 そうだよな……?
 

 あ。お弁当どうしよう。立ち止まってしまう。

「留喜?」

「兄さん、明日から俺購買で飯買う」

「いや俺が作るから。購買はパンとおにぎりくらいしかないし」

 笑いながら言ってくれる。

「ごめん」

「謝んなくていいから。わかった?」

 首を縦に振って、兄さんの隣を歩く。はらはらと桜の花びらが落ちていく。時間は止まらない。俺の日々は壊れてしまったのに。

「……部活退部しようかな」

「やめろ、もったいない。一ヶ月で治るかもしれないのに」

 そんな都合よくいかねぇよ。でも続けたいなぁ。飯田先生に相談しようかな、顧問だし。


 翌朝、教室に行くと教卓の前に飯田先生がいた。

「あ、日高。昨日どこ行ってたんだ」

「すみません、中庭で休んでました」

 つい謝ってしまった。

「寝れたならいい」

 出席簿を教卓に置いてから、飯田先生は笑う。

「はい。……ありがとうございます」

 優しいな。飯田先生が担任でよかった。泉先生は怖いし、女の先生はあまり話せる人がいないから。


 飯田先生が真ん中の列の一番後ろに案内してくれたので、そこに腰をおろす。出席番号順だと、は行は後ろの方になるから良いんだよな。