チョコレートに想いを込めた春、君が消えた

 家のドアを開けて、中に入る。

 兄さんはダイニングのソファに座ってテレビを見ていた。

「ただいま。兄さん、朝ごめん」

「んー?」

 テレビを消して、兄さんは首をかしげる。

「冷たくした。気が立ってて」

「そうだなぁ。いいよ、ルルって呼んで悪かった」

 歯を出して笑ってくれた。

「ありがとう。兄さん、買い物行こ。お昼の」

「ん。行くかぁ」

 ハンガーラックにかけてあるコートを、兄さんは着る。

 よかった、許してもらえて。兄さんの隣を歩いて、二人でスーパーに向かった。


 意味がわからない。なんで、どうして。手足が震えて、たまごを床に落としてしまう。

 エプロンを着て、冷蔵庫を開けることはできた。でもそれしかできない。買ってきたケチャップもしゃもじもちゃんと持てない。

 自分の手が上手く使えない。

「留喜、座ってて。俺が作るから」

 床を拭いて、兄さんは割れた卵を片付ける。

「え、に、兄さんごめん、わざとじゃ」

「大丈夫、わかってるから座ってて」

 邪魔になってしまう。何も言わないでダイニングの方へ行く。


「……俺、変なのかな」

「あとで病院行こう。テレビ見てていいから」

 テレビをつける。何も頭に入ってこない。

「色々あって疲れてるだけだから、きっと」

 それだけなわけない。でも頷かないと。心配かけたくない。

「……うん」

 明日の部活、どうしよう。料理する日なのに。卵が焼ける音が、天井に響いている。

『美味! やっぱ留喜の作る飯最高!』

 和哉俺……壊れたよ。お前が褒めてくれたことすらできない。

 兄さんが作ってくれたオムライスは、味がしなかった。食べたかったはずなのに、どうして。

「……俺、ちょっと部屋いる。夕方でいい、病院」

「あぁ。ゲームでもしてな」

 食べ終わってから声をかけると、兄さんはすぐに頷いてくれた。

「なんなんだよ、これ」

 自分の部屋に入って、床に座り込む。頭を抱えてしまう。

 いつまでこのままなんだ。俺は料理が好きなハズなのに。