チョコレートに想いを込めた春、君が消えた

 バコ!

 勢いの良い音を聞いて、俺は目を覚ます。いつの間にか、眠っていたみたいだ。

 慌てて周りを見る。

 小暮が顔をしかめて、目の前にいる泉先生をじっと見つめている。

 泉先生は肌が黒くて、髪は白髪と黒が混じっている。釣り上がった瞳が少し怖い。

「いってぇ」

 コーラの入ったペットボトルで、小暮の頭を叩いたようだ。

「痛いじゃねぇ、部活あんだろうが!」

 小暮の腕を泉先生は掴む。

「え、い、泉。そうだっけ?」

「また来ないつもりか?」

「行く行く!」

 慌てて小暮は立ち上がる。

「留喜コーラありがと! 料理部は今日あんの?」

 料理部って言ったっけ? 和哉が話したのか。

「いや。明日から」

 料理部はゆるい。レシピ決めと買い出しと作る日で分かれているから、週に三回だけだ。

「じゃあ部活の後、時間もらっていいか?」

「うん。そん時ブランケット返す」

 そっとブランケットを握る。

「返さなくていいよ。またな!」

 地面に落ちているコーラを取ってから、小暮は俺に手を振ってくれる。

「日高……飯田先生が心配してたぞ」

 泉先生が教えてくれる。保健室に行ってないのも気にしているかもしれない。

「あ、明日謝っときます」

 泉先生は小暮から手を離して、俺にデコピンをする。

「いたっ」

「そういう時はお礼を言うんだよ」

 確かに。心配してくれたんだもんな。

「あ、そっか。わかりました。か、奏、また明日」

 名前を呼んでみる。合ってるよな?

「おう! バスケしてくる」

 目を見開いて笑ってくれる。泉先生に引っ張られながら、奏は体育館の方へ向かっていく。

 バスケ部か。俺球技苦手なんだよな。良いなぁ、少し羨ましい。俺もダンクシュートやスリーポイント決めたい。

 和哉ならできるのに。

「……帰ろ」

 遅いと、兄さんが心配するし。昼飯作らないと。お弁当でも買おうかな。

 いや、やっぱ作ろう。卵あったし、オムライスがいいかな。ブランケットをカバンにしまってから、俺は学校を出る。

 ふと、足を止める。オムそば、和哉好きだったよな。焼きそばのソースで頬を汚しながら食べていた。

 兄さんと買い物行こうかな。一人だと泣きそう。

 久しぶりに、まっすぐ家に帰った。和哉がいた時は料理部がない日はバレー部を見に行っていたから。