春、君が消えて、アイツに惹かれた


 埼玉で暮らして二週間が経った。こっちは東京より時間の流れがゆっくりな気がするくらい、日々が穏やかだ。久遠がいないし、学校にも行っていないからかな。

 奏と飯田先生に会いに行ってみようかな。今から電車で行けば、昼前に着く。平日だから学校にいるはずだし。奏に連絡をして支度をした。

 奏とは放課後に会うことになったので、学校のある駅の近くを適当に歩く。

 スタバがあった。

「あっ、留喜!」
  
 誰かの声がして、思わず振り向く。

「え?」

 喫煙所に飯田先生がいる。

 俺と目が合うと、飯田先生は慌てて口をおさえる。

「先生!」

「しーっ! 生徒の保護者がいたらまずいだろ」

 喫煙所から出て、飯田先生は俺の口に人差し指を当てる。確かに喫煙者って良いイメージないからよくないのか。

「どうした?」

 火を消すと、先生はズボンのポケットから煙草の箱を取り出して顔をしかめる。空だ。

「はあ。また買いに行かねぇと」

「ヘビースモーカー」
 
 思わず口に出してしまう。

「余計なことを言うな!」

 飯田先生は眉間にしわをよせる。

「学校はどうしたんですか?」

「休憩時間だよ。あそこ禁煙なんだよ」

 それはそうだ、学校だし。
 
「埼玉は楽しいか?」

「だいぶ」

「なんか焼けてないか?」

 俺の腕を取って、飯田先生はにやっと笑う。

「え、そうですか?」

「そうだよ。ガングロにはなるなよ」

 なんだよそれ。

「なりませんよ!」

 思わず大きな声で突っ込む。

「ハハ、だよな。奏と遊ぶのか?」

「はい。顔が見たくなって」

「あいつ、今日国語の小テストの補習あるけど」

 ええ! やっぱり困っているのか。

「スポーツ馬鹿なんですね、やっぱ」

「そうそう、もう受験期なんだけどな」
 
 飯田先生は腕を組む。

 確かに。まあ奏はスポーツ推薦を受けるから、勉強はそんなしなくてもいいのかもしれないけれど。

 奏から補習の連絡来てたっけ?
 
 奏から電話が来る。泣きながら補習の話をされた。

「部活しかしてないからそんなことになんだよ」

 飯田先生が厳しいことを言っている。学校まで、奏の様子を見に行こうかな。

「そろそろ学校戻んねぇと」

 胸ポケットから出した消臭スプレーを身体にかけてから、飯田先生は歩き出す。慌てて後を追う。

「俺も学校行きます」

「大丈夫か?」

「たぶん」

「クク、曖昧」

 飯田先生は喉を鳴らす。悪そうな笑い方だ。そんな顔もするんだ。

「留喜ー漢字テスト解けない!」

 十分休みの時間に教室行くと、奏が俺に泣きついてくる。

「どこらへんが?」

 答案を見ながら呟く。

「全部!」

 全く埋まっていない。答案用紙というより、ただの白い紙だ。

「勉強しろ」

 俺の近くにいた飯田先生が、奏の頭を叩いてしまう。

「いった!」

「自力で解かないと補習の時間伸びるぞ。留喜も手助けするな」

 助けたらダメなのか。まあそれもそうだよな、奏が学ばないと意味ないし。

「頑張って」

 奏に手を振って、俺は教室を出る。