春、君が消えて、アイツに惹かれた


「お帰りー」

 駅に着くと、父さんが両手を振って出迎えてくれる。

「ただいま」

スーツケースを父さんは持ってくれた。白髪が混じったグレーの髪は短く揃えてあって、肌は少し焼けている。垂れた瞳が柔らかい印象を醸し出している。

「ありがと」

「おう」

 ゴロゴロとスーツケースが揺れる音が響く。

 制服姿の中高生を見て何となく歩いてるのが後ろめたくて、わざと父さんの後ろを歩く。

「休みに来てるんだからって、そんなビクビクしなくていいんだぞ」

「まぁそうなんだけど」

 中学までは埼玉で暮らしていたから、ちょうど二年ぶりだなぁ。

「母さん、元気?」

「元気だよ。今日は寿司を頼むって言ってた」

 へー。

「俺が帰ってくるから?」

「そうそう。『私のかわいい留喜が帰ってくる、今日は最高の日だわ!』って言ってたぞ」

父さんが女声を出す。

「いや声まで真似しなくていいから。あとかわいくはない」

「そんなことないぞ」

 にやっと父さんは笑う。

「ごめんね、急に来て」

「何言ってるんだ。いつでも帰ってきていいんだぞ」

 まぁ実家だから、そうなんだけど。

「でも俺、あんま家事出来ないと思うから。いたら邪魔かなって」

「留喜は高校に行ってバカになったのか? 息子を邪魔なんていう奴がどこにいるんだ」

優しくてほっとする。

「はは。誰がバカだよ」

「悪い悪い。羅喜は元気か?」

「元気だよ。いつも優しい。兄さんとは生活しやすいんだ」

 兄さんのことを思い出して、思わず口元が綻ぶ。

「そうか。ならよかった。寿司はてまり寿司も海苔巻きも買うみたいだから、好きなだけ食べるんだぞ」

「うん、そうする」

 楽しみだなあ。

「留喜、もうすぐ夏だし家着いたら花火するか?」
 
 ゴロゴロとスーツケースを動かして、父さんは俺の隣に来る。

「え、あるの? する!」

 気分が上がって、大きな声が出る。花火なんて、和哉が生きていた時以来だ。……また和哉としたかったな。目頭が熱くなって、慌てて首を振る。

「留喜? 花火は今度にしようか」

「っ、ううん。花火したい!」

 涙を拭って、俺は笑顔を作る。