春、君が消えて、アイツに惹かれた


「留喜、やっぱ俺の家来る?」
 漏らしたの匂いでバレた?

「せ、先生の家?」
「そ。ここから車でニ十分くらいだし」
「え、いいんですか」
 先生が笑う。
「ああ。家についてから着替えていいから」
「ありがとうございます」
 奏に連絡をしてから、学校の駐車場に向かう。

「留喜! よかった」
 駐車場に奏と泉先生がいた。奏が鞄を渡してくれる。
「日高! 大丈夫か? 久遠にはきつく言っとくから」
「奏、制服捨てていいから」
「わかった。気をつけて」
 奏がタオルをくれる。受け取ってから、飯田先生に促されて車に乗る。

「ほら」
 飯田先生はジャケットを脱いで、俺の膝にかける。暖かい。飯田先生の匂いだ。

「内側はあんま濡れてないから、これで寒くないだろ」
「はい。先生、怒ってますか?」
「いや全然。何で言わなかったんだとは思ってるけど」

 飯田先生が手を握ってくれる。

「濡れてますよ」
「お互い様だろ。はあ。焦った。心臓停まるかと思った」
 え。初めてだ、飯田先生の弱音聞いたの。
「ごめんなさい」
「謝んなくていいけどさ、少しは誰か頼れよ」
 え。飯田先生の瞳から涙が流れている。そんなに心配してくれたんだ。

「先生」
「うん?」
 足元を見ながら声を出す。
「俺、学校行きたくない。家にも帰りたくない」
 声がすごく小さくなった。わがままばかり口から出る。

 兄さんに心配かけたくない。ただでさえ最近、料理ができなくなったことでいつも心配かけているから。

「久遠達は退学になるから、たぶん。だから明日からじゃなくていいけど、そのうち学校には来い」
 明日からじゃなくていい?
 思わず顔を上げる。

「教師がそんなこと言っていいんですか」
「いいんだよ。家は帰ろうな。ごめん、泊まっていいって言えなくて」
 優しさがしみた。

「先生」
「んー?」
「どうして、何言ってんだって怒らないんですか」
 目を丸くして、飯田先生は俺を見る。
「だってお前、そういうの求めてないだろ? 怒る理由ないし」

「隠したのは嫌だったんじゃ」
 それは理由にはならない?
 飯田先生が俺の指を撫でる。

「嫌じゃなくて、ショックだったよ。あんなに気にかけてたのに、頼ってくれないのかって。でもお前、何かあると殻に閉じこもるタイプだからな」
 そうかもしれない。

「迷惑かけたくなくて」
 飯田先生がため息をつく。

「あのなあ……何を迷惑か決めるのはお前じゃないんだよ。俺なの」
 あ。確かにそうだ。

「それ、全然思いついてなかったです」
「なんでテストの点は良いのにそういうのわかんないんだよ」
 呆れられてしまった。

「なんで、ですかね」
「ハハ、まあいいや。ついたぞ」
 白いマンションの前の駐車場に、飯田先生は車を停める。