春、君が消えて、アイツに惹かれた


 これからどうしよう。

 このままだといずれ、学校から兄さんのところに電話がかかるかも。

 飯田先生にもまた心配かける。

 学校に戻らないと。でも立てない。どこにも行きたくない。

 指で地面に「たすけて」と書いて、すぐに消す。助けてほしくなんかない。こんな姿誰にも見られたくない。

 でも予備の制服を届けて欲しい。何も言わないでそばにいて欲しい。

 抱きしめて欲しい。温もりに触れたい。暖かいものが飲みたい。

 スマホが鳴る。奏から電話が来ている。

『留喜? 今どこにいる?』

「奏……死にたい」

 間違えた。こんなこと言うつもりなかったのに。

『は、何言ってんだ。落ち着けって」

「制服、ウサギ小屋にあった」

 何が悲しいとか、何が辛いとかは言葉にできなくて。ただ起きたことを言うことしかできない。

『え、ウサギ? ……な、何だよこれ』

「見たまんま。停学にさせたのって、そんなマズいことなのかな」

 いっそ、そうだよって言ってもらえた方が楽だ。自分がとてつもなく悪いことをして、その報復を受けたならまだ理解ができる。

『ちげえって。お前はなんも悪くない』
 じゃあなんでこんなことになってんだ。

「ごめん、すこしほっといて」
 電話を切った。

「留喜! 留喜!! 留喜ー!」 
 あ。飯田先生の声がする。思わず顔を上げた。校門のそばを飯田先生が走っている。
 なんでバレた。奏が言った? 隠してたの怒られる? 嫌だ。そんなことされたらますます精神が壊れる。逃げないと。
 でも逃げなかったら、抱きしめてくれるかもしれない。そうして欲しい。でも漏らしてるのバレたくない。
 
 公園を出て歩く。走る気力がない。でもこんな姿で会いたくない。
 雨が降ってきた。
「留喜、待てって!」
 飯田先生は俺より背が高い。だから俺の姿が見えたのかもしれない。公園は学校のそばにあるから。

「嫌です、来ないで」
 そんなこと思ってない。でも言わないと。歩けなかった、飯田先生が気になって。
「うわっ!」
 飯田先生が、雨で足を滑らせる。手を掴まれた。俺も一緒に転んだ。
「いった……」
 ぎゅうっと抱きしめられる。暖かい。ほっとする。

「ごめん、わざと」
 は?
「どういう意味ですか」
「わざと転んだ。見られたくないことや触られたくないところがあるなら、水を通してそこに触れた方がいいと思って」
 え。
「アハハハハ! なんですかそれ!」
 思わず笑ってしまう。ななめ上の考えにも程がある。

「だってお前、何があったって聞かれるの嫌だろ?」
 俺を立ち上がらせてから、飯田先生は服についた水を払う。

「それはそうですけど……ごめんなさい、いなくなって」
「ん。留喜、飯でも食い行こ。制服持ってきたから」
 学校に戻ろうって言わないの。教師なのに、どうして。
「ふっ、ふえ、うあ、うあああぁぁぁ!!」
 ガキみたいな声が出る。
 背中を撫でてくれた。