しんどい。
小屋の鍵借りないと。でも職員室でなんて言って借りたら。そもそも久遠って、ウサギの世話係なんてきっとしてないよな。じゃあ誰かを脅して、小屋の中に制服を入れさせたのか?
吐き気がする。
こらえきれなくて、トイレに駆け込む。兄さんが作ってくれた弁当を吐いた。
奏になんて報告しよう。教室に帰りたくない。
「う、うう」
涙が溢れた。奏が学校に行けなくなった気持ちがわかってきた。別に一つ一つは大したことじゃない。小学生がやったのかって疑いたくなるくらい、くだらない。それでも頭の中でイライラと悔しさと悲しさが蓄積されていく。
「……ちっ。くそ」
舌打ちなんてしても意味ない。早く泣き止んで、取りに行かないと。
いや、いいや。このまま授業サボるか。涙止まんないし。あ、でも奏が探しに来るかも。和哉の事件があってから、毎日一緒にいるから。どうしよう。
いっそ見つからなかったって言って、このまま教室に戻るか? でもそんなことしたら、なにもかもバレた時になんて言ったら。
五限の始まりを告げるチャイムが鳴る。
日本史の時間だ。教室に行かないと。足が動かない。行くのが怖い。じわじわと不快感が押し寄せて来て、ぴちゃっと便器に何かが落ちる。
ズボンが濡れている。漏らした。なんで? トイレにいたのに。……無意識でそんなことをするくらい、精神が病んだ?
「うっ、うえ」
さらに吐いた。
気持ち悪くて、レバーで水を流してから便器に座り込む。どこにも行きたくない。教室に帰ったら何が起きてる。教科書がびしょ濡れ? また窃盗?
嫌な未来ばかり予測して、ますます気分が悪くなる。
奏が俺を探していたらどうしよう。
……ごめん。ドアを開けてトイレを出て、スニーカーに履き替える。事務員や用務員に見つからないよう気をつけながら、学校を出た。
飯田先生に泣きつきたい。でもこんなしょうもないことをされて心が壊れたのを話すのは嫌だ。そんな弱い奴だって思われたくない。
どこに行ったらいいんだ。兄さんのいる大学? 講義中だったらどうしよう。
母さんと父さんがいる埼玉? 歓迎はしてもらえるかも。でも授業抜け出したのバレるよな。
あ。ズボンが濡れているから、どこか隠れないと。
近くにあった公園に入って、滑り台の下でしゃがむ。
すげぇ惨めだ。ついこの前まで、俺が久遠に文句を言っていたのに。
人の心を折るのって簡単なんだ。それもかなり。



