オムライスが入った皿をダイニングテーブルに置いて、飯田先生は俺の隣に座る。
卵は少し焦げて、茶色くなっている。
「ありがとうございます」
「寝てるから」
飯田先生は本当に目を閉じてしまった。
会議と運転で疲れたのかな。
ケチャップとよく絡んだご飯が美味しくて、口角が上がる。
「美味し」
飯田先生を見ながら呟く。まつげは影が落ちるくらい長くて、白い肌は傷ひとつない。子供みたいに笑っている。
幼いなぁ。二十六歳なんだっけ。
飯田先生の頰をつんつんする。
飯田先生が俺の指を掴んで、噛もうとする。
「えっ、起きてたんですか?」
「ハハ。そんな早く寝つかねーよ」
歯を出して、飯田先生は笑う。
恥ずかしくなって、俺は下を向く。
「すいません。ちょっと出来心で」
「フ、だろうな。留喜、兄貴帰ってくるの何時?」
「六時くらいです」
「ふーん。膝貸して」
俺の膝に頭を乗っけて、飯田先生はまた目を閉じる。
「え、何して」
「うっせ。机の上に突っ伏して寝るの好きじゃないんだよ」
知らねぇよ!
椅子が横に長いから確かにその体制なら寝れるのはわかる。でもなんで? ソファ行けよ!
「オムライス食べれないですって」
何も答えない。すーすーと寝息が聞こえてくる。
仕方がないので、あまり下を見ないようにして食事を再開する。
食べ終わっても飯田先生は起きない。兄さん帰ってきたらどうするんだよ。
「起きてくださいって」
膝が痛い。でも、あんな助けてもらったのに動くのはよくないよなあ。
六時になってしまった。家のドアが開く。兄さんだ。
「先生!」
できる限り大きな声を出して、飯田先生の肩を揺さぶる。
「ん? ああ、ごめん。もう帰るな」
飯田先生が起き上がる。
「はい。ありがとうございました」
「ん。あんま無茶すんなよ」
その言葉を聞いて、はっとする。
「俺が心配だから、あんなことしてたんですか?」
「は? なわけねえだろ、調子乗んな」
飯田先生の顔がりんごみたいに真っ赤だ。耳まで赤くなっている。
どんだけ不器用なんだ。可愛い。
え? あ……俺、飯田先生が好きなんだ、きっと。
「へへ、ありがとうございました。おやすみなさい」
「だからちげえって! おやすみ」
大きな声で否定してから、飯田先生は歩き出す。
部屋のドアが開いて、兄さんが入ってきた。
「あ、こんにちは」
「よう、羅喜。また留喜の三者面談でな」
兄さんにそう挨拶をして、飯田先生は玄関に行く。俺は兄さんと一緒に、飯田先生を見送った。



