春、君が消えて、アイツに惹かれた

 カラオケを出て、久遠は歩き続ける。路地裏に着いた。
「留喜、逃げよう。三対二じゃダメだ。喧嘩になったらヤバい」
 奏が俺の腕を掴む。
 そんなことわかっている。それでも、ここで逃げたらダメだ。

「勝つとわかりきったことなんてしねぇよ、クズ」
 久遠が笑う。暴力沙汰を起こす気はないのか。
「なにすんだよ」
「そうだなあ……ゲームでもしようぜ。お前が負けたら動画消して」
 俺は首を振る。
「消さない」
「舐めてんのか? じゃあ泉に言うのやめろ」
 奏の手を引いて、俺は走り出す。

「っ、待て!」
 久遠を無視して走る。
「留喜? 学校行くのか」
「ああ。泉先生か飯田先生に伝えないと」
 ドン! 
 スニーカーが目の前の壁にぶつかる。

「待ってって言ってんだよ、金魚のふん」
 振り向くと靴を脱いだ久遠がいた。 

 マズい。
 久遠が手を振り上げる。両手で頭を庇って、俺は目をつぶってしまう。

「おい、何やってんだ問題児」
 飯田先生の声がする。
 目を開けた。
 ドン!と、飯田先生が鞄で壁を叩く。

「せんせ……」
「留喜、後で説教な。久遠、修一、秀樹、お前らは停学になりたいのか?」
「ごめん!」
 久遠を置いて、修一と秀樹は逃げようとする。飯田先生が二人の手を掴んだ。

「みんな学校戻ろうな?」
 飯田先生の後を三人はついていく。

「助かった……あ、動画渡さないと」
 そうだった。奏の声を聞いて、俺はすぐに飯田先生の後を追う。学校について動画を提出する。職員会議が始まった。飯田先生が鍵を渡してくれたので、教室で終わるのを待つ。

 会議が始まって一時間くらいすると、飯田先生と泉先生が教室に来た。

「留喜、送ってく」
 飯田先生が言ってくれた。
「ありがとうごさいます」

「奏、お前は俺の車でいいだろ?」
 泉先生の声を聞いて、奏は瞳を輝かせる。
「泉がいい」
 四人で駐車場に行って、飯田先生の車の助手席に乗る。泉先生の車の助手席にいる奏に、窓越しに手を振る。車が動いた。

「あいつらは停学だと。一ヶ月だけどな」
 ほっとしてため息をつく。

「奏の閉じ込めについては、何かわかりました?」
「三人とも知らないって言ってる。まあ嘘だと思うけど」
 そう簡単に本当のことは言わないよな。

「すいませんでした」
 飯田先生を見ながら頭を下げる。

「あんまり心配かけんじゃねぇよ。はあ」
 ポケットから取り出した煙草を飯田先生はまたポケットにしまう。

「え、吸っていいです」
「吸わねーよ。お前自分のこと軽視しすぎ」
 睨まれてしまった。

「なんで居場所分かったんですか」
「後つけた、気になって」
 そうだったのか。

「今日兄貴は?」
「まだ大学だと思います」
「じゃあ飯作ってやるから」
 え。なんで。

「いいんですか」
「いーよ。お前ほっとくと食わないで寝そうだし」
 料理できないから、確かにそうするかも。

「ありがとうごさいます」
 優しさがしみて、胸が暖かくなる。

「オムライスでいい? 米とケチャップある?」
「はい。へへ、嬉しいです」
 飯田先生の顔が赤くなっていく。
「別に俺料理上手くねーから。あんま期待すんなよ」
「料理部の顧問なのに?」
「うっせ」
 ぐしゃぐしゃと髪の毛をかき回される。