春、君が消えて、アイツに惹かれた


「あれ、留喜? 部活は?」

 下駄箱にいた奏が首をかしげる。三十分だけ部活に行くなら、待ってるって言ってくれてたんだっけ。

「行けなかった」

「そっか。え? 泣いたのか?」

 奏が俺の顔を覗き込む。

「少し。飯田先生って変だ。なんであんな構うんだよ」

「生徒だからだろ。最近学校で色々あるし、気にかけてくれてんだよ」

 そうだよな。

「体育館行かないと。久遠のこと調べる」

「それは今日じゃなくても」
 奏が俺に気を遣ってくれる。

「する。何かしてないと泣きそう」
「そうか。わかった」
 二人で体育館に足を進める。ドアを少しだけ開けて、体育館の中を覗き込む。

 久遠が見当たらない。

「泉」
 ドアのそばにいる泉先生に、奏が小さな声をかける。

「ん? どうした」
 体育館から出て来て、泉先生は奏に尋ねる。

「あの、今日久遠達は」
 俺の声を聞いて、泉先生は顔をしかめる。
「サボりだ。たぶんゲーセンかカラオケ」

「泉は探しに行かねぇの?」
「まだ仕事残ってるからな。久遠いないし、奏少し練習するか?」
 目を見開いてから、奏は泉先生から目を逸らす。

「や、俺はいいや。まだ病み上がりだし」
「わかった。また明日な」
 泉先生に頭を下げてから、俺と奏は近くのカラオケに向かう。

 ――ビンゴ。喫煙所に久遠と修一と秀樹がいる。三人とも私服に着替えている。
 喫煙所の近くにある、ドリンクバーで飲み物を選んでいるふりをして、出てくるのを待つ。

「見つかったら声かけられるかな」
「たぶんな。悪い、俺あんま話せないかも」
 奏が謝ってくる。急いで首を振る。
「大丈夫、俺が話すから」
 涙はもう引っ込んだ。


「あれ? ドクズじゃん」
 喫煙所から出た久遠が、奏の姿を見て言う。久遠達のいる方向に、奏は振り向く。
「久遠、部活は?」
「うるせーな。お前もサボってんだろ」
 久遠は眉間にしわを寄せる。

「奏は昨日風邪ひいたんだよ、まだ本調子じゃないんだ」 

「誰お前」
 は?

「久遠、日高だよ。和哉の金魚のふん」
 修一に言われた。

「金魚のふん?」
 思わず聞き返す。

「あー。え、お前らふん同士で仲間意識してんの? キッモ」
 歯を出して、醜悪の笑みを久遠は浮かべる。

「何も面白くない」
 イラっとして、久遠にそう言葉を返す。

「なんだよ、お前もそこのクズみたいに打たれ弱いかと思ったのに。つまんね」

 久遠の言葉を聞いて、ますます不快になる。

「誰がクズだ」
「えーだってそうだろ? すぐ泣くし笑わねぇし。なのにクソ泉にはやたら媚びてんだから」
 奏がいつ泉先生に媚びたんだよ!

「黙れ」
「はいはい。じゃあな、金魚のふん」
 俺と奏の横を通って、久遠達は去る。カラオケルームに戻るのか。

 床を思いっきり踏む。

「ふざけんな」
 失礼にもほどがある。どうせ奏よりバスケ下手なくせに。