春、君が消えて、アイツに惹かれた


「あっ、先生。俺トイレ掃除しないとなんですよね」

 しろって言われていたよな。

「ん? あーあれは冗談だ。親友のメンタルケアしてた奴に、罰なんてねぇよ」

「えっ、だって一週間しろって」

「その場のノリだよ。怒らないのはダメだろ」

 飯田先生がデコピンをしてくる。

 え、なんだ。そうだったのか。思わず気が抜ける。

「じゃあ、昨日のサボりの罰は? 何かありますか」

「部活に来い」

 え、料理部に?

「行く気になったら」

「いや今日来い。俺そばにいるから」

 なんで。

「俺何の役にも立たないですよ」

「何かを求めて来いって言ってるわけじゃない」

 飯田先生は俺を睨んでしまう。

「大地はお前が心配なんだよ。な?」

 泉先生が教えてくれる。

「なっ……お前は余計なことをペラペラと」

 飯田先生の顔がみるみるうちに赤くなる。

「え、先生」

 本当なのか。優しさが嬉しい。でも戸惑ってしまう。

「はぁ。家で一人で何するんだ。お前はゲームやテレビよりも料理が好きだろ」

 バレている。まぁそうだよな。もう料理部入って三年目だし。

「に、兄さんと話してますよ」

「あの人大学生だろ? 家にいない時だって」

 そうなんだよな。最近は俺を気遣って、最低限の講義しか出ないようにしてくれているけど。

「大丈夫ですよ、寂しくないから」

 一人でも別に平気だ。たぶん。

「いいから部活に来い。また泣かれたら困るんだよ」

 人差し指で頬をツンツンされる。

「はっ、先生なにして」

「イタズラだよ。教室行くぞ、ホームルームしねぇと」

 飯田先生が歩き出す。

「この不器用が」
 ため息をついてから、泉先生は飯田先生と違う方向に向かう。

「あ、待ってください」

 飯田先生の後を慌てて追う。

 まだ部活行くって答えてないのに。どうしよう。

「あ、来た! おはよ、留喜」

 教室の前にいた奏が手を振ってくる。

「おはよ。大丈夫か?」

「へーき。先生もおはよーございます」

「おはよう。元気ならいい」

 そう言って、飯田先生は教室に入る。