春、君が消えて、アイツに惹かれた


「先生、監視カメラの映像見れますか? 下駄箱の」

 次の日。ホームルーム前に職員室のドアを開けて、俺は飯田先生に尋ねた。

「もう見た。小暮を閉じ込めた奴は映ってる。でも顔がわからない」

「身長は?」

「映像だけじゃイマイチ。低くないとは思うんだけど」

 飯田先生が首を振ってしまう。ダメか。

「テニス部にも聞いてみたけど、森先生は小暮が来る前からコートにいたんだと」

 コートから動いてないなら、森先生は犯人じゃないか。

「山岡先生は?」

「ずっと職員室で作業してたと思う」

 思うって。

「先生、曖昧」

「しょうがないだろ、俺だって近くで仕事してたんだから」

 飯田先生が腕を組む。

「でも」

「最近忙しいんだよ。担任の仕事も顧問の仕事もあって。誰かさんは部活来なくなるし」

 思わず飯田先生から目を逸らす。

「うっ。ごめんなさい」

「見に来れば? 洗い物はできるだろ。買い出しだって」

 椅子から立ち上がって、飯田先生は俺のそばに来る。

「そうだけど、邪魔になるし」

「そんなことないだろ。なぁ、いず?」

 ドアのそばの席に座っている、泉先生と飯田先生は目を合わせる。

「あぁ。みんな来たら喜ぶに決まってる」

 泉先生が言ってくれる。

「いず?」

「ここ同じ大学だから。一緒に昼食う仲」

 飯田先生が教えてくれる。

「へー」

 俺と和哉みたいなもんか。

「やっぱトイレにも監視カメラあった方がよかったよな」

「いやいや、何言ってんだ大地。トイレはダメだろ」

 飯田先生の言葉に、泉先生が突っ込む。そういえば、大地って名前だっけ。

「でも犯人トイレで準備してるからな」

 そう呟きながら、飯田先生は席に戻る。

「着替えてんの?」

 飯田先生の席まで歩いて、パソコンを覗き込む。

「いやパーカーはトイレ行く前から着てるんだよ。マスクもそう。ただこれ」
 
 パーカーを着た男は紺色の大きなリュックを持っている。保冷剤を入れていたのか?

「これは、トイレを出てから肩にかけてる」

 そう言いながら、飯田先生はトイレに行く前の姿と行った後の姿を見せてくれる。本当だ、出た時しか持っていない。

 泉先生が立ち上がって、俺と飯田先生のそばに来る。

「大地その前の日用務員って出勤してたか?」

「いつもトイレ掃除してる? してたと思うけど、変なものがあったら処分してるだろ」

 泉先生の方を向いて、飯田先生は答える。

「前日からの用意じゃないのかな」

「そうだなあ。あと考えられる線は、こいつに仲間がいて、そいつが保冷剤やリュックを用意したとか」

 確かに。

「問題は保冷剤の数だろ。悪意がありすぎんだよ。奏風邪ひいちまったし」

 泉先生は眉間にしわをよせる。

「ケーキ買えばもらえるからニ十個は用意できるけど多いよな」

 飯田先生が頷く。

「うん。トイレってカメラダメなんですか?」
「プライバシーな場だから」
 それはそうか。