校門で飯田先生と別れてから、もう一度体育館に向かう。
ごめん、先生。「早く帰って休めよ」って言ってくれたのに。
ドアが少しだけ開いている。その隙間からバスケ部の様子を見る。久遠がバスケットボールを投げている。バスケットボールがゴールに入る。スリーポイントシュートだ。
「やっぱ久遠が一番だな」
久遠の肩に黒髪の男が腕をのせる。修一だ。奏がそう連絡してくれた。
「まあ、負け犬もいねえからな」
茶髪の男が言う。こっちが秀樹か。
負け犬? 心臓がドキッと音を立てる。まさか。
「ああ、奏? そういやあのクズ、また来なくなったな」
久遠の声を聞いて、思わず口が開く。なんて呼び方をしているんだ。最悪すぎる。
「風邪ひいたらしい。馬鹿泉が言ってた」
「馬鹿泉ってピッタリすぎだろ」
久遠が笑っている。泉先生の何が馬鹿なんだよ。喫煙に気づいていないことか?
「馬鹿泉、奏に水筒あげたらしい」
泉先生が話したのか?
「あいつらできてんの? お似合いじゃん、馬鹿同士。キッモ」
「奏も泉も死ねばいいんだよ。俺の人生に邪魔な奴は全員ぶっ潰す」
なんだ、それ。どうしてそこまで嫌っているんだ。やっぱり、久遠が閉じ込めた? でもこの会話だけじゃ、決定打に欠ける。
「さすが久遠、言うなあ」
そこで会話は終わって、三人は練習を再開する。
奏に会いに行こう。もう少し、久遠と奏の関係が知りたい。
床に置いていた鞄のほこりを払って、肩にかける。
インターホンを押して上がらせてもらって、奏の部屋まで足を進める。
「ケホ。留喜、ごめん休んで」
パジャマ姿の奏がドアを開けてくれる。ガリアが俺の足元に来る。
「いや大丈夫。少しは楽になった?」
「ああ……明日は行く。見に来てくれてありがと」
ベッドに腰を下ろしてから、奏は言ってくれる。
首を上下に動かしてから、俺は床に座る。
「少し聞きたいことがあって。久遠がその……お前のことすごいコケにしてるんだけど」
「あーそれか。ケホケホ。和哉がいた頃……高二の夏くらいに、三年が引退したから一・二年で誰がエースか話し合ってたんだよ。その時上がったのが俺と久遠で。久遠は何もかも自分の思い通りにしたい奴だから、俺が上がったのも泉と仲良いのもよく思ってねぇんだよ」
ただの逆恨みだろ、それ。
「じゃあ奏はエースになれるハズだったのに久遠に譲ったのか?」
「そ。話し合いしてた時期に久遠が俺の靴を隠したり体操着を便器に突っ込んだりするようになって。部活行けなくなって、当分はガリアと遊んでた。そしたら和哉が家に尋ねて来てくれたんだ」
やっていることが陰湿すぎる。
「和哉は何で気づいて」
「体育館で着替えてる時、俺が震えてたから」
そういうのは気づきそうだな、和哉は周りをよく見ているから。
泉先生が貸してくれた水筒を開けて、奏はホットコーヒーを飲む。
「話してくれてありがと」
「あぁ。久遠何か言ってた?」
「言ってたんだけど、閉じ込めの犯人かはわかんない」
首を振ってから俺は下を向く。
「何かあったのか?」
「久遠が、奏と泉先生ができてるって」
目を見開いて、奏は勢いよくむせる。
「ゴホゴホ! は? 意味わかんねぇ」
奏の顔が真っ赤だ。
「俺もわかんない。その水筒が泉のだから言ってて」
「ああ、すげー飛躍してるじゃん。泉が俺なんか相手にするわけないのに」
ん? 奏の言葉がひっかかる。
「奏、その言い方は」
「あっ! んー俺泉好きなんだよ。尊敬してる。あと、少しそういう目で見てる」
奏は慌てて口を抑えて、下を向く。
恋愛感情があったのか。
「そうなんだ」
すぐに顔を上げて、奏は大きな声で突っ込む。
「やっ、恋人にしたいわけじゃねぇよ? ただ気になるっていうか……優しいし」
「うん、わかってる」
頷いて、俺は立ち上がる。鞄を肩にかけた。
「帰るのか?」
「うん。ちゃんと寝てて。久遠のことはもう少し調べとくから」
「ありがと、また明日」
奏に手を振って、俺は家に帰った。



