真夜中、日野和哉は死んだ

 絞め殺された、和哉の顔が忘れられない。

 葬式は終わって、和哉が死んでからもう一週間以上経った。

「はぁ……くっそ」

 カーテンを開けると、窓越しに、庭の桜が見える。窓を開けて、ベランダから桜に手を伸ばす。ぐらっと身体が傾く。

 ドタドタと足音が聞こえる。振り向いたら、兄の日高羅喜(ひだからき)が部屋に入ってくる。慌ててベランダに来て、兄さんは俺の身体を掴む。

「バカ! 死ぬぞ?」

 息を切らしている。焦っているのが面白くて、思わず笑ってしまう。

「死なないよ」

「え、じゃあなんで」

「和哉に桜見せたかったなって思ったら、つい手が伸びて」

 兄さんはため息をつく。安心したのかもしれない。

「びびった。お前まで死んだら地獄だ」

「もうそうだよ」

 地獄も当然だ、和哉がいない世界なんて。

「……でも学校は行くか」

 俺は首を縦に振る。

「犯人の人生を壊す」

 兄さんは目を見開いてしまう。

「なっ、本気かよ。教師だったらどうする? 最悪返り討ち、もしくは通報されて務所だ」

「どうでもいい、未来なんて」

 大人には太刀打ちできないかもしれない。でも生徒なら殺せる。

 兄さんが俺の両肩を掴んでしまう。

「考え直せよ、犯罪なんてするな」

 勢いよく手を振り解く。心配してくれている。でもうっとうしい。

「話はそれだけか」

 呟いて歩き出す。

「待てよ留喜……っ、ルル!」
 
 俺は足を止める。

「兄さんが呼はないで」

 兄さんを睨んで、俺は鞄を取る。

『ルルー!』

 和哉の声が頭によぎってしまう。

『は? なんだよルルって』
『えーだって、羅喜と留喜って似てるから』

 涙腺が緩む。

「っ、もう帰って来ないんだよ」

 言い聞かせて、部屋の隅にある鞄を取る。走って部屋を出て、そのまま家を出る。兄さんに泣いているのがバレるのだけは嫌だ。

 食欲が湧かない。和哉がそばにいないからか。