チョコレートに想いを込めた春、君が消えた

「バスケ部エースの佐々木久遠。その友達の修一と秀樹」

「久遠って俺達のクラスじゃないよな」
 メモ帳に書かれた名前を見ながら呟く。顔があまり浮かばない。文化部だと、運動部の男子との交流が薄くなるんだよな。
「ああ、隣のクラスだ。去年もお前と和哉は久遠と違ったな」
「どんな奴だっけ」
 首を傾げる。

「影で喫煙してる、がたい良くて身長高めの」
 は?
「煙草? 退部にならないのか?」
 奏は首を振ってしまう。
「ならない。泉にバレてないから。あいつ、部員に悪さしてる奴がいるなんて考えもしない」
 確かにそんな気がする。

「泉先生がそういうの考えられてたら、奏のいじめ和哉が止めてないのか」
「そうそう。久遠は策士なんだよ。泉にバレないように男子トイレでいじめしてた」
 そういう奴こそ、奏を閉じ込めそうだな。

「トイレで奏が着替えてるのを知ってる奴がいないか?」
「いるかもしんないけど、誰かわからない。俺、体育館では着替えないんだよ。いじめられた時の痣残ってるし」
 それを知っている奴が奏のあとをつけて閉じ込めた?

「誰かに話したことある?」
「えっと泉は知ってる。あと和哉くらい」
 和哉は人に何かを広める奴じゃないからなぁ。

「バスケ部の奴らは?」
「知らない奴が多いと思う。何処で着替えてるって聞かれたことないし」
 カルピスを飲んで、俺は首を傾げる。

「泉先生が広めることはないか」
「ないない。ただ久遠達が俺の後つけてたかって聞かれると、わかんない」
 それはそうだよなぁ。
 天を仰いで、俺はカルピスを飲み干す。
 本人に聞きだす以外の方法で、久遠が何をして何をしてないのか暴きたい。

「こういう時こそ和哉の頭の良さが欲しい」
 奏の口から本音が漏れる。
「うん……二人じゃ無理あるよ、犯人探しって」
 人手も脳も足りていない。だからって、兄さんを巻き込むのは良くない気がするし、教師の誰かは頼る気になれない。まだ犯人じゃないって決まった訳じゃないし。

「久遠尾行する?」
「え?」
 奏の声を聞いて、俺は瞬きをする。
「俺を閉じ込めてたのが久遠なら、修一達にそのこと話しそうじゃん」
 確かに。
「俺が尾行する。写真とかない?」
 奏はこめかみに手を当てる。
「バスケ部の集合写真しかないかも。あとは俺をいじめてた写真」
「ロッカーの?」
 頷いて、奏はため息をつく。
「あの写真、久遠が勝手に印刷してきたんだよ。捨てようと思ってんだけど、家や学校ではしづらくて」

「不要になったら、俺が捨てよっか?」

 奏が目を見開く。

「マジ? それは助かる! じゃあ明日写真渡す……へっくし!」
 奏がくしゃみをしてしまう。
「まだ寒い? 寝てて」
「そうする……ごめん」
 奏がベッドの布団にもぐる。ガリアが奏の顔をぺろぺろ舐める。
「ハハ」
 思わず笑いながら、俺はボールを投げてガリアの気を逸らした。