チョコレートに想いを込めた春、君が消えた


 奏の家は、俺達の学校から歩いて十五分のところにあった。

「俺の親共働きだから、夜まで帰って来ないんだ」

 一軒家のドアを開けながら、奏は呟く。

「連絡は?」

「しようと思ってるけど、良い嘘が思いつかないんだよなぁ」

 なにもかも話すのは嫌だよな。
 
「ありそうなことを言えば」

「朝練前に熱出たって言うか」
 
 靴を脱いで、奏は家に足を踏み入れる。

「お邪魔します」

 俺も家の中に入った。

 どこかから足跡が聞こえる。

「ワンワン! ワンワンワンワン!」

 階段を駆け降りるような音がする。廊下を突っ切って、玄関まで犬が来る。しっぽをぶんぶんふって、奏に飛びついた。黒いポメラニアンだ。

「はは。ただいま、ガリア。留喜、犬平気?」

 ガリアが奏の顔を舐める。奏の瞳に光が宿る。

「平気……すごい懐いてる」

「俺は一緒にいる時間が長いから」

 俺の背中に顔を近づけて、ガリアはくんくんと匂いを嗅ぐ。

「ガリア、目うるうるしてる」

「そ。くりっくりだしなー。かわい」

 ガリアを抱いて、奏は廊下を歩く。廊下の突き当たりにはダイニングキッチンがあって、そこの端に階段がある。階段を上がって、奏は二階に行く。手前の部屋のドアを開けて、奏は中に入る。

 出入り口前に犬のおもちゃがあって、奥に勉強机と椅子とベッドが置かれている。バスケットボールが入ったネットが椅子にかかっている。

 奏が床に降ろすと、ガリアはがぶがふと犬の骨を噛み始める。

 頭をツンツンしていると、手を掴んで舐めてきた。

「かわい」

「飲み物取ってくる。カルピスでいい?」

 鞄を床に置いて、奏は言う。

「うん、ありがとう」

 頷いて、俺は床に腰を下ろした。

「あれ、ガリアまだ舐めてんの?」

 俺の指を見ながら、廊下にいた奏は笑う。

 コップが置いてあるトレーを床に置いて、奏は俺の隣に座る。

「人懐っこいだろ? 和哉みたいだよな」

 確かに和哉は誰とでもすぐに仲良くなっていた。

「うん。……奏、和哉を殺したのとお前を閉じ込めたのって別のやつかな」

「どーだろ。なんで今更、またいじめられんだ」

 奏が下を向いてしまう。

「和哉がいなくなったからかも。邪魔者が消えたからみたいな」

「はぁ? そんな考え最悪すぎるだろ」

 目を見開いてから、奏はコーヒーの入ったコップを握りしめる。

「俺だってそんな風に思いたくない。でもあいつの前だと手を出しにくいって思ってたのかも」

 いじめを助けた奴が弱い奴なら、気にしないだろう。でも和哉は腕っぷしが強いし頭も回るから、敵にしたくなかったのかもしれない。

「死んだ途端これかよ」

 奏が毒を吐く。

「バスケ部って何人なんだ」

「男子は二十人くらい。俺をいじめてたのは三人」

 鞄からメモ帳とペンを取り出して、奏は何かを書く。