チョコレートに想いを込めた春、君が消えた

「ブラックコーヒー、飲めるか? 俺の私物だけど、あったかいから」

 紺色の水筒を奏に見せながら、泉先生は俺の隣に座る。

「あ、うん。ありがとう」

 蓋を開けて奏はコーヒーを飲む。

「はぁ。先生……俺部活辞める」

「待て待て、大学のスポーツ推薦はどうする」

 泉先生が大きな声を出す。焦っているみたいだ。

「どーでもいい」

「よくない。奏、バスケ好きだろ?」

 奏を見て、俺は首を振る。

「そうだけど」

「昨日のダンク、かっこよかったよ」

 背中を叩いて、俺は奏を励ます。奏の瞳からますます涙が溢れる。

「でも怖いんだよっ!」

 奏が頭を抱えてしまう。

「大丈夫だから、守るから」

 奏の背中を撫でる。守りたい、この弱々しい背中を。もう誰も絶対に失いたくない。

「俺も警戒しておく、お前に何か起きないように」

 泉先生が奏の頭を撫でる。

「ありがとう」

「犯人は先生かもしれないな」

 腕を組んで、泉先生は言ってしまう。

「え、なんで」

 奏が上目遣いで泉先生を見る。

「保冷剤の量が多すぎる。朝の六時より前にそんなのを用意して、鍵まで閉めることができるのなんてそれくらいだ」

 そうかもしれない。

「朝、職員室にいた先生は?」

 俺の質問を聞いて、泉先生はこめかみに手を当てる。

「俺が朝練に行く前に会ったのは、飯田先生、テニス部の顧問の森先生、あとバレー部の顧問の山岡先生だな」

 奏を助けるのに協力してくれたから、泉先生はたぶんシロだよな。他はよくわからない。

「ありがとうございます、教えてくれて」

「あぁ。俺は授業に戻る。奏、水筒は返すのいつでもいいから」

 頷いて、奏は泉先生に手を振る。