チョコレートに想いを込めた春、君が消えた

「留喜、こっちこっち!」

 奏に向かってバスケットボールを投げる。

「ナイス!」

「奏やっちまえ!」

 クラスメイトの声が響く。奏がダンクシュートを決めた。

「最高! 気持ちー」

 奏とハイタッチをする。

 始業式からもう一週間だ。みんなもう元気を取り戻しつつある。俺は全然そうじゃないのに。ハイタッチだって、クラスメイトの前だからしてるだけだ。

「お前ら良い連携だな。よくやった、奏」

 泉先生がぐしゃぐしゃと奏の頭を撫でる。

「わっ、泉」

 奏の顔がりんごみたいに真っ赤だ。

「結構できるんだな」

 歯を出して笑いながら、奏と俺を見ている。

「和哉に鍛えられたので」

 パスはできるようになった。

「球技大会優勝してたしな、お前ら」
 
 呟いてから、泉は次の試合のメンバーを呼ぶ。俺と奏のいるチームは休憩だ。

「はぁ。あっつ」

 ポカリを飲みながら、奏は服の袖で汗を拭う。

「ダンクって怖くね」

「出来てないとな」

 確かにそうかも。座り込んで、試合を見る。

「留喜、自主練しねぇの?」

 ドリブルをしながら、奏は聞く。

 体育館には、ドリブルやシュートの練習をするやつがちらほらいた。もう試合が終わった奴らだ。

「いい。球技苦手だし」

「えー、もっとできると思うけどな」

 奏がボールを俺に向かって投げる。

「急になんだよ」

 慌てて掴むと、奏は歯を出して笑う。

「ほら。宝の持ち腐れ」

 立ち上がって体育館倉庫の方へ行く。ボール戻さないと。奏が後を追ってくる。
 
「料理の方が好きなんだよ」

 できなくなったけど。

 家庭科室にも行かなくなったのに、退部届は出せなかった。

「へー。弁当、留喜が作ってんだ?」

 その言葉が毒針みたいに突き刺さる。答えにくい。

「作ってた、最近は兄さんが」

「へぇ、兄貴いんだ。作るって言ってくれたのか?」

 体育倉庫の前にあったカゴにボールを入れようとして、手が止まる。

 悪意はないとわかっていても、心が痛くなる。何も聞かないでくれ、頼むから。

 ボールから手を離す。カゴの中に落ちて、ボールははずむ。

「うん。俺が、料理から離れたから」

 できなくなったとは言えない。言いたくない。

「ふーん。あんま無理すんなよ」

 見透かされた。どうして。

「……聞かないのか、理由」

「え、あぁ。そういう気分じゃなくなったんだろ」

 そうだけど。

「朝はパン派のやつが突然ご飯を食べるみたいにさ、違うことしたくなる時ってあるだろ」

 その言葉にひどく救われてしまう。心が楽になった。お前は何も可笑しくないって言われているみたいで。

「確かに、あるな」

「えぇ、なんで泣いてんだよ」

 慌てて奏は俺の涙を拭う。

「ごめっ、わかんね」

「何もかも大丈夫になるから、そのうち」

 確信なんかない。それでも心が温まっていく。俺、生きていけるのか。こんなに壊れても。