この愛は、星よりも眩しい

 屋上のドアを開け、少し息を切らしながら磯村の横へ行く。
「電話出てよ」
「…すみません」
「磯村って、俺を走らせる天才だよね」
「え?」
「ねぇ、怒ってるの?」
「いえ…」
「じゃあ、呆れてるの?」
「そんなことは…」
「うーん、思ったこと口に出すのが磯村の良いとこでしょ?嫌な時もちゃんと伝えてよ」
「…自分でもよく分かんなくて…。この気持ちが嫉妬なのか焦りなのか不安なのか…。最近ほとんど会えてなくて、毎日連絡しててもなんか遠く感じてて。目の前で佑さんが誘われたり、触れられてるの見て、卒業して離れたら会えない日も増えるし、知らないとこでああいうことが起きても気づけないのかって思ったら、なんか会うの怖くなって…。すみません、うまく言えなくて」
 お互いおんなじようなことを思って、毎日過ごしていたんだ。
「…うまく言う必要ないよ。磯村の言葉で一つ一つ伝えてくれたら俺は向き合うし、受け止めるから。俺の言葉が必要ならたくさん伝えるし」
「佑さん…」
 そっと歩み寄り磯村の手を握った。
「複雑な気持ちにさせてごめんね?」
首を横に振った磯村は、手を握られていない方の腕で俺を抱き締める。
「…あの女子の誘いは断ってほしいです…」
「うん、元々断るつもりだった」
「友達なのは分かるんですけど、同性でも過度なスキンシップは嫌…です」
「うん、ごめん。気をつける」
「オレは佑さんのことが好きで好きで…」
「うん」
「毎日家に連れて帰りたいぐらい好きで…」
「そうなんだ。…定期的に連れて帰っていーよ」
「ほんとに?約束ですよ?」
「うん」
「付き合えただけで幸せなのに、どんどん欲が出ちゃうんです。佑さんの気持ちを尊重したいのに…」
 この気持ち、愛しい以外になんて表せばいいんだろ…。
「俺も欲だらけだし、嫌な時はちゃんと断るから、尊重とか難しいこと考えないでよ…」
「はい…」
抱きしめていた腕をほどき、ゆっくり唇を重ねた。
「佑さん…あの…」
「ん?」
「今度、抱いてもいいですか?」


 屋上から移動した俺たちは、体育館のキャットウォークに立ち、盛り上がる後夜祭を見始めた。ステージでは、教員によるバンド演奏中。
 暗い中、手を繋いで寄り添った。
「あ、軽部先生ドラムしてる!」
「めちゃくちゃ上手いんだよぉ。普段とのギャップ萌えだよねー。田口先生も甘い声だしねぇ」
「普段も良い声ですけど、歌うとやばいですね!」

 次の曲は男性目線の片想いラブソングだった。
「あ、この歌好きー」
「オレも好きです。…佑さんのこと好きになって、今までどうでもよかった恋愛の歌が、すげー共感できるようになったんですよ」
「…こんな夜はアナタに会いたくなります、あの月が消えてしまう前に会えたらいいのに…この歌詞さ、両想いでも当てはまるよねぇ。むしろ、両想いのほうが余計会いたくなるし、会えないことが苦しくなるんだって知った…」
「…これ、アンサーソングあるの知ってます?」
「そうなの?」
「それも良い曲なんで、今度カラオケで佑さんのために歌いますね」
「楽しみにしとくねー」

 高校最後の文化祭、磯村と初めての文化祭。特別なことはできなかったけど、忘れられない思い出になったと思う。
 磯村を見ると、視線に気付き目が合う。優しく微笑んだ磯村は、おでこあたりにキスをしてきた。
…あー幸せ過ぎ。



 次の週になれば文化祭の熱気は消えていた。
「一大イベントの文化祭終わったら、俺たちに残されているのは受験のみ…」
「ほんとは夏休みから受験モード入んなきゃだけど、文化祭までみんな現実逃避するよねー」
来月からバイトのシフト減らしてもらわないとー。


 昼休み、磯村が迎えに来た。
「今日どこで食べます?」
「寒くていいなら校舎裏にする?」
「いいですね!」

 「受験勉強の邪魔だけはしたくないんで、会えない時は遠慮なく言ってくださいね!我慢するんで!」
校舎裏で昼ごはんを食べる中、磯村が言ってくる。
「ありがとー。ゆっくりデートする日は減っちゃうかもしんないけど、会う時間がないと勉強どころじゃなくなると思うから、会える時は会ってよぉ」
「佑さん…!勉強が捗るようにたくさん会いに行きます!なんならオレのハグを受けながら勉強とか出来ちゃいますよ!?」
「あははー。それ逆効果かもー」
「…あの、来週の金曜日…家に連れて帰ってもいいですか…?」
「うん、いーよ」


 磯村と別れ、教室に戻る途中、廊下で室岡と会った。
「お疲れ」
「お疲れー」
「どした、なんか良いことあった?」
「え、なんで?」
「なんか珍しく顔に嬉しそうなのが出てる」
「えーそんなこと分かんのー?こわーい」
「こわいってなんだよ!曽根って、あんま感情が顔に出ないタイプだけど、さすがに今のは分かる。一緒に活動してた人間舐めんなよ」
「さすがだねー。ちょっと?いや、かなり嬉しいことあったから」
「そうなんだ、なんか知らんけど良かったじゃん」



 「おはよぉー」
教室に入ると木下が話しかけてきた。
「曽根!お前、ユーベルの子にデート誘われただろ!昨日、その子の友達から連絡あって、返事の催促あったぞ?」
「え?」
あー…そういえば、そんなことあったような…。
「どうすんだよ!?」
「代わりに断っててー」
「はぁ!?」
「だって愛しの彼氏いるしー。女子とは関わんないのー」
「…もう、仕方ねーなぁ」
「さすが!ありがとん!」



 次の週の金曜日。放課後、濱家と教室を出た。
「曽根っちすぐ帰る?」
「ううん。磯村待つから図書館いくー」
「そっか。じゃ、また来週な」
「うん、またねー」

 図書館で磯村を待ちながら勉強をしているが、集中できず、そわそわしてしまう。正直、元カノ初めて抱いた日もこんなに緊張したり、そわそわしたりしなかった。…連れて帰るだけで、何もない可能性もあるし…


 2人で歩きながら帰ることに。
「自転車で来ればよかったのにー」
「自転車押さないほうが、手繋いで歩きやすいじゃないですか。それに佑さん、絶対自転車の後ろ乗ってくれないし」
「あー…自転車はねぇ、事故以来乗ってないんだよぉ。自分で漕ぐのも、人の後ろに乗るのも…なんかトラウマっていうか」
「…すみません、気付かなくて…」
「ううん。…でも、磯村の後ろならいつか乗れる気がする。磯村になら俺の命預けられるもーん」
 ぎゅっ、繋いでいた手を強く握った磯村。
「…絶対に守りますよ、命も心も」
「…ありがとぉ」


 磯村の家に着いた。
「お邪魔しまーす」
2階に行きながら聞いてみた。
「今日、親御さんは?仕事遅い日?」
「今日は帰って来ませんよ」
「え…」

 「今日うちの親、結婚記念日なんです。だから2人で旅行行ってて、帰ってくるの明日の夕方とかなんで」
「へー、仲良いんだね」
「そうですね。ずっとラブラブなとこは憧れですね」
「そっか」
「なので…」
部屋で鞄を置き、後ろから抱きしめられる。
「誰にも邪魔されず一緒に過ごせます」
耳元で囁かれ、顔が赤くなる。
「今日泊まっていきますよね?」
「あ、でも俺、着替えとか何も…」
「そんなの貸しますよ。下着とかは後でコンビニに買いに行きましょう」
「…うん、泊まるー…」

 リビングの4人掛けダイニングテーブルに向き合って座り、コンビニで買ったご飯を食べた。
「この肉丼、初めて食べたけどうまーい」
「一口ください、あーん」
もぐ
「ほんとだ、うまい!…一緒に暮らしたらこんな感じなんですかね。毎日一緒にご飯食ったり、色んな話したり、テレビ観ながら2人でダラダラしたり…うわー想像しただけで幸せ過ぎますね!」
「暮らしたら、一緒にいすぎて飽きるとか思わないのぉ?」
「もぉ!飽きるわけないじゃないですか!え…佑さんは飽きちゃうんですか?」
「…飽きないよ」
「良かった!…あ、この後一緒に風呂入りますよね?」
「え!?」
「一緒に入るチャンスなんて、なかなかないんですよ!?」
 そうだけど…。これもまた磯村の丁寧な段階!?
じーっと返事を待っている磯村と目が合う。
「…わかった」
満足そうな笑みを浮かべた磯村。


 湯船に浸かり向き合う俺たち。
「さすがに男2人だと狭いねー」
「ですね。まぁ、密着できるから構いませんけどね」
そう言って抱きついてくる。
ーこの可愛いさ、飽きるわけないよ。

 磯村に後ろからハグされながら話している。
「来週、夜の活動日なんですけど、絶対寒いですよね」
「うん、ちゃんと防寒しなきゃだめだよー。寒い時期はみんなでホットココアとか飲みながらしてたから、新部長たちが用意してくれると思うよ」
「そうなんですね!」
「これからどんどん星が綺麗に見える時期になるから感動すると思う」
「一緒に屋上で見ることはできませんけど、2人でも冬の夜空たくさん見ましょうね!」
「うん」

 お風呂から上がり部屋に入ると、磯村から借りたスウェットを着ている俺をじっと見る磯村。
「彼シャツならぬ彼スウェット…。佑さんがオレの服着てる…やばい、興奮する」
「…変態じゃん」
「その変態に今から抱かれるんですよ…」
 そう言った磯村は部屋の電気を消して、キスをしながらベットの方へゆっくり進む。

 どすっ、ベットに押し倒される。覆い被さる磯村の後ろで、カーテンの隙間から月明かりが見える。いつもより大人な表情を見せる磯村に照れてしまう。
…思ったよりやばい…。

 ベットの上にお互い裸の状態で、俺の頬や首筋、手の甲などにキスする磯村は、脚の傷跡に優しくキスをした。
…あ。

 初めて磯村に傷跡を見せた日のことを思い出した。
 あの日、傷跡を見せるかどうか最後まで悩んだ。見せずに話すことだってできた。それでも見せたのは、知ってほしかったから。戻れない過去も、消したい傷跡も、全部伝えた上で磯村の気持ちを知りたかったから…。

 磯村は俺を強く抱きしめた。
「佑さん好きです…。初めて知った日からずっとずっと…。もう絶対離しません」
 離れるわけないのに。…きっと俺がこんなに好きなの、まだ伝わってないんだろうな。
 顔を横に向け、抱きしめたままの磯村の髪にキスをした。そのまま見つめ合い、目を閉じてキスをする。

…あぁ、今日も可惜夜だ。



 次の日の朝。ベットの上でゆっくりと目を開けると、磯村に後ろからハグされるかたちで寝ていた。
…あったかいと思ったら…。

 ごそっ、ゆっくりと磯村の方へ身体を向け、寝顔をじっと見た。
 寝顔見るの合宿以来だな。ふふ、かわいい。
「…んー」
磯村は眠そうに目を開けた。
「おはよぉ」
目の前に俺がいることに気付くと「夢じゃない」と呟き、抱きしめる。
「おはようございます。こんな幸せな朝、初めてかも」
ぎゅー
「くるしー」
「佑さん…」
「ん、なぁに?」
「2学年の差は埋められないから、待ってもらうことになっちゃいますけど…オレが高校卒業したら一緒に暮らしたいです」
「え…」
「そのために佑さんにオレの本気を伝えます!好きでい続けてもらえるようにガンガン愛を捧げます!」
「朝から熱い告白するねぇ。…そんなことしなくても、待っとくから大丈夫、ちゅ」
唇に軽くキスをした。
「お腹空いた。朝ごはん食べよーよ」
「はい!」


 君といると毎日可惜夜だ。どうかこの恋が明けませんように…。