この愛は、星よりも眩しい

 8月の合宿当日。夕方の部室から外を見た。
「良い天気で良かったなー!」
「だねー。てるてる坊主たちありがとー」

 室岡がテーブルの上にガスコンロを置き、焼き肉プレートをセットした。
「焼き肉ですか!?」
「そだよー。観測前に部室で焼き肉パーティーして、そのあと屋上で観測するのが恒例なんだよー」
「はい、窓開けてー換気換気ー」

 みんなで焼き肉を楽しむ。
「うまー」
「いつもより長時間の観察になるから、しっかり食っとけよー!」
「はーい」
 磯村の席はもちろん俺の隣。もう片方の隣は濱家。
「磯村、ピーマン残してんじゃん。ちゃんと好き嫌いせず食べろよ」
「だって苦いんですもん」
「曽根っちにあーんしてもらえば食べられるんじゃねーの?」
「え?」
「たしかに…」
…納得するなって。
「お願いします!」
俺の方へ体を向け、口を開けた磯村。
「えぇー…」
渋々食べさせた。
…ぱくっ、もぐもぐ。
「おぉー!食べれた!!」
「愛の力は偉大だな」
「…。」


 夜になり、屋上で空を見上げる部員たち。
「おー!今日めっちゃ綺麗じゃん!」
「流星群見たいなぁー」
「流れ星っすか!?見たらお願い事言おーっと」
「2回言うのさえ難しそうなのに、3回って至難の業だよな。磯村は何願うの?」
「オレは…そう言われるとパッと出てこないですね」
「そんなもんだよな」

 夜空を見ていると横に磯村が来る。肩が触れる距離だ。
「今日の夜空いつも以上に綺麗だよねー」
「そうですね」
「こういう夜のことなんて言うか知ってるー?」
「いや、分かんないです」
「可惜夜(あたらよ)って言うんだよぉ。明けるのが惜しいぐらい美しい夜のこと。…星も綺麗だし、みんなと過ごす夜も最後だし、ほんとずっと続けばいいのにね…」
「…。」

 望遠鏡へ移動しようと歩き出した時、磯村が声を出した。
「もし…」
立ち止まり、磯村を見る。
「もし、流れ星を見れたら先輩は…何をお願いするんですか?」
「んー…傷のない脚かな」
「…。」

 立ちすくむ磯村のところへ室岡が来る。
「どした?」
「いやー、人の心って難しいですね。やっと心の扉ちょっと開けれたと思ったら、全然開いてなかったというか…」
 曽根のことだと察し、離れたところにいる曽根を見た室岡。
「無理に開けなくていいんじゃね?本当に相手のことが大切ならゆっくり待っとけばいいよ。そのうち勝手に開けてくれるだろ」
「だといいんですけど」

 望遠鏡を見終わり、夜空を見ながら濱家と話していた。
「今日の夜空、なんかすごく星が近く感じない?」
「たしかになー」
「手で掴めそうだよね」
「あはは。…正直さ、俺も曽根っちも辞めると思ってた」
「?」
「うちの学校って必ず部か同好会に入んないとダメじゃん?俺も曽根っちも理由は違えど本当にやりたいこと諦めて、消去法で仕方なく天文部に入ったわけで。だからまさかこんなにハマると思ってなかった。俺、暇な夜ずっと星見てっから」
「あはっ、大好きじゃん」
「嫌なことあった時とか悩んだ時とかさ、夜空見てるとすげーちっぽけに思えてくんだよなぁ」
「それ分かるー。…あの日、濱家が誘ってくれて本当によかった。ありがとね」
「お礼を言うのはこっちだよ。一緒に楽しんでくれてありがとな」


 「…。」
ーやられた…。
「部長に感謝ですね!!」
俺たちの進展を知らないはずの濱家に、まんまと同室にされた。夜中に侵入されるよりましって考えたんだろうな。

 シャワー浴び終え部屋に戻ったら、先に戻っていた磯村がスマホを見ていた。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「寝てると思った」
「先輩より先に寝るなんて色んな意味でありえませんよ」
色んな意味…。

 消灯時間になり、ベットに寝転んだ。
「電気消しますね」
「ありがとー」
…ごそっ、磯村が布団に入ってこようとする。
「え、何してんの」
「一緒に寝ようかと」
「1人で寝なよー」
「なんでそんな寂しいこと言うんですかぁ!」
「寂しいもなにも同室なんだからいいじゃん。それにシングルに男2人とか狭いし暑いし」
「オレは構いません!」
強引に布団に入ってくる。
「…。」
 仰向けの俺に対し、磯村は横向きで寝転んだ。
「あ、そろそろ誕生日だよね…なんか欲しいものある?」
「え、覚えててくれたんですか!?
「定期的に教えられたら嫌でも覚えるよ」
「何にもいりませんよ。当日会えたら十分です!」
「えー」
「あ、一つありました」
「ん?」
少し顔を磯村に向けた。
「…残りの1%ください」
 俺ってひねくれてるのかな。たった1%で次に進めるのに…。
「…考えとく」
「はーい。…先輩、こっち向いてください」
体を横に向け、見つめ合う形になり照れてしまう。

ーちゅ…

 一度キスをされる。
「足りません…」
そして、抵抗することなく長めにキスをされる。

 もうこれ付き合ってるじゃん。…俺らの関係って何だろ…。



 翌朝、3年の4人で歯磨きをしながら昨晩のことを話すと、濱家がさらっと言ってくる。
「そりゃあセフレだろ」
「そんなふしだらな関係じゃありませーん。そもそもしてないしー」
「付き合ってないのにキスまでしてる時点でふしだらだけど」
「…。」
「曽根が“好き、付き合おう”って言えば解決する話なんじゃないの?」
室岡が正論を言い、平松も同調する。
「それな。弄ばれてる磯村かわいそー」
「しかも曽根っちは今度、俺たちクラスのやつとユーベルとの合コン行くから」
「「さいてー」」
 …やばー、合コンのことすっかり忘れてた…。今から断る…のは無理か、あいつ絶対怒る。まぁ、別に浮気になるわけでもないし、人数合わせで行くだけだし…。


 引き継ぎについて部室で話し合いを始めた。
「前も伝えたけど、この合宿活動で俺ら3年は引退するから。2学期からは2年生が部を盛り上げていってな」
「ひと通り引き継ぎはするけど、分かんないことあったら遠慮なく聞いて。部のグループメッセージは退出するから個人的に連絡してくるか、教室に来てくれれば対応するから」

 引き継ぎが終わり、昨夜の観測のまとめ作業をしている。俺の隣で作業する磯村はテンションが低い。
「引退って…ほんとにもう来ないんですか!?」
「来ないよー」
「オレのこと心配じゃないんですか!?」
「いや、心配じゃないよ。そんな問題部員でもないじゃーん。あ、放課後に部室覗いても俺はいないからね?」
「またそんな意地悪言うー」
「あはは」
 軽部先生がドアを開けた。
「みんなー!アイス買ってきたよー!」
「うぉーありがとうございまーす!」
「溶ける前に食べようぜ!」

 他の1年と楽しそうにアイスを食べる磯村を見た。
 学校内で共通の居場所が無くなる…。ロスになるの俺だったりして。



 数日後、カラオケボックスには、私服姿の男子5人と女子5人がそれぞれ横並びに座っている。男子の真ん中には誘ってきた木下、俺は1番端にいる。
 10人で個室がいいからってカラオケはどうなの。初対面の人の前で歌うとか無理ー。やっぱ、さっさと帰ろ。 

 「じゃあ、早速自己紹介始めていこー!俺は…」
最後に俺の番がきた。
「曽根でーす。よろしくー」

 飲み食べしながら話していると、木下は女子たちに話しかける。
「みんなめちゃくちゃ可愛いのに、ほんとに彼氏いないの?」
…チャラいな相変わらず。
「ほんとにいないんだよー。なんかユーベルの女子は恋愛興味なしって思われてることも多くて。文化祭の時も声は掛けられるけど、連絡先まで聞かれることないしね」
「へぇー。女子も大変なんだ」
「うん。…そろそろ歌おうよ。せっかくだしペアで」
「お!いいね!」
…えー、だるー。

 あみだくじでペアを組み、それぞれのペアで席に座り直した。
 トップバッターの木下が女子と歌い、盛り上がっている。大音量の中、隣の女子が顔を近づけ話しかけてくる。
「曽根くんって、下の名前なんていうのー?」
「佑だよぉ」
「えー、すごいかっこいい名前だね!」
「ほんとにー?ありがとぉ」
「曽根くんイケメンだし、モテそうだよね」
「そんなことないよー」
「ほんとー?あ、そろそろ順番くるけど、何歌う?」
「みんなの知ってる定番がいいんじゃない?」

 前のペアが歌っている時、トイレから帰ってきた木下が濱家と俺に話しかける。
「天文部の後輩、ここでバイトしてんだ」
「カラオケでバイトしてるやついたっけ」
「さぁ」
「夏休みの間だけ短期でしてるらしい。前に教室に来てたヤツだよ。えっとぉ…磯村!うん、磯村って言ってたわ」
…磯村!?なんか短期バイトするとか言ってたけど、仕事まで聞いてなかった。
「ユーベルと合コンしてて、濱家と曽根もいるって言ったら驚いてたわ」
「え、お前言ったの!?」
濱家は声のボリュームを上げた。
「うん?あれ、ダメだった?」
「別にダメじゃ…」
チラッと俺の顔を見る濱家。
「…。」
 バレてもいいと思って来たはずなのに、なんでこんな焦ってるんだろ。
「ちょっとトイレ」

 立ち上がり部屋を出て、近くにいたスタッフに声をかけた。
「あの、磯村ってスタッフがいると思うんですけど、まだいます?」
「…お知り合いの方ですか?」
「同じ学校で」
「そうなんですね。磯村くんは勤務時間が終わって、さっき帰りましたよ」
「そうですか…。分かりました、ありがとうございます」
タイミング悪すぎ…。
「ほんとに弄んでるみたいじゃん…」
ボソッと呟いた。

 部屋に戻った俺は荷物を持ち、
「ごめん。俺、用事思い出したから帰る」
と木下たちに伝え、足早に出て行く。
「え!?ちょっ、おいっ」

 外に出て、磯村の帰るであろう方向へ向かい走り始めた。
 たった1%を自分で残しておきながら…勝手すぎる。バスケ以外に失って困るものなんてないと思ってたのに。

 立ち止まり、膝に手を当てる。
「はぁ…はぁ…暑すぎ」
顎あたりの汗を手の甲でぬぐう。
 久々に全速力で走って脚が痛い。…というか、見つけたところでどうする…。何を伝えれば…。

 再び走り出すと
…あ!
磯村の後ろ姿を見つけた。
「いそむらー!」
叫んだ声に振り向いた磯村。
「え!?なんでここに…」
「はぁ…はぁ、磯村歩くの速すぎ」
「え、走ってきたんですか?」
「そうだよ」
「まだ合コン途中なんじゃ…」
「元々途中で抜けるつもりだったし、それに人数合わせで参加しただけで…」
 あれ、なんかすごい言い訳してるみたいじゃん。こんなこと言うよりも先に…
「やっぱ先輩も女子の方がいいですよね。可愛いし、柔らかいし、抱かれるよりも抱く方がいいだろうし。キスだって…っ」
 話を遮り背伸びをして、シャツの胸あたりを引っ張りキスをした。磯村は驚いている。
「…磯村だってかわいいよ。柔らかさとかどうでもいいし。抱くとか抱かれるとかなんでもいい。…俺の残りの1%、もらわなくてもいいの?」
「え…」
 暑さと緊張で体温が上昇する。頭クラクラしそうだし…。
「…欲しいです。先輩の100%…全部欲しいです」
「…その代わり磯村も全部ちょうだい」
「もちろんです」
目を閉じてゆっくりキスをした。