この愛は、星よりも眩しい

 期末テストが終わったら、磯村とデートをすることになっている。
 顎あたりにシャーペンを当て考える。
 デート…磯村とデート…。あいつ今ごろ勉強どころじゃないんじゃ…。



 デート当日。私服姿の俺と磯村は、バッティングセンターに来た。
 初デート?がバッティングセンターなのが男同士って感じだなぁ。
「もっとカップルっぽいところに連れて行かれると思ってたぁ」
「球技大会の日、先輩の打つ瞬間見逃しちゃったんで、見ときたいなと思いまして。それにカップルっぽいとこは、カップルになってから行く方がいいかなって」
 カップルになってから…。磯村って段階踏むの好きだよねー。

 バッターボックスに立つ俺の様子をスマホで撮影している磯村。
…やりづらー。
 ボールが出てきて、バットを振ると見事にヒット。
「おぉーー!かっこいーーっ!」
オーバーなくらい褒めてくる。
「…。」

 「磯村も打ちなよー」
「いやぁ、オレ打つのだけはどうしても苦手で…」
珍しく弱気な磯村。
「いいからこっち来て」
 バッターボックスに立った磯村に「構えてみて」と指示する。磯村の後ろにいき、密着する距離で腕の位置や角度を調整した。
「もっとこうして」
「…はい」
 ボックスを出て、外から見守る。1球目は空振り、2球目は少しかすった。
「ボールよく見てー」
 3球目…カキーン!ホームランに届きそうなほど飛んでいったボール。
「わぁー!!やったーー!」
嬉しそうに俺を見てくる磯村は、無邪気で可愛い。
「やれば出来るじゃん」


 バッティングセンターから街中へ移動した。
「たしかこの辺りに…あ!あそこです」
磯村の指差す先にはかき氷屋があり、数組並んでいる。

 並びながら事前に渡されたメニュー表を見た。
「どれもうまそうですね!」
「だねー」

 店内に入り注文を終え、向かい合う形で席についた。
「ゴールデンウィークに会った時も思いましたけど、先輩って私服お洒落ですよね」
「そうかなぁ。磯村は背が高いから何でも似合いそうだよねぇ」
「ほんとですか?兄貴のお下がり着る事も多いんで、よく分かんなくて」
「あ、お兄さんいるんだ」
「はい、3つ上の兄がいます」
「へぇ」
 毎日連絡してても家族の話になったことなかったな。
「お待たせしましたー」
かき氷がそれぞれの前に置かれた。
「うまそー!いただきまーす!」
「いただきまぁす」
パクッ
「やば!うますぎる!」
…おいしー。
 チラッと磯村のかき氷を見た。
 あっちの味も気になるけど、一口もらうのはありかなぁ、どうかなぁ。
「良かったら一口味見します?」
「いいのぉ?」
「もちろん。あ、オレも一口もらってもいいですか?」
「うん」
 かき氷を磯村のほうへ押そうとすると「あーんしてください」と言われた。
「え?」
「俺もするんで」
「は?」
 かき氷をスプーンに乗せ、口の方へ差し出してくる。
ーええええええ。
「早くしないと溶けちゃいますよ」
急かされ、思わずかき氷をすくい磯村の口に差し出した。
 パクッ…お互い食べさせ合い、満足そうな磯村の前で俺は顔を赤くする。そんな俺に気づいてなのか、
「…間接キスですね」
と少し意地悪な顔で言ってくる。
 あ…やられたぁー。手繋いで、一方的にハグして、間接キスして…こいつの段階にまんまと登らされている。次の段階にいってもいいのかを丁寧に確認してくるこの感じ…。


 夕方になり、俺が乗るバス停まで見送ってくれている。
「ほんとに家まで送らなくて大丈夫ですか?」
「女子じゃないんだから。…というか、夜ご飯も一緒に食べて帰ればいいのに」
「いえ。初日は暗くなる前に帰らせるのがルールです!」
…ルール?
「それにこれ以上一緒だと供給過多になって死んでしまいそうなので」
「ふっ、なにそれ」

 バスが到着し、入り口に進みながら磯村に言ってみた。
「こんなんで過多になってたら、一晩越せないじゃん…」
「え…」
「楽しかったよ、またねぇ」
発車したバスを見送る磯村は、驚いたままだ。

 1番後ろの窓側の席から外を眺めた。
 合宿の意味で言ったんだけど、多分勘違いしてんだろうなー。
「…かわいいな」



 1学期最後の活動日。今日は部員勢揃いだ。
「うちは夏休みの活動は合宿のみだから、みんなイベントに勉強に恋に悠々自適に過ごしてください」
濱家が伝え、室岡が全員にプリントを配る。
「今配ったのが、合宿の詳細です。事前に親御さんの許可取ってくれてると思うけど、再度確認してみて無理そうなら俺か軽部先生に連絡して」
 プリントに目を通す部員たち。
「合宿のことでなんか質問ある人ー」
「はい!」
濱家の言葉に磯村が勢いよく手を上げた。
「どーぞ」
「どこで寝るんですか!?」
…1発目の質問それって。
安定の磯村に呆れてしまう。
「学生寮の空き部屋を借りるから」
「相部屋ですよね!?」
「もちろん。2、3人ずつかな」
「部屋割りは部長が決めるんですか!?」
「…。」
濱家は、ほらなと言う顔で見てくる。
ー俺を見られても…。
「学年ごとに割り振りする予定です」
「学年ごと…」
磯村は、あからさまにショックを受けている。
「他に質問ある人ー。…いないな。よし、じゃあ今日は、合宿まで集まることないから、みんなで当日晴れるようにてるてる坊主作るぞー!」

 てるてる坊主をみんなで作る中、俺の横にいる磯村は、部屋のことで落ち込んだままだ。
「せっかくのお泊まりなのに」
…なんかブツブツ言ってる。
「そんな落ち込まないのー。よし、出来たぁ」
「先輩のてるてる坊主可愛いですね。女の子みたい」
「そーかなー。磯村のはなんか男らしいね」
「同室だったら…」
 磯村が自分の作ったてるてる坊主を俺のてるてる坊主に近づけ、キスをさせた。
「…できたのになぁ…」
顔を見ながら言われ、頬が染まる。
…もぉ…こいつの頭の中は、俺のことしかないの?

 「合宿8月かぁ…。そうだ、先輩。夏休み入ったら海行きましょうよ!」
「海?んー…」
…焼けそうだなぁ。
「今、日焼けするの嫌って思ったでしょ?」
ぎくっ…
「じゃあ夕方から行って、夜に海辺で花火とかどうですか!?」
「あーそれはありかもぉ」
「よし!決まりですね!」
顔あたりで、てるてる坊主振りながら笑顔を見せた磯村。

 1、2年が帰った後、部室に残った3年の俺たち。
「引退?卒業?いつにするー?夏の合宿にするか、秋の天文台の時にするか」
「そうだなぁ、受験に向けて準備とかあるし、この夏がキリがいいかもな」
「だよなー」
「次の部長、副部長決めないと」
「誰がなっても大丈夫そうなメンバーだよね、2年生は。あ、でも運動部と兼部は外したほうがいいね」
「軽部先生にも相談しとくわ。…あー、部活引退すると居場所無くなるし、一気に寂しくなるよなぁ」
「だねー」
「俺らも寂しいけど、磯村のほうがやばいんじゃない?」
「曽根ロスだな」
「別にあと半年学校にはいるんだから会えるじゃん」
「それは曽根っちが想われてる側だからそんな余裕なんだよ。追ってる身からしたら、あと半年しかない上に会う機会が減るなんて焦るぞ?」
「…。」
「曽根はどうすんの?付き合うの?諦めさせるの?」
「え…それは…」


 最寄りのバス停から家に帰る途中。
…俺って、知らず知らずのうちに磯村を焦らせていたの?告白されて、アピールされて、再度愛の告白されて…磯村の焦りに気付いていなかった。だからって自分の気持ちに答えを出せているわけでもなくて…。



 体育館では終業式が行われている。
「高校生の夏は一瞬です。後悔のないようエンジョイしてください!」
校長先生は話が短いから好き。多分男子校出身だろうな。

式終了後、教室でクラスメイトの木下が俺と濱家に話しかける。
「なーなー、夏休み中にさ、ユーベルの女子たちと合コンみたいなのすんだけど、2人もどう!?」
 ユーベルは同じ市内にある女子校。異性の出会いを求める男子校と女子校、定期的に出会いの場が設けられている。
「俺はどっちでもいいかなぁ。人数足りなかったら行く感じで」
「おっけー!曽根は!?」
「んー」
「曽根っちはもう事足りてるから」
「は!?え、曽根彼女いたの!?いやいやいや、裏切りー」
「…彼女いないからー、勝手に裏切り者にしないでー」
「なら曽根は絶対参加な!!」
「えー面倒なんだけどー」
「文句禁止!また日程伝えるから」
…絶対途中で帰ろっと…。



 数日後。夕方の海で海岸に繋がる階段に座っている俺の髪は、サラサラと風になびいている。
 穴場なだけあって、そんなに人いないなぁ。
「すみません、お待たせしました」
リュックを背負った磯村が小走りでやってきた。
「全然。俺もさっき来たとこー。ていうかさ、海に現地集合って斬新すぎない?」
「そうですか?なんか海で待ち合わせって、特別な感じがしてよくないですか?」
「磯村ってロマンチックだよねー」

 荷物を置き、ハーフパンツ姿の磯村は海に進んでいく。
「うわーぬるー。でも気持ちいいー。先輩も…あ」
長ズボン姿の俺を見て、傷跡のことを思い出したようだ。
…あ、気遣ってるな。

 「大丈夫ですか?」
「何が?」
裾を捲る俺に問いかけてくる。
「傷に染みたり、人から見られるの嫌なのかなって思ってたんで」
「塩水でも染みないから大丈夫。あと、人に見られたくないっていうより、人がこれを見て心配したり驚いたりするのが申し訳ないというか」

 ゆっくり海に足を入れた。
「おー、温水プールみたーい」
「水着持ってくればよかったですね」
「全身ベタベタするの嫌ー。水着ならプールがいー」
「言ってること女子ですよ。でも、プールいいですね!タイミングあえば行きましょう」

 暗くなり、磯村はリュックの中から手持ち花火を取り出した。
「花火久々だなー」
「そうなんですか?俺は毎年手持ち花火もするし、花火大会も行きます」

 月明かりの下、花火を楽しんだ。
「おぉー!これ、色が変化するー!」
「きれー。最近の花火って煙少ないんだねぇ」
「写真映えのためですよ」
「あーなるほどー」
「もしかして今、絶好の映えツーショットチャンスなんじゃ!!」
 磯村はポケットからスマホを取り出し、真横に来てカメラを向けた。
「まだ火ついてるから近づくと危ないよ」
「先輩のためなら火傷ウェルカムです。はい、カメラ見てください!」

 撮った写真を確認する磯村。
「うわーめちゃ良い写真。後で送りますね。うん、待ち受けにしよう」
「いやいや、誰かに見られたらどうするの」
「? 何にも困らないですけど」
俺への好きが真っ直ぐすぎて…ちょっとは困ってよ。

 最後の線香花火を手に持った磯村が提案する。
「対決しましょうよ。先に落ちたほうの負けです」
「いーよー」
「オレが勝ったら…キスしていいですか?」
「え…」
 気抜いてた。何かあるとすれば合宿中かと思ってたから…。
「…俺が勝ったら?」
「ジュース奢ります」

 2人無言で線香花火の先端を見る。花火はパチパチと少しずつ激しくなっていく。
 たしか、この玉にも段階があったような。蕾、牡丹、松葉、散り菊…だったかな。…段階踏むとか何%とか、どうなったら恋愛だっけ?好きってこんな分かりにくいっけ?……違う、俺がそうしているだけか…。

 火花がおさまり、先端の玉が落ちそうになる。
「…先輩…」
磯村が唇にキスをしてきた。
 …あれ、今どっちが先に…
2人とも手元の花火は落ちて消えている。

 ゆっくり唇が離れた。磯村は俺をじっと見つめ「…今、オレへの好き何%ですか?」と囁いた。
 キスした後に聞いてくるとかズルすぎ…。いや、ズルいのは俺か。拒否しないくせにハッキリ答えもせずに…。でもまだ答えがわからない…。

「…99%」