週明けの月曜日。昼休みにベランダに出て、濱家と話していた。
濱家は校舎横のグラウンドを見ている。俺はベランダの壁に寄りかかり、教室内に体を向けていた。
「週間天気予報、金曜晴れっぽかったな」
「だねー。よかったよかった。まだ夜は冷えるから、風邪引かないように気をつけないと」
「せんぱーい!!」
グラウンドから声がして振り向くと、笑顔で大きく両手を振る体操服姿の磯村がいた。
「…。」
仕方なく小さく手を振り返す。
「なんか飼い主を見つけて喜ぶ大型犬みたいだな」
濱家にそう言われ、磯村の犬の姿を想像して納得してしまう。
クラスメイトと楽しそうに話している磯村をぼんやり見た。
相変わらず毎日連絡が来る。連絡というより、磯村の日記みたいになってるけど。
「磯村は5時間目体育か。…曽根っち、何に立候補すんの?」
俺たちの次の授業は、来月にある球技大会の種目決め。
「んー、サッカーか野球かなぁ。出番少なそうだし。濱家は?」
「バレーかバスケだな」
「そっか」
金曜日の放課後。天文部部室では、歓迎会が行われていた。部員全員が参加し、テーブルの上には大量のお菓子と飲み物。
「3人とも入部してくれてありがとー!改めて天文部にようこそ!!かんぱーい」
「かんぱーい」
俺の隣には磯村が座っている。肩と肩が触れる距離だ。
…当たり前のように隣に座ってるし。
「楽しみだなぁ。今夜は何が見えるんですか?」
無邪気に聞いてから磯村。
「しし座かなぁ」
「え!俺、しし座です!!」
「夏生まれなんだ。なんかぽいねー」
「てっきり夏に見える星座かと思ってました」
「12星座と空の星座は、イコールじゃないからねぇ」
「へぇ。…先輩は誕生日いつですか?」
「俺は…」
「はい、そこ!歓迎会なんだから2人でいちゃつかない!イチャイチャすんのは、夜の自由タイムにしてくださーい」
濱家が会話に割り込んでくる。
「夜の自由タイム…。分かりました!」
磯村は何故か目を輝かせる。
…何が分かったんだよ…。
夜になり、みんなで屋上へ移動した。大型望遠鏡の近くで話す濱家の隣には、顧問の軽部先生もいる。
「今日はもう組み立てとか調整をしてるけど、来週以降は1年生にも、望遠鏡の組み立てや使い方、観察の仕方とか伝えるから。今日はとりあえず、星を見て楽しむのに専念して」
部員が順番に望遠鏡を覗き込む。軽部先生は活動の様子をカメラで撮影している。
「うわー!すげーー!」
感動する1年生の様子に微笑みながら、空を見上げた。
今日は肉眼でも綺麗に見えるなー。新月ありがとー。
望遠鏡を見てきた磯村が横に来た。
「しし座見れました!!めちゃくちゃ凄かったです!感動です!」
「ふふ。魅力が伝わってよかった」
空を見上げた磯村は呟いた。
「今日は、ほぼ月ないのか…」
「そのおかげで星が綺麗に見えるんだよー」
「じゃあ、満月の日は見えづらいんですか?」
「新月の時よりはね」
「そうなんですね。…なんか、夜景デートしてるみたいですね!」
この状況でその発想になるって…。
「俺も望遠鏡してこよーっと」
「じゃあ、今から片付けまでの10分間、自由タイムでーす!星見るなり、雑談するなり、好きに過ごしてー!あ、移動範囲は屋上と4階のみな」
「はーい」
ートイレ行こっと。
トイレから屋上へ戻ろうとすると前から磯村が現れた。
「探しました。せっかくの夜の自由タイムなのに…」
「そのワード気に入ってるだけじゃん」
進もうとする俺の腕を掴むんできた磯村。
…!!
「ちょっと来てください」
誰もいない部室に2人で入った。
「残り時間は、ここから星見ましょう!」
磯村は窓を開け、椅子を並べた。
仕方なく座ると迷わず横に座ってくる。そして、何も言わずに手を繋がれ、思わずドキッとした。
ー恋人繋ぎ…。
星空を見ながら磯村に聞く。
「…手繋ぐの好きなの?」
「好きというか…男として好きな相手に対しては、ちゃんと段階を踏まないとと思って。まずは手、次はハグ、それからキスして、大人の階段登りたいなと」
大人の階段…童貞なのか。
「あの…告白した日が0%だとして、今って俺への好き何%ですか?」
…何%になれば次の段階にいくんだろう。絡んだ指が熱くなるのは気のせいなのか…。
「…5%かな」
日曜日、自宅の部屋でベットに寝転び、スマホの磯村とのトーク画面を見ていた。
連絡取るのが日常になってきてる…。俺が返さない日があるとはいえ、毎日連絡来てもそんなに苦じゃないなー。
「…5%…」
磯村の俺への好きって、何%なんだろう。100?それ以上?…って何考えてんの俺。
ゴールデンウィーク中の今日は、大型ショッピングモールのゲームセンターで、地元の友達5人と遊んでいる。
楽しそうにエアホッケーをしている友達を見ていた。
「高3になっても男だらけでゴールデンウィーク過ごすと思ってなかったわ」
「別にいいじゃーん。来年は集まれないかもしれないし」
「まぁなー。でもさ、彼女じゃなくても、せめて男女グループで遊ぶとかしたかった!」
「あははー。俺んとこは男子校だから皆無だけど、そっちは共学なんだから可能性あるんじゃない?」
「そうだと思ってたのに全然だった。あー、俺もあんな風に…」
嘆いている友達の視線の先を見て驚いた。
…!!
そこにいたのは磯村だった。周りに男女数人がいる。
…私服姿初めて見た。つうか、気付かれたら面倒そうだな。
バレないように下を向いたが、磯村たちが近づいてくる気配がした。
「…先輩?」
ーあぁー…。
気づかれてしまい、仕方なく磯村を見る。
「…あ、磯村じゃん、やっほー」
「びっくりしたぁ!偶然…いや運命ですね!」
「…。」
「なに、知り合い?」
「うん、学校の後輩」
友達に会釈する磯村。
「ねぇ、そろそろ行こ?」
磯村と一緒にいた女子が、磯村のすぐ横に来て服を軽く引っ張った。
…距離近くない?
「じゃ、また学校でねー」
「…はい」
少し経ち、俺たちはクレーンゲームをしていた。
「ちょっと両替してくるー」
両替機に向かい歩いていると「先輩!」と磯村が突然腕を掴んだ。
「ついて来てください」
「ええええっ!?」
連れて来られたのは、奥にあるプリクラコーナー。磯村の友人たちが中で撮っている。
「ひとポーズだけ許可取ったんで!」
「は、え?なに!?」
友人たちはプリ機の外に出て、入れ替わりで中で2人きりになる。
「先輩、カメラ向いて!」
「えええ」
シャッター音が響く。
撮影が終わり呆然とする俺に磯村が説明する。
「プリクラって、男子のみ禁止が多いじゃないですか?だから、先輩と撮れるチャンス今しかないと思って、みんなにお願いしたんですよ」
いやいや、何で友達許可してんのー。
「すみません、いきなり。また画像送りますね!」
「…。」
磯村の友人たちに会釈し、両替機に戻った。
まじで意味分かんない。変なとこ強引なの何なの…。
夜、友達と別れ、徒歩で帰っているとスマホに通知がくる。磯村から約束通りプリ画像が送られてきた。笑顔の磯村と驚いている俺のツーショット。たくさんのハートスタンプで落書きされていて、目は普段より大きくなっている。
「誰だよ、これ…」
画像のあとに『念願の初ツーショット』とメッセージが添えられている。
ツーショットなんて部活で会うんだし、いつでも撮れるじゃん…。
「…いや、そもそも撮らなくてもいいんだけどね」
数日後。球技大会を迎え、体育館やグラウンドでは体操服姿の生徒たちが気合を入れている。
俺はグラウンドで野球に出場していた。打者としてバットを構えている俺は、半袖、ロングパンツ姿。
ゆっくり走るためには、ヒットかホームランかぁ。
そう思いながら打った球は、外野手間を抜けた。
…ラッキー!
ゆっくりと一塁へ行く。
「ナイスヒットー!!」
応援席から磯村の大きな声がして確認すると、走って来たであろう息切れ気味の磯村がいた。
ー何でいるの…。
出番が終わり、チームのところへ戻ろうとしたところへ磯村が駆けてくる。
「先輩!」
「あ、お疲れー。磯村ってバレー出るんでしょ?ここにいたらダメじゃん」
「そうですよ!バレーです。体育館です。バスケの横で試合です。…だから!!バレーにしたのに!先輩がバスケに出ると思って!!横から見ようと思って!!」
「…え?バスケ出るなんて一言も言ってないし」
「そうですけど。絶対バスケだと思ったんです!だって…っ」
「おい、磯村!試合間に合わねーぞ!」
チームメンバーが磯村を連れ戻しに来た。
連れて行かれる磯村に手を振りながら
「濱家がバスケ出てるから俺の代わりに応援しててー」
と伝え、チームの待機場所に戻った。
「バスケねぇ…」
しばらくして、サッカーの応援をグラウンドで濱家としていた。
「まさか野球が決勝に残るなんてな」
「まさかだよねー。楽できると思ったら想像以上に出なきゃだった。そっちは惜しかったんでしょ?」
「最後のスリーポイントが決まってれば3位決定戦にいけたのに」
「現役バスケ部は出られないし、仕方ないよ。…磯村のバレーはどうだった?」
「あー、アイツ背あるのにセッターしてたわ。アタック打つ方が向いてそうだけど」
「へぇ。セッターって必ずボール触るから大変そー」
応援に行けばよかったかな…?
全ての試合が終了し、グラウンドでは閉会式が行われていた。校長先生が結果発表を始める。
「各競技の優勝、準優勝と総合優勝を発表します。サッカーの優勝は2年3組、準優勝は3年4組」
歓声が響く。
「バレーの優勝は3年1組、準優勝は1年2組」
…2組って磯村のクラスだよね。
「バスケの優勝は2年1組、準優勝は3年5組。テニスの優勝は1年3組、準優勝は3年4組。野球の優勝は3年4組、準優勝は3年3組。そして最後に総合優勝は…3年4組です!おめでとう!」
うちのクラスは大歓声を上げ、俺は後ろの濱家とハイタッチをした。
閉会式が終わり、グラウンドから教室へ移動中。
「おめでとうございますー!」
俺と濱家のところへ磯村が来た。両手数本ずつテーピングをしているのが視界に入る。
「え、指…」
「わ、大丈夫か!?」
「トスやブロック頑張ったら、突き指しちゃって。そこまで痛くはないんですけど」
痛そー…。
「え、それ箸とか持てんの?」
「軽くなら曲げられますし、パン食べるようにするんで!」
…すっ、濱家と話す磯村の指先を軽く持った俺。
「え」
「…痛いの痛いのお空に飛んでいけー」
指先を見つめたまま呟いた。
「…お大事にね。じゃあ、お疲れー」
「あ…はい」
数日後の昼休み。
「あ」
偶然、購買で磯村と会った。磯村の腕の中には、たくさんのパンがある。
「お疲れ様です!」
「お疲れー。それ全部食べるの?」
「パンだとすぐお腹空いちゃうんで、多めに買ったんです!」
「そっか」
「先輩もパンですか?」
「うーん、パンかおにぎりで迷ってるー」
「なら一緒にパン食べましょう!好きなの選んでください!」
持っているパンをアピールしてくる。
「いやいや…」
天文部の部室でパンを食べる俺たちは、椅子を横に並べて座っている。
「昼休みも使えるんですね」
「今日はたまたま俺が鍵持ってたから。普段は軽部先生か濱家が持ってるから、昼休みに使うのはあんまないよ」
「ラッキーでした。まさか2人きりで食べられるなんて」
「…磯村って、思ったことまんま口に出すタイプだよねぇ」
「そうですね。そのせいで怒られることもありますけど」
「あはは。バカ正直なのかわいいじゃん」
「え、かわいい?」
「…うん、かわいいよ?」
…あれ、なんか違った?
「俺、男ですけど、好きな人にかわいいって言われたら嬉しいんだって知りました」
「かわいいぐらいなら、いつでも言ってあげるよー」
「ほんと昨日から何なんですか。俺の心臓もちませんよ…」
「?」
「指がこうなっちゃって、手繋げないって落ち込んでたんですけど…」
磯村は身を乗り出し、優しく抱きしめてくる。
「これなら出来ますね…」
「…。」
同じ男なのに、包まれている感じがする。俺が小さいから?こいつが大きいから?強く抱きしめていないのに体温が伝わってくる。
ドキドキする中、チャイムが鳴り響いた。
「…予鈴鳴ったよ…」
「あと少しだけ…」
指が治ったら手繋ぎに戻るのかな。それとも次の段階に進むのかな。ハグの次は何だっけ…あぁ、キスか。…ていうか俺、今何%?
濱家は校舎横のグラウンドを見ている。俺はベランダの壁に寄りかかり、教室内に体を向けていた。
「週間天気予報、金曜晴れっぽかったな」
「だねー。よかったよかった。まだ夜は冷えるから、風邪引かないように気をつけないと」
「せんぱーい!!」
グラウンドから声がして振り向くと、笑顔で大きく両手を振る体操服姿の磯村がいた。
「…。」
仕方なく小さく手を振り返す。
「なんか飼い主を見つけて喜ぶ大型犬みたいだな」
濱家にそう言われ、磯村の犬の姿を想像して納得してしまう。
クラスメイトと楽しそうに話している磯村をぼんやり見た。
相変わらず毎日連絡が来る。連絡というより、磯村の日記みたいになってるけど。
「磯村は5時間目体育か。…曽根っち、何に立候補すんの?」
俺たちの次の授業は、来月にある球技大会の種目決め。
「んー、サッカーか野球かなぁ。出番少なそうだし。濱家は?」
「バレーかバスケだな」
「そっか」
金曜日の放課後。天文部部室では、歓迎会が行われていた。部員全員が参加し、テーブルの上には大量のお菓子と飲み物。
「3人とも入部してくれてありがとー!改めて天文部にようこそ!!かんぱーい」
「かんぱーい」
俺の隣には磯村が座っている。肩と肩が触れる距離だ。
…当たり前のように隣に座ってるし。
「楽しみだなぁ。今夜は何が見えるんですか?」
無邪気に聞いてから磯村。
「しし座かなぁ」
「え!俺、しし座です!!」
「夏生まれなんだ。なんかぽいねー」
「てっきり夏に見える星座かと思ってました」
「12星座と空の星座は、イコールじゃないからねぇ」
「へぇ。…先輩は誕生日いつですか?」
「俺は…」
「はい、そこ!歓迎会なんだから2人でいちゃつかない!イチャイチャすんのは、夜の自由タイムにしてくださーい」
濱家が会話に割り込んでくる。
「夜の自由タイム…。分かりました!」
磯村は何故か目を輝かせる。
…何が分かったんだよ…。
夜になり、みんなで屋上へ移動した。大型望遠鏡の近くで話す濱家の隣には、顧問の軽部先生もいる。
「今日はもう組み立てとか調整をしてるけど、来週以降は1年生にも、望遠鏡の組み立てや使い方、観察の仕方とか伝えるから。今日はとりあえず、星を見て楽しむのに専念して」
部員が順番に望遠鏡を覗き込む。軽部先生は活動の様子をカメラで撮影している。
「うわー!すげーー!」
感動する1年生の様子に微笑みながら、空を見上げた。
今日は肉眼でも綺麗に見えるなー。新月ありがとー。
望遠鏡を見てきた磯村が横に来た。
「しし座見れました!!めちゃくちゃ凄かったです!感動です!」
「ふふ。魅力が伝わってよかった」
空を見上げた磯村は呟いた。
「今日は、ほぼ月ないのか…」
「そのおかげで星が綺麗に見えるんだよー」
「じゃあ、満月の日は見えづらいんですか?」
「新月の時よりはね」
「そうなんですね。…なんか、夜景デートしてるみたいですね!」
この状況でその発想になるって…。
「俺も望遠鏡してこよーっと」
「じゃあ、今から片付けまでの10分間、自由タイムでーす!星見るなり、雑談するなり、好きに過ごしてー!あ、移動範囲は屋上と4階のみな」
「はーい」
ートイレ行こっと。
トイレから屋上へ戻ろうとすると前から磯村が現れた。
「探しました。せっかくの夜の自由タイムなのに…」
「そのワード気に入ってるだけじゃん」
進もうとする俺の腕を掴むんできた磯村。
…!!
「ちょっと来てください」
誰もいない部室に2人で入った。
「残り時間は、ここから星見ましょう!」
磯村は窓を開け、椅子を並べた。
仕方なく座ると迷わず横に座ってくる。そして、何も言わずに手を繋がれ、思わずドキッとした。
ー恋人繋ぎ…。
星空を見ながら磯村に聞く。
「…手繋ぐの好きなの?」
「好きというか…男として好きな相手に対しては、ちゃんと段階を踏まないとと思って。まずは手、次はハグ、それからキスして、大人の階段登りたいなと」
大人の階段…童貞なのか。
「あの…告白した日が0%だとして、今って俺への好き何%ですか?」
…何%になれば次の段階にいくんだろう。絡んだ指が熱くなるのは気のせいなのか…。
「…5%かな」
日曜日、自宅の部屋でベットに寝転び、スマホの磯村とのトーク画面を見ていた。
連絡取るのが日常になってきてる…。俺が返さない日があるとはいえ、毎日連絡来てもそんなに苦じゃないなー。
「…5%…」
磯村の俺への好きって、何%なんだろう。100?それ以上?…って何考えてんの俺。
ゴールデンウィーク中の今日は、大型ショッピングモールのゲームセンターで、地元の友達5人と遊んでいる。
楽しそうにエアホッケーをしている友達を見ていた。
「高3になっても男だらけでゴールデンウィーク過ごすと思ってなかったわ」
「別にいいじゃーん。来年は集まれないかもしれないし」
「まぁなー。でもさ、彼女じゃなくても、せめて男女グループで遊ぶとかしたかった!」
「あははー。俺んとこは男子校だから皆無だけど、そっちは共学なんだから可能性あるんじゃない?」
「そうだと思ってたのに全然だった。あー、俺もあんな風に…」
嘆いている友達の視線の先を見て驚いた。
…!!
そこにいたのは磯村だった。周りに男女数人がいる。
…私服姿初めて見た。つうか、気付かれたら面倒そうだな。
バレないように下を向いたが、磯村たちが近づいてくる気配がした。
「…先輩?」
ーあぁー…。
気づかれてしまい、仕方なく磯村を見る。
「…あ、磯村じゃん、やっほー」
「びっくりしたぁ!偶然…いや運命ですね!」
「…。」
「なに、知り合い?」
「うん、学校の後輩」
友達に会釈する磯村。
「ねぇ、そろそろ行こ?」
磯村と一緒にいた女子が、磯村のすぐ横に来て服を軽く引っ張った。
…距離近くない?
「じゃ、また学校でねー」
「…はい」
少し経ち、俺たちはクレーンゲームをしていた。
「ちょっと両替してくるー」
両替機に向かい歩いていると「先輩!」と磯村が突然腕を掴んだ。
「ついて来てください」
「ええええっ!?」
連れて来られたのは、奥にあるプリクラコーナー。磯村の友人たちが中で撮っている。
「ひとポーズだけ許可取ったんで!」
「は、え?なに!?」
友人たちはプリ機の外に出て、入れ替わりで中で2人きりになる。
「先輩、カメラ向いて!」
「えええ」
シャッター音が響く。
撮影が終わり呆然とする俺に磯村が説明する。
「プリクラって、男子のみ禁止が多いじゃないですか?だから、先輩と撮れるチャンス今しかないと思って、みんなにお願いしたんですよ」
いやいや、何で友達許可してんのー。
「すみません、いきなり。また画像送りますね!」
「…。」
磯村の友人たちに会釈し、両替機に戻った。
まじで意味分かんない。変なとこ強引なの何なの…。
夜、友達と別れ、徒歩で帰っているとスマホに通知がくる。磯村から約束通りプリ画像が送られてきた。笑顔の磯村と驚いている俺のツーショット。たくさんのハートスタンプで落書きされていて、目は普段より大きくなっている。
「誰だよ、これ…」
画像のあとに『念願の初ツーショット』とメッセージが添えられている。
ツーショットなんて部活で会うんだし、いつでも撮れるじゃん…。
「…いや、そもそも撮らなくてもいいんだけどね」
数日後。球技大会を迎え、体育館やグラウンドでは体操服姿の生徒たちが気合を入れている。
俺はグラウンドで野球に出場していた。打者としてバットを構えている俺は、半袖、ロングパンツ姿。
ゆっくり走るためには、ヒットかホームランかぁ。
そう思いながら打った球は、外野手間を抜けた。
…ラッキー!
ゆっくりと一塁へ行く。
「ナイスヒットー!!」
応援席から磯村の大きな声がして確認すると、走って来たであろう息切れ気味の磯村がいた。
ー何でいるの…。
出番が終わり、チームのところへ戻ろうとしたところへ磯村が駆けてくる。
「先輩!」
「あ、お疲れー。磯村ってバレー出るんでしょ?ここにいたらダメじゃん」
「そうですよ!バレーです。体育館です。バスケの横で試合です。…だから!!バレーにしたのに!先輩がバスケに出ると思って!!横から見ようと思って!!」
「…え?バスケ出るなんて一言も言ってないし」
「そうですけど。絶対バスケだと思ったんです!だって…っ」
「おい、磯村!試合間に合わねーぞ!」
チームメンバーが磯村を連れ戻しに来た。
連れて行かれる磯村に手を振りながら
「濱家がバスケ出てるから俺の代わりに応援しててー」
と伝え、チームの待機場所に戻った。
「バスケねぇ…」
しばらくして、サッカーの応援をグラウンドで濱家としていた。
「まさか野球が決勝に残るなんてな」
「まさかだよねー。楽できると思ったら想像以上に出なきゃだった。そっちは惜しかったんでしょ?」
「最後のスリーポイントが決まってれば3位決定戦にいけたのに」
「現役バスケ部は出られないし、仕方ないよ。…磯村のバレーはどうだった?」
「あー、アイツ背あるのにセッターしてたわ。アタック打つ方が向いてそうだけど」
「へぇ。セッターって必ずボール触るから大変そー」
応援に行けばよかったかな…?
全ての試合が終了し、グラウンドでは閉会式が行われていた。校長先生が結果発表を始める。
「各競技の優勝、準優勝と総合優勝を発表します。サッカーの優勝は2年3組、準優勝は3年4組」
歓声が響く。
「バレーの優勝は3年1組、準優勝は1年2組」
…2組って磯村のクラスだよね。
「バスケの優勝は2年1組、準優勝は3年5組。テニスの優勝は1年3組、準優勝は3年4組。野球の優勝は3年4組、準優勝は3年3組。そして最後に総合優勝は…3年4組です!おめでとう!」
うちのクラスは大歓声を上げ、俺は後ろの濱家とハイタッチをした。
閉会式が終わり、グラウンドから教室へ移動中。
「おめでとうございますー!」
俺と濱家のところへ磯村が来た。両手数本ずつテーピングをしているのが視界に入る。
「え、指…」
「わ、大丈夫か!?」
「トスやブロック頑張ったら、突き指しちゃって。そこまで痛くはないんですけど」
痛そー…。
「え、それ箸とか持てんの?」
「軽くなら曲げられますし、パン食べるようにするんで!」
…すっ、濱家と話す磯村の指先を軽く持った俺。
「え」
「…痛いの痛いのお空に飛んでいけー」
指先を見つめたまま呟いた。
「…お大事にね。じゃあ、お疲れー」
「あ…はい」
数日後の昼休み。
「あ」
偶然、購買で磯村と会った。磯村の腕の中には、たくさんのパンがある。
「お疲れ様です!」
「お疲れー。それ全部食べるの?」
「パンだとすぐお腹空いちゃうんで、多めに買ったんです!」
「そっか」
「先輩もパンですか?」
「うーん、パンかおにぎりで迷ってるー」
「なら一緒にパン食べましょう!好きなの選んでください!」
持っているパンをアピールしてくる。
「いやいや…」
天文部の部室でパンを食べる俺たちは、椅子を横に並べて座っている。
「昼休みも使えるんですね」
「今日はたまたま俺が鍵持ってたから。普段は軽部先生か濱家が持ってるから、昼休みに使うのはあんまないよ」
「ラッキーでした。まさか2人きりで食べられるなんて」
「…磯村って、思ったことまんま口に出すタイプだよねぇ」
「そうですね。そのせいで怒られることもありますけど」
「あはは。バカ正直なのかわいいじゃん」
「え、かわいい?」
「…うん、かわいいよ?」
…あれ、なんか違った?
「俺、男ですけど、好きな人にかわいいって言われたら嬉しいんだって知りました」
「かわいいぐらいなら、いつでも言ってあげるよー」
「ほんと昨日から何なんですか。俺の心臓もちませんよ…」
「?」
「指がこうなっちゃって、手繋げないって落ち込んでたんですけど…」
磯村は身を乗り出し、優しく抱きしめてくる。
「これなら出来ますね…」
「…。」
同じ男なのに、包まれている感じがする。俺が小さいから?こいつが大きいから?強く抱きしめていないのに体温が伝わってくる。
ドキドキする中、チャイムが鳴り響いた。
「…予鈴鳴ったよ…」
「あと少しだけ…」
指が治ったら手繋ぎに戻るのかな。それとも次の段階に進むのかな。ハグの次は何だっけ…あぁ、キスか。…ていうか俺、今何%?



