この愛は、星よりも眩しい

 3年生になったばかりの4月。うららかな春の日差しに包まれながら、俺は一体何をしているんだろう…。

 「好きです!付き合ってください!」
誰もいない校舎裏で、俺は告白をされている。
 男子校なら男同士の恋の1つや2つあるとは思う。あるとは思うんだけど…入学して数日の見知らぬ後輩に告白されるって、どゆこと?
「…。」
困惑している俺を目の前の後輩は、キラキラした瞳で見つめてくる。
「あー…えっとー、俺、君のこと全然知らないし、いきなり付き合うのはちょっとぉ…」
戸惑い過ぎて、遠回しな断り方になってしまった。
「…分かりました」
ーうんうん、お互い無かったことにするのが1番。
「ならオレのこと知ってください!」
「…え?」
「先輩にオレの全てを伝えます!好きになってもらえるようにガンガンアピールしていきます!」
真剣な眼差しを向けられ、驚いてしまう。

…いやいやいや、何言ってんのー!?アピールってなにー!?

 「先輩って天文部ですよね?オレ、天文部入ります!明日、入部届出すんで」
 え、なんで天文部なの知ってるの?…あ、昨日の部活紹介か。
「じゃ、明日からよろしくお願いしますっ!失礼します」
 お辞儀をして去っていく名前も知らない後輩を見ながら、俺はその場に立ちすくんだ。
「えー、なんなの〜…」



 次の日の朝、3年4組の教室に入ると濱家が挨拶をしてくる。
「曽根っち、おはよー」
「おはよぉ」
 濱家の横の席に座り、机の上に置いたカバンから教科書やノートを取り出しながら話しかけた。
「たぶん今日、入部届け出すやつがいると思うー」
濱家は天文部の部長だ。
「え!まじで!?もしかして、曽根っち勧誘してくれたん!?」
「いやー…別に…」
あれは勧誘に入るのか?
「なんかー、俺のこと好きだから入るらしい」
「は!?え、なに、知り合い?」
「ぜーんぜん」
「つまり、星目当てじゃなくて、曽根っち目当てかよぉー」
「まぁ、俺らも最初は星とか興味なかったじゃん。知るうちに好きになるかもよー」


 昼休み、教室で濱家たちと弁当を食べていると「失礼しまーす!」とドアから元気な挨拶が聞こえた。昨日告白してきた後輩だ。俺を見つけ、パッと顔が明るくなった気がする。
 「先輩!入部届け書いてきました!」
俺の前まで来て、ルンルンで用紙を渡してきた。
 入学早々1人で3年の教室に来られるなんてすごいな。
「俺じゃなくてー、こっちの部長に出して」
俺は濱家を指差す。
 口にご飯をたくさん含んでいた濱家は、ひとまず会釈し、ごくりと飲み込んだ。
「部長の濱家です、よろしく」
「磯村です!これお願いします」
ー磯村って言うんだ。
「顧問の先生に確認してもらっておくから、放課後部室に来てもらってもいい?隣の棟の4階にあるから」
「分かりました!じゃ、失礼します」
 磯村が教室を出て行く後ろ姿を複雑な気持ちで見ていた。
ーほんとに入部するとはね…。


 放課後、天文部の部室で濱家と椅子に座って雑談していると磯村がやって来た。
「失礼します!」
「お疲れ!」
「お疲れー」
「ここ座ってもらっていい?」
 濱家は磯村に自分の前の椅子に座るように指示をした。俺は、ぼんやり窓の外を眺めている。
「一応確認なんだけど、昨日から1週間は仮入部期間なの知ってる?」
「はい!…じゃあ、まだ入部は無理ってことですかね?」
「あ、いや、入部はできるんだけど。他の部活見たり、天文部の雰囲気とか見ずに決めて大丈夫かの確認をしたくてさ」
「それは大丈夫です!曽根先輩がいるならどの部でも入る気でいたんで!」
「…。」
俺も濱家も迷いのない磯村に圧倒される。
「ちなみに磯村くんは、星とか宇宙好き?」
「好きです!あ、でも星より月の方が好きですね」
ー月…。
「月か、いいよな。…この前の部活紹介でも説明したんだけど、うちは運動部や他の文化部みたいに活動日数が多いわけじゃないから、部室は活動日と俺ら3年が使ってる時しか開いてないのは覚えておいて」
「わかりました」
「基本的に活動日は、毎週金曜日。観測は月に一度金曜の夜に屋上でする。バイトするならそれ以外の曜日でしたほうがいいかな。部員は3年が4人、2年が5人。…ここまででなんか質問ある?」
「質問……あ!部内恋愛はありですか!?」
「…恋愛は個人の自由です」
磯村の的外れな質問に真顔で答える濱家は、完全にふざけている。
「曽根先輩もそう思いますか!?」
磯村は前のめりで聞いてくる。
「片思いは自由だと思うよぉ。ま、とりあえず入部してくれてありがとぉ。これからよろしくー」
「よろしく」
「よろしくお願いします!」

 磯村が部室を出て行った後、濱家は不思議そうに聞いてくる。
「曽根っち、なんであんなに好かれてんの?」
「俺が聞きたいよー」
ほんとまじで意味分かんない。謎すぎ。


 校門前で、自転車に乗る濱家に手を振り、別方向へ歩き始めた。
 スマホを見ながら歩いていると「先輩!」と声がする。前を見ると自転車に乗った磯村がいた。
「なにしてんの?」
「さっき連絡先聞き忘れたと思って待ってました!」
「俺のじゃなくて濱家の聞かないとー。ま、いいや。俺と交換して、部活LINEに招待すればいっかー」
「ありがとうございます!」
一旦みんなに磯村のこと伝えてから招待したほうがいいよね。濱家に託そーっと。
「あの!毎日連絡してもいいですか?」
…なぜ…?
「それは何を連絡すんのぉ?」
「その日あった出来事とか、お互いのこととか、見せたい写真とか!」
カップルじゃん…。
「俺、マメなタイプじゃないから、何日も返さないとかあるけどぉ」
「全然大丈夫です!返信なくても勝手にこっちから連絡するんで!」
…鬼メンタル。
「そういえば先輩、徒歩なんですね。バス通学ですか?」
「うん、バスだよー」
「良かったら後ろ乗りますか?送りますよ!」
「…いや、大丈夫ー」
「そうですか。じゃ、また連絡します!さようなら」
「うん、じゃーねー」
磯村は自転車に乗り帰って行く。
…グイグイ来るけど、しつこくはないよなぁ。



 数日後、2時間目終わりにスマホを確認した俺は、磯村からのトーク画面を見て呆れている。
 まじで毎日連絡してくるんだけど…。
 主に磯村からの長文+大量のスタンプ。俺からはシンプルな返信のみ。磯村からの内容は、今日の夕飯は好物の和風ハンバーグでした、先輩は何が好きですか?とか、苦手な数学がさらに難易度高くなってて嫌です、今度教えてください、とか。
 会った時に話すこと無くなるとか思わないのかな。


 昼休み、教室で弁当やパンを濱家たちと食べている。
「今んとこ仮入部3人か。いや、磯村は確定だから2人だな。明日の活動日で入るか決まるだろうから、曽根っちも後押しよろしくな」
「あいよー」
 本当は夜の活動日を知ってもらうのが1番いいんだけどねぇ。とはいえ、明日天気微妙だったし、夜は難しいかー。


 放課後、天文部の部室で明日の準備のため、1人で作業をしていた。
 せっかくなら綺麗な星空の写真とか見せたいよねー。確か、この棚に…。
 棚の上の段にあるファイルを取ろうと背伸びをした時だ。
「これですか?」
自分の手より高い位置で誰かの手が重なった。
「え…」
振り向くと磯村が俺を覆うように立っている。
「どうぞ」
お目当てのファイルを渡される。
「あ、ありがと。…こーゆー時、背高いの良いよねー。ところで、何でいるの?活動日は明日だよぉ」
「活動日じゃなくても、3年生が開けてる日もあるって言ってたんで、曽根先輩に会えるかもしれないから、毎日部室は覗くようにしてるんですよ!そしたら今日は開いてたし、まさかの先輩がいたんでラッキーです!」
磯村はとびっきりの笑顔を見せる。
「…。」
…こいつの眩しさは何なんだろう。
「明日の準備ですか?」
「あー、うん」
「手伝います」
「ありがと」

 作業をしながら他愛ない話をしていた。
「先輩ってバイトしてるんですか?」
「してるよー」
「何の…いや、当てます。んー、ガソスタ!」
「ぶー」
「コンビニ!」
「ぶっぶー」
「…焼肉屋!」
「当てる気ないでしょ」
「だってどのコスプレ姿の先輩も素敵過ぎますもん!」
コスプレ?
「降参です。正解お願いします!」
「ふっ。教えなーい」
「えー!せめてヒントを!」
「別に俺が何のバイトしてようが関係ないじゃーん」
「ありますよ、ありまくりです」
手を止めた磯村は、俺をじっと見つめる。
「好きな人のことは、何だって知りたいじゃないですか」
ーえ…
 俺も思わず手が止まる。
「何色が好きとか、今ハマってることとか、オレは先輩のどんなことでも知りたいんですよ」
そう言った磯村は優しく微笑んだ。
ーこんな表情するんだ…。
 「あ、やっぱり作業してたか」
2人の空気を遮るように濱家が現れた。
「お疲れ様です!」
「お疲れ。曽根っち、どこまで進んだ?」
「1年に見せる資料はピックアップしたよー」
「おぉ、さんきゅ。助かった。残りは俺がやるから2人は帰って大丈夫!」
「1人で大丈夫ー?」
「うん。また明日な、お疲れ」
「また明日ー」
「お先に失礼します」

 階段を2人で降りていく。
「あの、バス停まで一緒に帰りたいんで、ゆっくり歩いてて下さい。オレ、急いで自転車取ってきます」
「急がなくていいよぉ。一緒に自転車置き場に行けばよくない?」
「え、一緒に来てくれるんですか!?」
分かりやすく声が弾むなぁ。
「うん」
 告白を除けば、普通に素直で良い後輩だよなぁ。背もあるし、顔も悪くないし、女子にモテそうなのに…なぜ俺?


 バス停に向かって、自転車を押す磯村と並んで歩く。
「仮入部の人たち入るといいですね」
「そだねー。磯村のクラスの子は、やっぱり運動部希望が多い?」
「そうですね。サッカー部やバレー部が人気ですね」
「あー、強いもんねうちのサッカーやバレー」 

 バス停に着いた。
「次のバス何分ですか?」
「15分かな」
俺はいつものようにバス停のベンチに座った。
「じゃあ、一緒に待ちます」
自転車を停めた磯村は、隣に座ってくる。
「いやいや、帰りなよ」
「2人で会える時間を無駄にしたくないんで。迷惑ですか?」
「…迷惑ではないけど…。あのさ、本当に恋愛として俺が好きなの?」
「もちろんです!手繋いだり、キスしたりしたいって思ってます!」
ーまた大胆なことを言ってくる…。
「男同士でそんなことしてもドキドキしないじゃん。友達とじゃれあってるのと一緒だよ」
「相手が男でも、それが友達なのか好きな人なのかで全然違いますよ…」
 磯村は突然俺の手をそっと握った。
…!?
「オレ今、すげードキドキしてます。…先輩はどうですか?」
「…別に何も…」
こいつの手大きいな…。
「ならドキドキしてもらえるように頑張ります!そんで、絶対好きになってもらいます!」
笑顔でそう言われた時、バスが到着した。
「…俺、行くね。また明日」
「あ,はい。お疲れ様でした!」

 歩道側の窓際席に座り、外を見た。走り出すバスを見送る磯村は大きく手を振っている。
 他の人もいるのに…恥ずかしいんだけど。
照れながら小さく手を振り返した。

 バスの車内で、窓の外を眺めている俺は、握られた方の手をじっと見ている。
 ドキドキ…してなくもないような…。



 翌日は金曜日で、放課後に天文部の活動が行われている。部室内では、12人の生徒が長テーブルを囲み、椅子に座っている。
 「今日は顧問の軽部先生は不参加です。じゃ、進めます。最初は新入生の3人に天文部で過去に撮った星空の写真や校外活動の様子を見てもらおうと思います」
 テーブルの上に写真や資料を広げ、副部長の室岡が話し始める。
「うちの高校は、大型天体望遠鏡があるから迫力のある星空が楽しめるんだよ。郊外活動はみんなでプラネタリウム見に行ったり、天文台へ観察に行ったり」
「楽しそうですね」
「うん、めちゃくちゃ楽しいよー。夏休みは、観測合宿っていう学校に泊まれるイベントがあるし」
「泊まりですか!?」
俺の発言に磯村は勢いよく食いつく。
「もちろん、全ての参加は強制じゃないから都合の合うときに参加すれば大丈夫。ま、入部するかしっかり考えてみて。…ちなみに来週の金曜は夜活動の日なんだけど、部活前に部室で歓迎会予定してるから!」
部員確保に向け前のめりになる濱家を阻止する。
「圧かけなーい」


 今日のやることが終わり「失礼します」と1、2年生は部室を出て行く。
「お疲れー、気をつけて帰ってねー」

 残った3年の4人で写真を片付ける。
「どうかなー。入ってくれるかな!?」
「好感触だった気はするけどなぁ」
「年度途中から入る人もいるし、気楽にいこうよぉ」
「だな。つうか曽根っち、先帰っていいよ」
「え、なんで?」
「ほら」
 濱家に廊下を見るよう顔の動きで指示をされ、廊下を見ると磯村の姿があった。
…待ってるんかーい。一緒に帰る約束してないけど…。
「あーそっか。磯村は曽根の彼氏か。後は俺らに任せてラブラブ帰れよ」
室岡は淡々と言う。
「彼氏じゃないから。…お言葉に甘えて先に帰るけど。ありがとぉ。お疲れー」
「お疲れ」

 廊下に出て磯村に声をかける。
「ここで待つの禁止ー」
「すみません。次は違う場所にします」
待つのはやめないんだ…。
「今そんなに人いないんで…階段降りるまで」
当たり前のように俺の手を握り、歩き出す磯村。
「…。」
 磯村は今ドキドキしてるんだろうか。勝手に繋いできたくせに、優しく握ってくれているのが分かる。

 少しだけ前を歩く磯村の顔を見た。
 磯村のドキドキが手から伝染したんだろうか。ほんの少しだけ…本当に少しだけドキドキしているような…。おそらく今、目が合ったら…。
 磯村が振り向き、目が合いドキッとした。恥ずかくて、目を逸らしてしまう。

…俺、今どんな顔してる?